公的年金の運用見直しは必要なのか
公的年金の改革を議論する政府の有識者会議は20日に、公的年金の国内債券を中心とするポートフォリオの見直しが必要だとする最終報告を取りまとめたそうである。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの公的年金に対し、インフラファンドや物価連動国債などに運用対象を広げるよう提案する見通しだとか。GPIFだけで120兆円、他の公的年金を合わせ200兆円規模となる資産の運用の見直しでは、運用資産の約6割を国債に投資する現在の運用スタンスからリスク分散の姿勢を強めるそうである。有能な資産運用担当者を高額で雇用するなどGPIFの自由度を増すため、独立行政法人から認可法人のような新しい枠組みに移す組織改革も提言する(ロイター)。
運用先として、国内株式や外国債券の比重を高めるだけでなく、不動産投資信託(REIT)、インフラファンドなどの代替(オルタナティブ)商品に対象を広げる提言を盛り込み、GPIFの組織改革が実施されたうえで、オルタナティブ投資を本格化するそうである。
どうも良くわからない改革である。国債に偏重した運用を見直すというが、そもそも年金資金は少なくとも元本は維持させる必要があろう。さらに200兆円という巨額資金の運用先は、国債主体にせざるを得ない。リスク分散の姿勢というが、リスク商品を買い込むことでリスクをさらに高める運用となる。百年に一度と言われる危機が立て続けに起きていたが、リスクオフの動きが強まれば、国債で地道に稼いだ運用益を吹き飛ばしてしまう懸念すらある。
どうもこの改革の目的がわからない。そもそも年金にそれほどの運用益を求める必要があるのか。今後の年金支払いに備えて、少しでも収益をあげてカバーしたいというのであれば、それはかなり危険な行為である。相場の世界で無理をすると失敗する。専門家を集めて運用させるというが、アジアの一部の国での外貨運用のようなプロをかき集めようにも、そんなプロが国内にどれだけ存在しているのか。商品知識だけでなく、相場勘を持ち、多少のリスクを負っても安定した収益をもたらすような人物は限られよう。
それとも、この運用先の多様化の目的とは、公的年金の資金を使ってリスク性資産を買い入れることで、株価の上昇や不動産価格の上昇、いわゆる資産価格の上昇が本来の目的であるのか。2%の物価上昇に備えるためとしても、本当に物価上昇が可能なのか。国債の一部を物価連動国債に振り向けるというのは良いが、その前にこれだけ巨額の国債残高があるなかでの、2%の物価上昇とそれによる長期金利の動向について、もっと踏み込んだ調査も必要ではなかろうか。
国内株式の運用上のベンチマークには、現行のTOPIXに加え、日本取引所グループなどが開発した新指数「JPX日経インデックス400」を採用するよう提言するそうであるが、別にこれは提言するべきものでもないはず。どれがベンチマークとして適切なのかは、運用者が判断すべきものである。
日本国内での資産運用、これは銀行、生保、年金等々であるが、その運用先が国債に偏重していることは確かである。それが日本国債の安定消化を助けてきた。もしこの先、本当にデフレが解消され、長期金利が上昇するようなことになれば、国債市場を取り巻く状況は一変する。国債市場が乱高下するようになった際に、その緩衝材となれるのが公的年金でもある。2%との物価上昇を信じるのであれば、これだけ巨額の国債残高を抱えた状況での、長期金利の上昇という債券市場参加者にとっても未体験ゾーンに突入した際の対処等をまず考慮すべきなのではなかろうか。