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中国の失業率は5.2% ようやく正式な統計が

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国のジョブフェア光景(写真:ロイター/アフロ)

 3月5日に開幕する全人代のためだろう。2月29日、中国の国家統計局は<中華人民共和国2023年国民経済と社会発展公報>(以下、公報)を発布した。それによれば、2023年の年間失業率平均は5.2%だったという。

 昨年7月に発表された若者失業率算出の時に国家統計局が現役の在学生まで対象に入れたために出てきた20%というデータが世界を驚かせ、その後、国家統計局が計算方法改善のためデータ発表を暫時やめてしまったという事実がある。加えて、中国大陸の一人の大学教員が、専業主婦など就職意欲を持っていない者まで対象に入れて計算した失業率46.5%をネットに上げたため、その情報に一部の日本人が飛びつき「中国失業率46.5%説」が飛び交った。そういった経緯があるので一部の日本人は今般の公報のデータに疑いを持つかもしれない。

 本稿では、失業率を計算するのが困難な社会主義国家・中国の特殊な経緯と現状を考察したい。

◆公報が発表した雇用者数や失業率などに関するデータ

 まず、公報が発表した雇用者数や失業率などに関する現在の詳細なデータを見てみよう。公報には以下のように書いてある。

 ●2023年末時点における国内の雇用者数は7億4,041万人で、このうち都市部での雇用者数は4億7,032万人、全国雇用人口の63.5%を占める。2023年、年間を通して都市部での新規雇用者数は1,244万人で、前年より38万人増加した。

 ●全国都市部調査による年間失業率平均値は5.2%で、2023年末時点での全国都市部調査による失業率は5.1%だった。

 ●全国の農民工の総数は2億9,753万人で、前年比0.6%増だった。その内、外出農民工(沿海部大都市に行く農民工)は1億7,658万人で2.7%増加し、本地農民工(もといた農村付近の小都市で働く地元農民工)は1億2,095万人で2.2%減少した。

 これが公報に書いてある失業率の基本情報だ(図表を別として)。

 都市部で働いている農民工は「都市部雇用者数」の範疇に入れているが、もし沿海部の大都市から内陸にある生まれ故郷近くの「中小都市」に戻って再就職先を見つけた場合は、大小の違いはあれ「都市」なので、「都市部調査失業率」の中で「就職者扱い」になるので変化しない。もし沿海部の都市から農村に戻って農業に従事した場合は、「都市部での雇用の減少」に反映される。農村部では畑仕事(土地経営)が多いため、失業率は都市部に比べて非常に低いので、「農村部調査失業率」というカテゴリーが統計上ない。

◆現在の「調査制」による失業率計算法は2018年4月17日から

 中国は社会主義国家だ。改革開放後も教育機関における「国家培養」と「分配制度」は続き、1992年にようやく制度上撤廃して、1994年辺りから社会主義制度における形式から実際上抜け出し始めた。

 「国家培養」というのは、教育機関での勉学は完全に無料で、国家が人材を育てるという制度を指す。衣食住も国家が保証する。大学・大学院などは基本的に全寮制。「国家培養」は幼稚園から大学院博士課程まで一貫して徹底されていた。

 その代わりに卒業後は国家が定めた職場で働くことが義務付けられ、個人が職場を選ぶという権利はなかった。これを「分配制度」と称する。国家が就職先を「分配する」という意味だ。

 したがって中国にはそのころまでは「失業」という概念がなく、市場経済が走り出し国営企業が立ち行かなくなって株式会社化して国有企業になり、無駄な従業員を「一時退職」させたころに、初めて「待業」という概念を生み出した。

 「待業」というのは「失業」ではなく、「家で待機して次の業務復帰への指示を待ちなさい」という意味で、「待業手当」も支給された。当時の貨幣価値で月200元ほど貰っていたので、悪くない生活は保たれたと思う。従業員にはもともと宿舎が無料であてがわれていたので、住居に関する問題に大きな変化が出て来るまでは、そこそこに待業生活を送ることができていた。

 実はそのころ筆者は1950年代の天津での幼馴染と再会しており、庶民の生活をリアルで体験しているので実感がある。また中国の中央行政の一つである国家教育部と提携して『中国大学総覧』の編集にも当たっていたので、日本で言う(中国でもその後定義された概念である)「公務員」の劇的な変化にうろたえる日常も、目の前で見てきた。

 社会は混乱し、国家統計局が全国調査をするのではなく、個人や職場などの申し出によって失業者数や本来の従業員数を把握する「登録制」によって国家は「失業率」を計算していた。

 しかし、それでは正確なデータが得られず、中国政府の通信社「新華社」や中国共産党機関紙「人民日報」などの数多くの情報で裏打ちされた実態から言うならば、国家統計局が統一的に全国調査するという「調査制」による失業率データが公表されるようになったのは「2018年4月17日」であるとのこと。この日までは「待業登録」を「失業登録」に改名したり、農民工のような流動人口の就業者をどう計算するかなど、紆余曲折の経緯を経てきた。

◆若者失業率計算に大学などの在校生を調査対象にしていた国家統計局

 そのような経緯がある中、2023年7月28日のコラム<中国の若者の高い失業率は何を物語るのか?>に書いたように若年層(16~24歳)の失業率が20%に至るという「怪奇」に近い現象が起きた。

 その原因は調査対象者に大学や専科学校あるいは大学院などの「在校生」を含めるという不適切なことをしていたからである。おまけに7月に出した統計は、まだ卒業してない5月時点での現役在学生を含んでおり、その人たちは「学生」で、「失業者」ではないのに、「(16歳以上の)労働可能な人口」の中に入れていたため、失業率が膨れ上がった。

 背景には当該コラムの図表1に示した、信じられないほどの大学進学者の急増がある。

 そこで、国際的に見て、失業者を計算する時には在校生を入れてないことを考慮して国家統計局は計算方法を見直すために暫時データ発表をやめた。これを以て日本では、「中国は中国経済の惨状を隠すために統計データを公開するのをやめた」との情報が飛び交い、「中国の統計を信じるな」と少なからぬ「中国問題専門家」やメディアがはしゃいだものだ。

 実際は2022年、中国における16-24歳の都市人口9600万人強のうち、在校生は6500万人強で、この在校生のうち「現在職場で働いていない者、調査時期の3ヵ月前以内に就職先を探そうとしたことがある者、もし就職先を紹介したら2週間以内に(大学を捨てて=退学して)就職する者」を「失業者」扱いするという計算が成されていたのである。そもそもまだ卒業していないのだから職場で働いているはずがないが、それを失業者扱いすること自体、ナンセンスだ。

◆国際基準に合わせて改善した国家統計局の失業率計算法とデータ

 そのようなことから、2024年1月17日に再開した国家統計局の失業率計算では、「在校生は含まない」ことになった。その結果、国家統計局が今年1月17日に発表した年間失業率では、

   ●16-24歳:14.9%

   ●25-29歳: 6.1%

   ●30-59歳: 3.9%

となっている。

 このようにして計算方法を国際水準に合わせた結果の2023年の年間失業率平均が冒頭にある「5.2%」というデータである。若年層に関しては在校生を除外しても14.9%なので、相変わらず高いと言わねばなるまい。

◆専業主婦まで失業者に入れたデータに飛びつく一部の日本人

 冒頭に書いた「16~24歳の失業率が46.5%」という情報に関しては、昨年7月17日北京大学の張丹丹准教授が個人の見解として発表した文章によるもので、彼女の場合は「在校生」だけでなく、「躺平(寝そべり族)」や「啃老族(親が富裕なので働くつもりがない「脛(すね)かじり族」)」、さらには「外で働く意思を持っていない専業主婦」まで「失業者」の中に入れているので、論外だと言わねばなるまい。目立とうとして一種の「遊び」を試みたのか、動機は分からないが、戯言(ざれごと)に近い「私見」に飛びついて「これこそが中国の真相」とはしゃぐ「一部の日本人」の判断力の無さには唖然とするばかりだ。

 さて、3月5日に、本稿で述べた国家統計局が出した新しいデータも踏まえながら発表されるであろう李強国務院総理の政府活動報告がどのようなものになるのか、待ちたい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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