日米欧の長期金利低下に見るバブルの兆候
6月5日のECB政策理事会は金融市場にとり変化の起点となる可能性が出てきた。28日の欧州の債券市場ではECBの追加緩和の強まりにより、イタリアの長期金利は3%を割り込み2.93%と15日につけた過去最低の2.88%に接近し、スペインの長期金利は一時2.8%割れとなり過去最低水準に低下した。周辺国ばかりでなくベルギーの長期金利も1.86%と過去最低水準をつけ、ドイツの長期金利は1.34%に低下した。
英国の長期金利も2.55%と大きく低下していたが、ユーロ圏の国債利回りの低下の影響を大きく受けているとみられ、米長期金利も2.44%と2.5%を大きく割り込んだ(29日に一時2.4%まで低下)。米国長期金利は2.5%が大きな節となっている。ここを大きく割り込むようだと2.2%台あたりまで節目らしい節目はない。
今後はECBの追加緩和を睨み、日本を含めて日米欧の長期金利の低下圧力が強まることが予想される。これは債券型のバブルが発生しているとの見方もできる。裏を返せば、そのバブル崩壊リスクが高まりつつあると言える。かつての長期金利の「謎」の動きは、振り返ってみればバブルの兆候であった。
ただし、バブルといっても何が弾けるのか。ここでひとつ注目すべきは、5月26日の日経新聞にあった記事かもしれない。日本の長期金利が低位安定しているなかで、名目成長率がそれを上回ったが、これは日本だけでなく、ドイツや米国も同様である。しかも過去に長期金利を名目成長率が上回ったあとに、バブル崩壊が起きていた。
名目成長率が長期金利を上回る逆転現象が起こったのは、日本はバブル経済が最盛期だった1988~1990年。米国ではITバブルがあった1998~2000年、リーマン・ショック前の2003~2006年。ドイツでも2006~2007年に逆転現象が起こった。そして今回、ドイツや米国に加えて、日本でも名目成長率が長期金利を上回る逆転現象が起きている(日経新聞の記事より)。
これが金融危機の最中であれば、リスクオフとかの動きで説明が可能かもしれないが、現在の日米欧の長期金利の低下の背景はリスク回避などではない。株も上がっている。金融危機に対処するための、日米欧の中央銀行の積極的な金融緩和が要因ではあるが、それがECBの追加緩和で最後の仕上げに掛かっているとの見方もできる。
バブルの兆候はいくつか見えている。欧米の株式市場の上昇などもその一例ではなかろうか。ここにきてS&P500種が過去最高値を更新している。FRBは量的緩和の縮小、テーパリングを開始しているが、実質的なゼロ金利政策は維持されている。欧州の信用不安は後退し、有事から平時に戻りつつあるなかにあり、金融政策はほぼ有事のまま、もしくは日銀のようにさらなる大胆で異次元の緩和を行ったり、ECBのように追加緩和を継続している。
バブルとはその最中にはやや異常との認識はあっても、崩壊するまではバブルとの認識はできず、バブルとも認定されない。現在の米国の株高や欧州の長期金利の異常なまでの低下はどのように説明が可能であるのか。過剰流動性が要因とするのであれば、バブルを生じさせているとも言える。それは0.6%を割り込んだ日本の長期金利も同様かと思われる。名目成長率が長期金利を上回る逆転現象はバブル発生の可能性を示唆している。
この名目成長率と長期金利との逆転現象が解消されることにより、いずれ日本でもありのままの長期金利が見えてくる可能性がある。その前にいったん日本の長期金利も行き着くところまで下げてくることが予想される。問題はそのあとの動向となる。そのときに何が起きるのか予測はつかないが、ECBの追加緩和をきっかけとした日米欧の長期金利の動きが、今後の金融市場に波乱を起こす前触れとなる可能性がある。