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就活でも婚活でも、人は2つの形容詞を持つべきだ

齋藤薫美容ジャーナリスト・エッセイスト

面接の極意みたいなものは、もうとうの昔からネット上に溢れていて、今時そういう意味での大失態を冒すような人はいないと考えるべきなのだろう。

志望動機の内容から、自己PRの方法から、最後に何か質問は? と振られた時の質問例まで、まさに“部屋に入ってから出て行くまで”の全てがマニュアル化されているのはもちろん、当然と言えば当然だが、どれも皆同じような提案、まともに行くと、実際の面接でも皆一緒の対応になりかねない。

しかし、たとえ志望動機で全く同じ話をしても、受かる人間と落ちる人間がいるのが面接試験で、それこそ「給料が高いから」あるいは「有給が多いから」的なNGワードを口にしない限り、志望動機そのもので落ちることもなければ、志望動機だけで採用されることもないはず。

では一体何をどう採点されているのか?

★採用の決め手は「色気」?

ある企業のトップは、採用の決め手を、ズバリひと言で「色気」と言った。もちろんまともな業種の、一流企業の話である。それがなぜ色気?

いや見事に同じ言葉を、タレントや俳優を抱える芸能事務所のベテラン社員からも聞いたことがある。年齢も性別も関係なく、たとえ5歳の子役でも、“色気のある子”っているもので、そういう子は“まず間違いない”と。

ここで言う“色気”とは、むしろ世の中のことがよく見えている能力を指すはずで、それこそたった5歳でも、人間や社会のことがすっかり見えていそうな気配を持った子供はいるものなのだ。

これは“空気が読めること”にも等しいが、採用に値するほどの“色気”とは、経験もしていないことが見えてしまう“人間としての強力な洞察力”を天性持ち合わせているということ。

それについては、こんな説もある。非科学的で申し訳ないが社会において、空気が読めない、人の心も読めない、だから独りよがりで非常識にならざるを得ない人間は、要するに魂がまだ新しく、前世でまだあまり人間を経験していないから、むやみに腹を立てても無駄。見守ってあげるしかないのだという譲歩の仕方が。

つまり、人間の心も世の中のことも全て読めている人は、逆にたくさんの人間を経験している古い魂の持ち主ということになる。

確かに幼い時から、何だか世の中の道理が分かってしまっていて、自分の親よりも精神的に成熟した大人びた子供がけっこういるもので、その現実を他にどうにも説明できない。

もちろんこれは特殊な見方には違いないが、何だか妙に説得力のある話。しかしこの説の真偽はともかくとして、こういう場面で存在を際立たせる“色気”が、「どれだけ人間を知っているか? 」と深く関わっているのは紛れもない事実なのだ。

だからといって、“自分は見えていない人間”と自覚するのも難しいし、仮に自覚できても、人間に興味を持ち、人間を描いた本をたくさん読むみたいなことで、果たして"面接"に間に合うのだろうか?

★相反する形容詞を2つ意識的にぶつけること

そこで初対面の相手にもその“色気”を感じさせる、手っ取り早い方法を考えてみた。それが、“2つの相反する形容詞を併せ持つ”ということなのである。

言うまでもなく、就活ならば「真面目」「誠実」「粘り強さ」「一生懸命さ」「熱さ」そして「爽やか」……といった形容詞を全員がアピールしたいわけで、面接官もおそらく、そればかりを延々と見せられているはず。だからそういうものはきっちり見せつつも、全く異なるカテゴリーの形容詞をそこにぶつけて混ぜ込むことが、存在を際立たせる鍵なのだ。

もちろん、「真面目」に対し「不真面目」をストレートにぶつけたのではただ相殺させるだけで意味がないが、「真面目」や「誠実」に対し「愉快」や「茶目っ気」をアクセントにする。「粘り強さ」や「一生懸命さ」に対して「大胆さ」や「奔放さ」をのぞかせる。「熱さ」に対しては「落ち着き」や「緻密さ」を、そして「爽やかさ」にはほんのひとつまみの「毒」を加えると良い。

まさにひとつまみの塩で、逆に甘さを際立たせるように、また、味に深みやコクを引き出すように、ひとひねりした相反する形容詞をぶつけるのだ。

言うまでもなく、あれもこれもと形容詞を欲張っても、印象がバラつき損するばかり。ここは“売り”を何かひとつ、例えば「粘り強さ」に決めたら、もうひとつ「大胆さ」を組み合わせるというふうに、形容詞を2つだけ決めて挑むのがコツ 。

根気だけではつまらない、発展的な仕事にはならなさそうだが「大胆さ」を併せ持てば、その“粘り”が何倍にも力を増すはず。

2つの形容詞の幅や距離が有能さの証となる上に、そっくり奥行きとなり、深みとなるから。それが同時に“色気”となって伝わっていくはずなのだ。

ちなみに、こういう風に相反する形容詞を併せ持つ手法は、ファッションでも“洗練の決め手”としてさまざまに提案されてきた。

それをストレートに表現したのが「かっこかわいい」「大人かわいい」「エロかわいい」など、奇妙に聞こえるだろうが、今やファッション用語ともなったダブル形容詞。まさに相対する形容詞を2つ融合させた造語である。

これは、じつのところ“婚活”にすら役立つ手法で、どんなに上品でも上品なだけでは退屈、どんなに気がきいても気がきくだけでは相手を疲れさせる。だから各種出会いの場所には、やはり「上品さ」と「気さく」を、「気働き」と「おっとり」を一緒に持っていくべきであるというように。

もちろん、もともと体の中にないものを持ってはいけない。自分に備わった相反する形容詞を2つ、よく探して、“就活”にも“婚活”にも一緒に持ち込んでほしいのだ。

少なくとも、自分という存在を短時間で印象づけるためには、明快な形容詞を意識して訴求すべきで、その形容詞を人間としての魅力に変えるためには、もうひとつ反対側にある形容詞も不可欠になることを知っておきべき。

そして 2つの形容詞の幅、その間にぎっしり何かが詰まったイメージ、それこそをアピールしてほしいのだ。それだけでも、人間の精神的な成熟を想像させ、人としての「色気」がにじみ出るはずだから。

つまり、就活でなくても婚活でなくても、人は社会と関わる上で必ず形容詞を2つセットで用意しておくべきなのだ。日常的な自己アピールの、もっともさり気ない方法として。

美容ジャーナリスト・エッセイスト

女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイストへ。女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『されど“男”は愛おしい』』(講談社)他、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。

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