エンタメ誌の実情は…ゲーム・エンタメ系雑誌部数動向をさぐる(2020年10~12月)
部数公開誌は4誌のみのまま…部数現状
インターネットのインフラ化に伴い速報性が重要視され、ゲーム関連をはじめとしたエンタメ情報の提供媒体として、紙媒体の専門誌の立ち位置が危ぶまれる昨今。ゲームやエンタメ専門誌の部数動向を、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)から確認する。
まずは最新値にあたる2020年の10~12月期分と、そしてその直前期にあたる2020年7~9月期における印刷証明付き部数をグラフ化し、現状を確認する。
最大部数を示しているのは「Vジャンプ」で、このポジションは前期と変わり無し。他の雑誌と比べると群を抜いて部数が多い「Vジャンプ」の立ち位置は、少年向けコミック誌の「週刊少年ジャンプ」と同じようだ。
1年前の2019年10~12月期では「声優アニメディア」「メガミマガジン」「アニメディア」の3誌の部数が一度に非公開化された。いずれも学研プラス発行の雑誌で、現状でも電子版だけでなく紙媒体版でも定期的に刊行が行われており、休刊(準備)のために部数が非公開化されたわけではない。恐らくは発売元の判断で非公開化が実施されたのだろう。
似たような現象は以前「週刊アスキー」「電撃PlayStation」「ニュータイプ」でも起きており、やはり発売元の判断であった可能性がある。株式公開企業や大型企業による法的な公開義務は無いものの、すでに公開していた数字を非公開化する施策は残念と評せざるを得ない。また、突然の非公開化は他の雑誌でよく生じる「非公開化から休刊」パターンをイメージさせるため、読み手の健康にもよくない。
ともあれ現在印刷証明付き部数を提示しているゲーム・エンタメ系雑誌は、今期でも4誌。すでに公開サイトにおけるジャンル区分で「パソコン・コンピュータ誌」は皆無なのが現状。今後も減少傾向が続くようならば、「ゲーム・エンタメ」の定義で包括しえる、類似カテゴリの雑誌を加えることも検討せねばなるまい。
しかしながら類似の主旨を持つカテゴリが存在しそうにないのも悩みの種。類似・同一ジャンルの雑誌としては例えば「週刊ファミ通」「電撃Nintendo」「Nintendo DREAM」「MC☆あくしず」などが挙げられるが、いずれも印刷証明付き部数は非公開。残念ではある。
前四半期からの変化を確認
次に四半期、つまり直近3か月間で生じた印刷数の変化を求め、状況の確認を行う。季節による変化が考慮されないため、季節変動の影響を受けるが、短期間における部数変化を見極めるには一番の値となる。
前期比でプラスを示したのは2誌で、誤差領域(プラスマイナス5%以内)を超えた上げ幅は「声優グランプリ」のみ。一方マイナスを示したのは「PASH!」。「Vジャンプ」はプラスマイナスゼロ。
「Vジャンプ」は特集や付録で大きく上下感を見せるものの、長期的には部数減少の傾向にある。ここ数期でようやく底打ち、横ばいの動きに転じているような雰囲気。話題性のある付録で一時的な部数の引き上げを果たしても、それが継続するには至らないパターンが続いている。
ゲームそのもののプレイヤーが一定数存在することが前提となるが、ゲームと密接な関係にある付録を常につけることで雑誌の集客力を高めさせるのも、雑誌販売の一スタイルとして認識すべき方法論であり、「Vジャンプ」の必勝方程式として定着している。しかし部数動向を見るに、その方程式が必勝とは言い難い状況なのは否定できない。とりあえず15万部が底のような動きだが、ここから部数の回復を果たすことはできるのだろうか。
なお「Vジャンプ」では電子雑誌方式に関しては、紙媒体誌を購入した人限定で閲覧できる仕組み「購入者特典」の形での提供のため、電子書籍版のセールスが伸びたので今件値(紙媒体として印刷された部数)が減少しているとの解釈は難しい。販売スタイルは今でも原則として紙媒体の雑誌のみである。
前年同期比ではどうだろうか
続いて前年同期比を算出し、状況確認を行う。年単位の動きのため前四半期推移と比べれば長期間の動きの精査となるが、季節変動を気にせず、より正確な雑誌のすう勢を確認できる。
プラス誌は「PASH!」と「アニメージュ」の2誌。マイナスは2誌で、そのうち誤差領域を超えたマイナスを示したのは「Vジャンプ」のみ。
「PASH!」は前年同期比では大きなプラスを示している。
「PASH!」は特集記事や付録による部数への影響が大きく、部数変動が他誌と比べると大きくなる傾向がある。例えば2016年1~3月期は「おそ松さん」特需、2016年10~12月期は「ユーリ!!! on ICE」特需によるもの。今期が前年同期比で大きなプラスを示したのは、2期前の創刊10周年記念号としての「アイドリッシュセブン」特集などで大きく伸ばした部数の余韻が影響していると解釈してよいだろう。当然、その前期からは部数を大きく落としているため、前期比では大きなマイナスとなっている次第である。
日本国内の家庭用ゲーム機業界の市場は縮小を続けている。少なくとも利用者人口は堅調な動向にあるスマートフォンアプリ向けの紙媒体専門誌のアプローチも、情報の公知特性を考慮するとビジネス的には難しい。新しい付加価値の創生、アイディアの想起など、あらゆる手立てを講じて有効策を見出さない限り、今後も当ジャンルの低迷は続くことだろう。
1年前には3誌がまとめて部数非公開化に踏み切り、その状態が今期も続いているため、「三大アニメ誌」の動向の確認などが不可能となり、記事構成の大幅縮小の状態が継続している。部数の非公開化は発売元の出版社、あるいは編集部による判断である以上仕方がないが、褒められる話ではないのは言うまでもない。部数の非公開化という判断もまた、雑誌動向にかかわる情報となるからだ。
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※印刷証明付き部数
該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数ではない。売れ残り、返本されたものも含む。
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