松本潤『どうする家康』主演決定 ジャニーズの大河ドラマ出演の歴史と、起用の背景とは
2023年放送予定のNHK大河ドラマ『どうする家康』の主役を松本潤が務めることが発表され、SNSでトレンド入りするなど大きな話題になっている。
では、最初に大河ドラマで主演したジャニーズタレントは誰か? パッと思い浮かんだひとは、かなりのジャニーズ通か大河ドラマ通だろう。答えは、『琉球の風 DRAGON SPIRIT』の東山紀之。1993年のことである。
最近はジャニーズが大河ドラマに出演することも増えたが、それ以前はどうだったのか? そしてどんなジャニーズがこれまで出演してきたのか? この機会に、ジャニーズと大河ドラマの歴史を振り返ってみたい。
歌手デビュー前に出演した郷ひろみ
ジャニーズと大河の歴史を切り拓いたと言えるのが、郷ひろみである。1972年放送の『新・平家物語』で、平経盛(古谷一行)の少年時代を演じた。
このとき、郷ひろみはまだ歌手デビュー前だった。ジャニー喜多川が連れてきた彼をスタッフのひとりが気に入って大河ドラマ出演が決まったという。そのときはまだ芸名もついていなかった(大原誠『NHK 大河ドラマの歳月』)。郷は、同じ1972年8月発売の「男の子女の子」で歌手デビュー。瞬く間に人気を集め、野口五郎、西城秀樹とともに「新御三家」の一角として時代を代表するアイドルになった。
忠臣蔵を題材にした1982年放送の『峠の群像』には、野村義男、薬丸裕英、錦織一清と一度に3人ものジャニーズが出演している。
こちらも郷ひろみと同じくドラマのスタート時点では、正式に歌手デビューしていなかった。ただ、3人ともにすでに世に知られるような存在ではあった。野村義男は田原俊彦、近藤真彦とともに「たのきんトリオ」としてまさに人気沸騰中。薬丸裕英は学園ドラマ『2年B組仙八先生』(TBSテレビ系、1981年放送開始)での生徒役で布川敏和、本木雅弘とともにブレークし、同年5月シブがき隊として「NAI・NAI 16」で歌手デビュー。錦織一清も少年隊の前身グループでテレビに出始めていた。
こうしてみると、1980年代くらいまでは、ジャニーズと大河ドラマの関係はまだ密接なものにはなっていない。もちろん大河ドラマは視聴率も良く世間の注目度も高いので、アイドルファン以外にも顔を覚えてもらえるというメリットがある。その点、プロモーションとしての効果は高いだろう。だがまだ俳優として出だしの段階でもあり、重要な役柄への起用とはなりにくかったと言える。
1990年代が大きな変わり目
大きく潮目が変わるのは、1990年代からである。
最初にもふれたように1993年放送の『琉球の風 DRAGON SPIRIT』で、少年隊の東山紀之が大河ドラマ初出演にして初主演を果たす。1963年放送の第1作『花の生涯』から数えて31作目のことだった。
『琉球の風 DRAGON SPIRIT』は安土桃山時代から江戸時代にかけての琉球王国を舞台にした物語で、東山紀之が演じたのは琉球国王の側に仕え、国の独立を守ろうとする主人公・楊啓泰。起用理由には、少年隊や東山本人の人気、さらに舞台、ドラマや映画、特に時代劇での実績もあっただろう。
これをきっかけに、ジャニーズの大河ドラマ出演は一気に増えた。『炎立つ』(1993年放送)にはSMAPの稲垣吾郎、『花の乱』(1994年放送)には同年TOKIOでデビューの松岡昌宏、『八代将軍吉宗』(1995年放送)には同年V6でデビューの森田剛が出演。その後松岡は『秀吉』(1996年放送)と『武蔵 MUSASHI』(2003年放送)、森田は『毛利元就』(1997年放送)と『平清盛』(2012年放送)にも出演した。
1990年代は、SMAPを先頭にジャニーズが音楽以外に活動分野の幅を大きく広げた時期である。ジャニーズのドラマ出演はそれ以前からあったが、その範囲が格段に広がったことをこの大河ドラマへの出演ラッシュは物語っている。
一方で、30年以上の歴史を重ねた大河ドラマが新しい方向性を模索し始めたことも、既存の俳優に代わる存在としてジャニーズに目を向けさせた一因だったと思える。『琉球の風 DRAGON SPIRIT』は、大河ドラマ史上初めて沖縄を取り上げた作品であり、主人公は大河ドラマに珍しい架空の人物である。そんな挑戦的な作品の主役として、俳優としても新鮮味のあるジャニーズタレントが抜擢されたと言えるだろう。
こうして、ジャニーズの大河出演の流れは定着した。近年に限ってみても、『西郷どん』(2018年放送)の錦戸亮、『軍師官兵衛』(2014年放送)『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019年放送)の生田斗真、そして『西郷どん』『麒麟がくる』(2020年放送開始)の風間俊介などが、それぞれ重要な役どころで出演している。
主役を務めることが増えた2000年代以降
少し戻るが、東山紀之は1999年放送の『元禄繚乱』にも浅野内匠頭役で出演した。忠臣蔵が扱われた作品は先ほどふれた『峠の群像』以来のことで、物語の設定上若い登場人物が多い忠臣蔵ものにはジャニーズが起用されやすいのだろう。
そしてこのとき、今井翼とともに初出演したのが、タッキー&翼としてデビューする前の滝沢秀明だった。そして同年放送の『魔女の条件』(TBSテレビ系)での主演などその後もドラマ出演経験を重ねた滝沢は、2005年放送の大河ドラマ『義経』で主人公の源義経を演じることになる。
その前年の2004年には、SMAPの香取慎吾が、大河ドラマ初出演で『新選組!』の主役を務めている。香取が演じた新選組局長の近藤勇は、従来ドラマでは大御所的俳優が演じるのが定番だった。だが史実では、新選組時代の近藤は20代から30代。そこで実年齢も近い香取慎吾に白羽の矢が立った。その起用は、従来にないフレッシュな新選組の描きかたを求めた結果でもあった。
2014年放送の『軍師官兵衛』では、V6の岡田准一が主役として戦国時代の天才軍師・黒田官兵衛を演じた。戦国時代と言えば大河ドラマでも人気の時代だが、黒田官兵衛は途中地下牢に長く幽閉されるなど苦難の時期を過ごす。派手さはあまりなくある意味地味な役柄だが、これも戦国時代を描く新しい切り口を求める新機軸であった。
では、『どうする家康』の場合はどうだろうか?
『どうする家康』の主人公は、いうまでもなく徳川家康。織田信長、豊臣秀吉と並ぶ戦国時代の三傑のひとりであり、王道中の王道である。実際、徳川家康が主人公になった大河ドラマも、『徳川家康』(1983年放送)、『葵 徳川三代』(2000年放送)に続いて3作目になる。
しかし、『相棒』シリーズ(テレビ朝日系)『リーガル・ハイ』『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(いずれもフジテレビ系)など数々の人気作を手掛けてきた脚本の古沢良太がNHKを通じて発表したコメントからは、今回の作品もまた新機軸を狙ったものであることが伝わってくる。「カリスマでも天才でもなく、天下取りのロマンあふれる野心家でもない、ひとりの弱く繊細な若者」「ナイーブで頼りないプリンス」が古沢の考える新しい徳川家康像だ。繊細さを兼ね備えたプリンス。それは、嵐のメンバーとしてアイドルの王道を歩んできた松本潤にふさわしい役柄だろう。
王道と新機軸の両立を目指す意欲的な大河ドラマ『どうする家康』が始まる日を、いまから心待ちにしたい。