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緊急避妊薬を手に入りづらくするのは、「若い女性への性教育が足りないから」!!!

小川たまかライター
(写真:アフロ)

 7月29日の午後、仕事の合間にツイッターをのぞくと「緊急避妊薬」が急上昇トレンドワードに上がっていました。その後、「アフターピル」もトレンド入り。NHKおはよう日本で放送された、緊急避妊薬の市販化に関する議論についてがきっかけだったようです。

 ツイッターでトレンド入りしたのは、番組中に流れた男性の産婦人科医の発言に注目が集まったため。

 ↑こちらのツイートでも紹介されていますが、日本産婦人科医会・副会長のコメントは次のとおりです。

日本では若い女性に対する性教育というんでしょうか、特に避妊とか緊急避妊も含めてちゃんと教育してあげられる場があまりにも少ない」

緊急避妊薬が容易に手に入りすぎてしまうというのは、じゃあ次も緊急避妊をすればいいやという安易な考えに流れてしまうことをちょっと心配するわけですね」

 緊急避妊薬(通称:アフターピル)は、コンドームの破損や性暴力被害など避妊が十分でなかった性行為のあとに緊急的に高い確率で妊娠を避ける方法で、いわば意図しない妊娠を防ぐ「最終手段」。性行為のあとなるべく早く、72時間以内に服用する必要があります。

 薬局でも安価で買うことができる国が多い一方で日本では市販化されておらず、価格はおよそ1万〜2万円。意図しない妊娠の相談などを行うNPO団体がアクセス改善を求める署名を行っています。

 なぜ市販化の議論が進まないのか。番組では、3年前に国の検討会で議論されたものの「時期尚早」という声や乱用への懸念が根強かったことが紹介されたあとで、上記の産婦人科医会・副会長のコメントが入りました。

 短いコメントでしたが、ツイッターでの拡散具合を見るとインパクトが強かったようで、疑問や批判が集まっています。

 一部で起こるかもしれない安易な乱用を防ぐために手に入りづらくする……というのは、なんだか懲罰的に感じます。

 そもそも子どもや若者が正しい知識を得られるように環境を整えてこなかったのは大人たち(社会)の責任のはずですが、そのツケを女性が払えと言われているかのよう。

 また、これもツイッターで指摘している人がいましたが、なぜ「若い女性」に対しての性教育と強調するのでしょう。妊娠は女性だけでするものではなく、性別を問わず、男性にも同じように性教育は必要です。※番組内では、このあとで記者が「男女への性教育」と強調していました。

 「パートナーが避妊してくれない」と悩む女性が少なくないことからも、女性だけに知識が必要であるわけではないことは明らかです。

 日本は避妊法がコンドームに頼られていることが多く、低用量ピルなど女性が主体的に行うことができる避妊法が普及していない国です。緊急避妊薬と同様に薬局などで販売されておらず、手に入りづらいからです。

 女性が主体的に避妊できる状況を整えないのは、「女性に性知識がなく、乱用の危険があるから」? ニワトリが先か、タマゴが先かのような話ですね。

 

 昨年、オンライン診療に関する国の検討会でアフターピルについて議論された際、検討会委員12人のうち女性はただ1人だけでした。

 男性の医師たちが安易な乱用への懸念を話す一方で、女性が主体的に行う避妊法へのアクセス改善を求め署名を集めているのは女性たち。妊娠するのは女性ですよね。女性の声は決定権のある人のもとに届いているでしょうか。女性が直面する現実が見えているでしょうか。

 ネット上ではこの議論が起こるとき、決まって次のような内容にも言及があります。

・アフターピルはいつまでたっても手に入りづらいのに、バイアグラ(勃起不全治療薬)が鬼の速さで認可されたのはなぜ?

・女性の体に罰を与えるかのような中絶方法(掻爬法)が日本ではいまだに行われているのはなぜ? 

・男性も妊娠する社会だったら、緊急避妊薬へのアクセスはもっとスピーディに改善されたのでは?

 性の問題について、女性に主体性を持たせたくないのでは? 女性の知識や判断力を低く考えているのでは……? 予期せぬ妊娠をした女性に罰を与えなければいけないという意識があるのでは? 私はどうしてもそんなふうに思ってしまいます。

 反対している決定権のある方たちの本音を聞きたい。おはよう日本の放送で、その本音がチラリと見えたと感じられたから、ここまで話題になったのでは。

 アクセス改善を求める署名を応援したいと思います。

【署名】

アフターピル(緊急避妊薬)を必要とするすべての女性に届けたい!

「性暴力被害者のためだけにアフターピルが必要というわけではありません。日本では約82%の人がコンドームによる避妊をしています(※2)。コンドームの年間避妊失敗率は2割ほど。きちんと避妊しようとしても破れるなど失敗してしまうことは往々にしてあります。その上、日本ではコンドームの使い方もまともに教えられていません。

一方で、ネット通信販売でアフターピルやピルを扱う業者が沢山あります。「安易な使用が広がる」と懸念する一方で、ネットの業者は野放しになっている現状はおかしいです」(署名より引用)

【参考】

 ↑宋美玄先生のツイートによれば、こんな調査もあるそうです。なおさら、反対の方たちの本音を聞きたいです。

日本で生まれ育った女子大生が日本の避妊法の低レベルに驚愕した話(2019年3月15日/現代ビジネス)

22歳の彼が避妊をしてくれなかった…女子高校生のリアルな性の現状(2019年5月27日/現代ビジネス)

日本が人工妊娠中絶の「後進国」であるという悲しい事実(2019年6月6日/現代ビジネス)

未だに「かき出す中絶」が行われている日本の謎(2019年9月27日/プレジデントオンライン)

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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