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トンプソン、ムーア、具…。戦局の最前線で戦う“縁の下の力持ち”に注目すれば観戦の面白さが倍増する

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

FW陣の活躍が8強入り最大の鍵

 ラグビー日本代表が世界ランキング2位のアイルランドに逆転勝利を収めたことで、サモア戦、そしてスコットランド戦の注目度はますます上昇している。

 果たして、ジャパンが目標とするベスト8進出は叶うのか?

 ホスト国として、未知なる世界に挑むジャパンにとっては、日本ラグビー界、あるいは世界のラグビー界の歴史を変える千載一遇のチャンスを迎えたわけだ。

 ロシアとの開幕戦におけるジャパンを見た時、アイルランド戦の勝利を予想する人は多くはなかった。選手たちがキックオフからホスト国特有のプレッシャーに押し潰され、いわゆる「絶対に負けられない」モードの雰囲気に完全に飲み込まれてしまった姿を見れば、それも当然だ。

「とにかく今日は早く終わってほしかった」とは、開口一番、試合後のミックスゾーンで替えの効かない10番であるはずの田村優が漏らした本音だ。その言葉を聞いて、楽観的になれというのが無理な話である。

 それでも、救いとなったのは最低限のノルマとされた勝ち点4ポイントに加え、4トライ以上を挙げてボーナス1ポイントを手にしたことだった。

 内容は悪くても勝ち点4以上を獲得できたことは、まさにこの8年間の積み重ねの賜物。2011年までのジャパンなら、相手がロシアでもこうはならなかっただろう。

 そんな中で迎えた格上アイルランド戦。ジャパンはロシア戦とは別人になっていた。

 相手キックオフ直後のボールを田村が正確にキャッチ。落ち着いてタッチに蹴り出すと、ジャパンはホスト国のプレッシャーから解き放たれ、スタンドの大声援をホスト国としてのアドバンテージに変えることができた。

 とりわけ輝いて見えたのが、プロップの具と、両ロックのトンプソン&ムーアの3人。アイルランド戦の勝利の鍵がディフェンスにあったとすれば、この3人の活躍にスポットを当てずにはいられない。

 ラグビー解説でお馴染みの野澤武史氏は、インターネット上のアイルランド戦の分析解説動画の中で、両ロック2人のラインアウトディフェンス時のスペシャルな技術をマニアックに説明しているが、確かにそれ以外にも、この試合におけるムーアのタックル数がチームトップの23回、トンプソンはチーム2位の19回を記録するなど大活躍した(3位はラブスカフニの18回)。

 アイルランド自慢のセットピースに対し、互角に対抗できた背景には、彼ら3人を中心としたFW陣の活躍があったからこそ。とかくトライやゴールキックでスコアを挙げるBK陣に注目が集まりがちなラグビーだが、FW陣のプレーに着目すると、また別世界の面白さが広がっている。

 そういう意味でも、サモア戦、スコットランド戦もFW陣の活躍が大前提になる。スクラム、ラインアウト、あるいはモールやラックで上回ってこそ、はじめて流、田村のゲームコントロール力が生かされる。

 サッカーにおける戦局の最前線が攻撃陣(FW)にあるとすれば、ラグビーの最前線は守備陣(FW)にある。

 最前線の攻防に着目すれば、続くサモア戦とスコットランド戦をより深く楽しめるはずだ。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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