Yahoo!ニュース

経済難の北朝鮮、汚物風船を飛ばすにも「ゴミ不足」…ニオイのする “アレ”も足りない

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮のキム・ガンイル国防次官は2日夜、朝鮮中央通信を通じて談話を発表し、汚物をくくりつけた風船を韓国に飛ばすことを暫定的に中断すると明らかにした。これに対し、韓国のケーブルテレビ「チャンネルA」のニュース番組ではコメンテーターが、「たくさん飛ばそうにもゴミが足りないのだろう」と指摘していた。

大いにあり得る話だ。経済難で食糧とモノの不足が深刻な北朝鮮では、日本や韓国ほど大量のゴミが出ているわけではない。むかし、旧ソ連などの支援を受けていた時代には、韓国に負けじと政治宣伝ビラを南に向けてバンバン飛ばしていたが、今はそうもいかないだろう。

(参考記事:【写真】水着美女の「悩殺写真」も…金正恩氏を悩ませた対北ビラの効き目

実際、北朝鮮は韓国との対立を深めていた2016年、国家的規模で、「古着の供出キャンペーン」を展開したことがあった。デイリーNKの現地情報筋によれば、これは軍の「雑巾不足」を解消するためのものだったという。

自衛隊OBが次のように説明する。

「北朝鮮に限らず、各国の軍では雑巾、というよりも古着などを裁断したウエスが大量に使われています。用途はもちろん、兵器の手入れ。自動小銃や野砲は火薬の燃えカスが砲身や機関部に溜まり易く、泥水をはね飛ばしながら走行する戦車や装甲車の汚れもひどい。頻繁に掃除をしなければ正常に動かなくなり、作戦行動に重大な影響が出てしまうんです」

こうした「ウエス不足」もまた、北朝鮮の慢性的な物資欠乏が背景にあると考えるべきだろう。

さらに、今回の汚物風船は糞便と思しきものまで運んでいたようだが、これもまた北朝鮮では不足気味だ。

同国農業は化学肥料が足りず、堆肥に大きく依存しており、毎年1月には理由は国民総出で「堆肥戦闘」なるものが行われる。不足する化学肥料を補うために、1人当たり何百キロもの人糞を集めて堆肥を作って農場に納めるというものだ。しかし、そんなに大量に集めるのは容易ではない。ノルマを達成できなければ罰金などのペナルティを課されるため、他人のものを盗んだり、売買されたりもする。

要するに、対立する国を苦しめるためにどんな作戦を展開するにせよ、決め手になるのは経済力であるということだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事