北朝鮮「トウモロコシ畑の暴行事件」飢えた末の行為が…
「朝鮮の宝」とまで言われた中国との国境沿いにある茂山(ムサン)鉱山は、北東アジアで最大規模の埋蔵量を持つと言われた鉄鉱山だ。
そこで働く北朝鮮の労働者は、一般労働者の100倍の月給とふんだんな配給を得ていた。町には、彼らを相手にした様々な店舗が立ち並び、地域全体がゴールドラッシュならぬアイアンラッシュに沸いていた。
ところが、国連安全保障理事会が2017年8月に対北朝鮮制裁決議を採択し、鉄鉱石の輸出が禁じられてから、町は徐々に寂れ、今ではすっかり没落してしまった。
何も得られなくなった鉱山労働者は飢えに苦しんでいる。何とかして生き残るために働きに出ていた男性を悲劇が襲った。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
鉱山で勤務する40代男性のAさんは、配給の欠配が相次いだため、夫に成り代わって妻が市場で野菜を売って一家5人の生活を支えていた。しかし、その収入でも生活は苦しく、Aさんは休みの日に山に登って薪を切り出し売って生活の足しにしていた。
緑化政策で薪の切り出しは禁止されているはずだが、茂山周辺はどこもかしこもはげ山だらけだ。薪を切り出すには、中心部から少し離れた山まで行かなければならない。
先月15日のことだ。山での作業を終えて、午後8時頃に下山して家路を急いでいたAさんが、ちょうど収穫が終わったトウモロコシ畑を通りかかったときのことだ。月明かりに映ったのだろうか、畑に多くのトウモロコシの粒が落ちているのを見かけた。背負っていた薪の束を降ろしたAさんは、落ち穂拾いを始めた。しばらくすると、屈強な体格の若者がやって来た。
この時期に多発する穀物の盗難を防ぐために、茂山郡安全部(警察署)が立ち上げた糾察隊(取り締まり班)の隊員で元軍人のBだった。トウモロコシ畑をパトロール中だった彼は、道端に置かれた薪の束を見て、泥棒ではないと判断し、Aさんに向かって畑から出るように何度か叫んだ。
だが、Aさんは彼のいる方を一瞥しただけで、落ち穂拾いを続けた。警告を無視されたことに腹を立てたBは、Aさんに飛びかかって殴りつけた。すると、Aさんは倒れ込んでしまってしまった。打ちどころが悪かったのか、その場で息を引き取った。
(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為)
北朝鮮は、日本と同じ時間帯を使っているが、より西に位置しているため、完全に日が暮れるのが日本より遅い。9月の午後8時はまだ真っ暗になる前で、事件の一部始終は畑周辺にいた複数の人に目撃された。あっという間に地域全体に話が広がったことは言うまでもない。住民からは、亡くなったAさんへの同情の声と、当局に対する怨嗟の声が上がった。
「落ち穂は拾わなければ腐ってしまい食べられなくなるのに、(落ち穂拾いを取り締まるのは)無駄ではないか」
「世の中がどんどん世知辛くなる」(地域住民)
情報筋によると、この地域には収穫後の畑で落ち穂拾いを専門でする人がいるほど、当たり前のことだという。
これまではさほど問題視されなかったが、当局は最近、そんなことすらも取り締まるようになり、国家財産を盗んだ罪で労働鍛錬隊(刑期が短い犯罪者を収監する刑務所、労働キャンプ)送りにするようになったという。