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「給料少なく結婚もできずに…」北朝鮮タレントの悲しい実状

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の李春姫アナウンサー(朝鮮中央テレビ)

北朝鮮で俳優を目指すなら、まずは各道にある芸術学校に入学しなければならない。その中の最高峰と言えるのが平壌演劇映画大学だ。

数多くの俳優を輩出しており、元は俳優で今では全世界的に有名となった「ピンクレディー」こと、朝鮮中央テレビの李春姫(リ・チュニ)アナウンサー、1980年代の北朝鮮を代表する人民俳優のオ・ミラン、そして故金正日総書記の2番目の妻だった故成恵リム(ソン・ヘリム)氏などが同学出身だ。

(参考記事:消えた北朝鮮の「ピンクレディー」…看板アナウンサーの行方

そんな名門大学で最近、休学者や退学者が増えているとデイリーNKの内部情報筋が伝えた。理由は経済難だが、背景は複雑だ。

朝鮮労働党の学内の委員会は先月、今年上半期の事業評価報告書をまとめた。それによると、夏休み明けに退学届を出す学生が大きく増えた。そのひとつの原因は水害だ。

北朝鮮北部は今年7月末に大水害に襲われ、退学した学生の中に、深刻な被害を受けたが被災地出身が多く含まれていたという。

「8月の夏休み中に、平安北道(ピョンアンブクト)、両江道(リャンガンド)、慈江道(チャガンド)の実家に帰省していた演劇映画大学の1年生と2年生のうち、退学届を出した出した者が他より多かった」(情報筋)

報告書には、水害により実家が被害を受け、学業を続けられない状況に追い込まれたようだとの内容が書かれている。

俳優を多く輩出してきた名門大学とは言え、俳優として成功するチャンスがあるのは、成績上位1%に過ぎず、「残りの99%は別の職業についてもあまり成功できない」「収入も少なく結婚もできずに終わるかも」との認識が広がり、退学者が相次いだものと思われる。

(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

北朝鮮の名門大学は、ただでさえカネがかかる。国家は「無償教育」をうたっているが、教職員らの給与は雀の涙ほどで、学生たちにワイロを上納させなければやっていけない。

俳優になれたとしても、生活は苦しい。映画や演劇などの国が管理する文化芸術団体に所属することになるが、給料は一般の労働者と変わらず、食糧配給が増やされるわけでもない。

「映画俳優という仕事そのものが経済的に安定的ではなく、成功如何の不確実性が大きい。そんな経済的な理由も演劇映画大学の学生が学業を諦める主な原因だ」(情報筋)

成功するまでは、実家からの仕送りでなんとか生計を立てなければならないが、ただでさえ以前ほどは儲けられなくなったトンジュ(金主、ニューリッチ)が、今回の大水害でとどめを刺され、もはや子どもを経済的に支えることすら難しくなったようだ。

大学当局は、学生をなんとしかして引き留めようを頭を悩ませ、朝鮮労働党中央委員会(中央党)に対して、学生が俳優として成功できる環境づくりのために、体系的な教養事業(思想教育)、国からの支援、現実的な政策の立案が必要だとの意見書を出したという。

中央党と内閣は、平壌演劇映画大学俳優課の在学率を高めるために、新入生を対象にした奨学金の拡大、在学生への教養事業(思想教育)の強化、卒業生への就職連携システムの構築を検討しているという。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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