気付いた時には動けない!見えない、嗅げない、聞こえない一酸化炭素中毒の脅威
暖房や車の排気ガスでも起きる
北日本を中心に、再び強い冬型の気圧配置となり、各地で暴風雪となっている。そんな中、今年は、痛ましい事故が相次いで起きている。一酸化炭素中毒による事故死である。1月8日には、秋田県能代市にある住宅で60代の夫婦が倒れているのが見つかり、その場で死亡が確認された。家の中には発電機があり死因は一酸化炭素中毒とみられている。10日には、石川県内灘町で、周囲に多くの雪が積もった車の中から60代男性が意識不明の状態で見つかり、その後死亡が確認された。大雪で動けなくなり車内で一酸化炭素中毒になった可能性があるとみられている。さらに、18日には、千葉県いすみ市で「かも猟」のために山林に入った男性3人が、テントの中で死亡しているのが見つかり、こちらも一酸化炭素中毒の可能性があるという。
東京都消防庁によると、東京都だけで、平成27年から令和元年までの過去5年間で、住宅、共同住宅において27件の一酸化炭素中毒事故が発生している。また、一酸化炭素中毒により救急搬送された人のうち約3割が、生命の危険が強いと認められる重症以上と診断されている。
ちなみに、全国で毎年、一酸化炭素中毒事故が何件発生しているか正確な数字はない。ただし、住宅火災の死因でも、火傷に次いで一酸化炭素中毒・窒息が多く(消防白書によると火災の死因のうち30%程度が一酸化炭素中毒)、逃げ遅れの原因として就寝者が一酸化炭素中毒により避難が困難になることも指摘されている。2019年に発生した京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオが放火され炎上した事件でも、遺体で見つかった33人のうち28人が一酸化炭素中毒の疑いで死亡した可能性の高いことが朝日新聞によって報じられている。企業でも近年、食品工場及び業務用厨房施設等において都市ガス及び液化石油ガスの消費設備による一酸化炭素中毒事故が発生し、経済産業省が注意を呼び掛けている。
一酸化炭素中毒の仕組み
しかし、どうして毎年、多くの人が一酸化炭素中毒により犠牲になっているにもかかわらず、その数が減らないのか。東京消防庁によれば、「一酸化炭素は、無色・無臭で、水に溶けにくく、アルカリ水溶液やエタノールに溶ける可燃性の気体で、火災、爆発事故及び湯沸し器、練炭等の不完全燃焼の際に発生する。ヘモグロビンとの親和性は、酸素の約200倍といわれており、肺に取り込まれた空気中に一酸化炭素が含まれていた場合、ヘモグロビンの多くが一酸化炭素と結合し、酸素と結合できない状態となる。この結果、体内に酸素が行き渡らない状態となり、いわゆる内部窒息と呼ばれる状態となって毒性を発揮し、死に至る場合がある(参考文献:火災便覧第4版 日本火災学会編)」とされている。
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/topics/201411/co.html
日本ガス石油機器工業会がホームページに公表している表によると、その症状は、一酸化炭素中毒の濃度によって、頭痛→めまい→失神→死亡となっており、約1.28%という濃度なら3%で死亡に至る。ちなみに、この数値は、日本の火災便覧やアメリカでも共通で、看護学会の論文がもとになっているようである。
この表から考えられることは、気付いた時には、失神して、すでに動けなくなっているということ。特に、就寝中などは気付かずにそのまま中毒ということも起こり得る。欧米でも多くの一酸化炭素中毒事故が発生している。アメリカでは、毎年数百人が亡くなるとして、見えない、嗅げない、聞こえない事故として注意を呼び掛けている。
一酸化炭素は、不完全燃焼により発生すると書いたが、ほとんどの燃焼系機器で発生すると考えた方がよい。そもそも空気中には二酸化炭素が多く含まれているし「完全燃焼」ということは起きない。さらに、燃焼が進めば進むほど、酸素の割合は減るため、不完全燃焼は進む。「刺激臭がするから大丈夫」と考えている人も多いかもしれないが、刺激臭がするのは、不完全燃焼した物質の匂いであって一酸化炭素の匂いではない。
・石油ストーブ/ファンヒーター
・薪、炭
・ガス湯沸かし器
・コンロ
・燃焼系発電機
など、様々な設備の使用時に注意が必要だ。大雪で車のマフラーが塞がっているのに気づかず、車内に一酸化炭素が充満してしまい、事故に至るケースもある。
後遺症も深刻
対策として東京消防庁では、十分な換気により、室内の一酸化炭素濃度が下がることから、火気設備・器具を使用の際は換気扇の使用や、定期的に窓を開けるなどして換気を十分に行うこと。火気設備・器具を使用中に、少しでも異常を感じたら使用を中止するとともに、十分な換気を行うこと。不完全燃焼が起こると一酸化炭素が発生することから、火気設備・器具の定期的な点検と清掃を行いこと。発動発電機やバーベキュー用こんろなど、屋外での使用が想定されている火気器具等は、屋内では使用しないなど、火気設備・器具の使用方法を守ること、などを呼び掛けている。特に就寝時は石油ストーブなどの暖房をつけっぱなしにしないことが大切だ。一酸化炭素警報機を活用することも有効だろう(性能などはしっかり確認して購入すること)。
車中では暖房やエアコンをつける際は、外気導入モードにする、たまに窓を開け換気をすることなどの対策が有効だ。
死亡に関する点を特に強調して書いたが、後遺症も侮れない。酸欠と同じように考えられがちだが、一酸化炭素中毒は異なる。酸欠は酸素を補充すれば良くなるのに対し、一酸化炭素中の場合は一酸化炭素が、酸素の代わりに血液中に取り込まれた状態となるため治りにくく、死に至らなくても知能低下・記憶障害・行動異常などの後遺症が残ることが多いようだ。
暴風雪に加え、停電なども各地で起きていることから、改めて暖房機器などの使用時、車中で暖房をつける際は、一酸化炭素中毒の危険性を考えてもらいたい。