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「女性の恨み」で葬られた「金正恩のボディーガード」の悲惨な運命

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏を囲んでガードする護衛隊員たち(板門店写真共同取材団)

北朝鮮の護衛司令部は、金正恩総書記のボディーガードも務める超エリート部隊だ。体力的に優れているのは基本で、成分(身分)がよく、思想的にも問題のない者を、さらにふるいにかけて選びぬく。

しかし、いくらエリートとは言え、所詮は人間だ。とんでもない間違いを起こすこともある。

(参考記事:女子高生を惨殺「金正恩のボディーガード」の鬼畜行為

平壌市三石(サムソク)区域の護衛司令部に務める30代の軍官(将校)A氏は、生活除隊(不名誉除隊)の処分を受け、平壌から追放され、実家のある咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムン)に戻ることになった。A氏の犯した過ちとは、いかなるものだったのか。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

A氏は2022年初めごろ、知人の紹介で20代女性のBさんに出会った。やがて2人は男女の関係へと発展した。A氏は毎週末、三石区域に隣接する平安南道の平城(ピョンソン)に住むBさんのもとに通い続けた。

2人の関係に変化が生じたのは今年初めのことだった。妊娠したことを知ったBさんは、すぐさまA氏に知らせた。結婚の話に進むのかと思われたが、A氏の対応は意外なものだった。連絡をいっさい絶ったのだ。

その無責任な態度に憤ったBさんの両親は、何度も護衛司令部を訪れA氏との面会を求めたが、結局会うことはできなかった。業を煮やした両親は、A氏の所属する部隊の政治部に信訴した。A氏のやらかしたことを洗いざらいぶちまけた、ということだ。

調査に乗り出した政治部と幹部部(幹部人事を扱う部署)は、浮華(性的スキャンダル)で、A氏に対して生活除隊の処分を下した。軍人に対してのみ適用される軍法には規定されていないが、現実では性的スキャンダルで不名誉除隊の処分が下されるケースがしばしばあるというのが、情報筋の説明だ。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

A氏がなぜB氏との連絡を絶ったのか、その理由や背景については明らかになっていない。また、A氏の近況も不明だ。しかし、苦労していることには間違いない。

「護衛司令部で勤務して普通に兵役を終えたら、他の人よりずっといいところ(職場)に配属される確率が高いが、生活除隊のレッテルを貼られてしまったため、そういうことはないだろう」(情報筋)

それだけではない。生活除隊は、民間企業で言うならば懲戒免職に当たる。事件を起こしてクビになった人に対する視線は決していいものではないだろう。それを知らないはずがないのに、なぜA氏はBさんとの連絡を絶ったのか、事の次第の知った人々は首を傾げているという。さらに踏み込んで、怒りをあらわにする人もいる。

「あんな根性の曲がったやつは、軍服を脱がせる(クビにする)だけではダメだ」

「出党(労働党除名)もして、労働鍛錬隊(刑期が短い人を収容する刑務所)に放り込むべきだ」

一方、Bさんに対しては同情の声が上がっている。出産して一人で育てるというB氏に「最近はひとり親でも差別されない」と、応援する人々がいる。

今までなら、Bさんに落ち度があってもなくても、「ふしだらな女だからそんな目に遭ったのだ」などという、ヴィクティム・ブレーミング(被害者非難)をする風潮があった。子どもを産むと言っているBさんに「理解できない」との反応を示す人もいるが、責め立てる人はいないようだ。

詳細は不明ながら、Bさんの父親はそれなりの地位にいたことが考えられる。

信訴は法的根拠が定められた公式の制度だが、後先考えずに行えば、情報が漏洩して、加害者から逆襲に遭う可能性もなきにもしもあらずだ。そのため、関係各所に話をあらかじめ通しておかねばならない。そのためにはある程度の地位とカネが必要だ。

つまり、「良家の才女」であることから、表立って批判をする人が少ない可能性も考えられなくはないのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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