日本の債券市場の機能を壊しているには日銀自身、いま必要なのは白川氏も指摘した金融政策の変化だ
日銀の白川方明前総裁が、国際通貨基金(IMF)の季刊誌に寄稿した論文で、黒田東彦総裁による10年間の大規模金融緩和を「壮大な金融実験」として批判的に論じた。これまで黒田日銀の政策について表立った発言を控えてきた白川氏だが、黒田氏の退任が4月に迫ったタイミングで批判した形だ(2日付毎日新聞)。
ご存じのように白川氏は現黒田総裁の前任者である。その白川氏が10年間沈黙を保っていたが、さすがにこのタイミングで黒田総裁の政策に対し批判を行った。それは英文で3ページ。1日にIMFのウェブサイトで公表された。
「Time for change」 https://www.imf.org/en/Publications/fandd/issues/2023/03/POV-time-for-change-masaaki-shirakawa
しかし、この指摘はやや遅きに逸したようにも思われる。これほどにまで日本の債券市場の機能が破壊されてからでは、その修復にさらに時間も掛かりかねない。
白川氏は今回のペーパーで、黒田氏が実施したマイナス金利や大量の国債購入など異例の金融緩和策について、「物価上昇の面から見て影響は控えめだった。そして経済成長の面から見ても同じく効果は控えめだった」と評価。「必要なときに金融政策を簡単に元に戻せるとの幾分ナイーブな思い込みがあったのではないか」と指摘した。
必要なときに金融政策を簡単に元に戻せるとの幾分ナイーブな思い込みがあったかどうかは疑わしい。これまでの黒田総裁のやり方は、ブレーキが外れた車のごとくとなっていた。
しかし、ブレーキの外れた車に対して、外部環境変化により、そのおかしさにさすがに関係者以外も気づきはじめた。物価や金利がおとなしい際には、日銀のスピード違反は見逃されていた。しかし、世界的な物価上昇を受け、欧米の中央銀行がブレーキを掛けたことで、相対的に日銀の政策の異常さが見えてきた。
これに対して、やれコストプッシュやら賃金やらを持ち出しても、トルコの金融政策同様に日銀の金融政策のおかしさはっきり見え始めた。それにより大きな被害を受けたのが日本の債券市場である。
日本の国債利回りにも上昇圧力が掛かることとなったが、それを日銀は毎営業日連続無制限の指値オペなどの工夫で乗り切ろうとした、しかし、それは債券市場の機能を低下、いや、それが失いかねないようなものとなった。黒田緩和にあって、ブレーキがないなかの工夫など、緩和強化でしかなくなってしまう。結果として、さらに国債を買い上げるしかできない状態になっていた。
さすがにそんな状態からは脱する必要があるのは当然のことだ。いまさら遅いものの、それでも早期に日銀の金融政策の変化を起こしてほしいと思う。