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中立を捨て反イスラエルに立ち始めた中国 中東勢力図が米中覇権の分岐点に!

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 10月9日、中国外交部報道官は「中国はイスラエルとパレスチナの友人」と発言して「中立」の立場を鮮明にしていたが、10月13日にサウジアラビア(以下、サウジ)・イラン両国首脳が会談してサウジが「イスラエルとの和解は凍結する」と表明した瞬間から、事態は一気に急変していった。

 中国は明確にイスラエルのガザ地区に対する過度な報復攻撃を非難し、アラブの盟主・サウジやイランあるいはロシアと足並みを揃えながらアメリカに対峙する姿勢を明確にしつつある。

 特に第3回「一帯一路」フォーラムでプーチンと会い、中露関係を「対米」という視点で強化共有し、サウジとイランを和解させて中東和解現象を演出した習近平としては、この足場を固めてからでないと11月に予定されているアメリカでの米中首脳会談を行いたくないと思っているにちがいない。その強烈な布石が中国を「中立」からイスラエル批判へと動かしているものと判断される。

◆サウジ・イラン両国首脳の会談

 10月13日のロイター電は<Saudi Arabia puts Israel deal on ice amid war, engages with Iran, sources say(サウジは戦争の最中にイスラエルとの和解交渉を凍結し、イランと交渉している)>という見出しの報道をした。

 それによれば、これはサウジとイランが今年3月に中国の仲介により和解して以来の初めての両首脳による会談で、サウジは「ハマスの奇襲を非難せよ」というアメリカの呼びかけを拒否し、イスラエルと国交を締結させようとするアメリカの意図を凍結させ、せっかく北京の仲介で和解したイランとの交渉を重視しているとのこと。

 なぜなら、もしサウジがパレスチナ問題を放置したまま、その最大の敵であるイスラエルと国交を締結すれば、パレスチナの怒りが爆発し、そのパレスチナをイランが支援するとなれば、サウジは再びイランと対立することになるからだ。そうなると中東における数多くのイスラム国家が再び結束してイスラエルと戦う「中東戦争」へと拡大していく可能性がある。

 サウジは何としても、それを避けたいと動き始めた。

 アラブ連盟(21ヵ国と1機構)の中で、イスラエルを承認しているのはエジプト(1979年)、ヨルダン(1994年)、およびアラブ首長国連邦・バーレーン・スーダン・モロッコ(2020年8月~12月にアメリカの説得により国交協定サイン)の6ヵ国だが、スーダンはまだ国交を締結してはいない(本コラムの図表2参照)。

 サウジのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子兼首相は鋭い頭脳を持ち、なかなかに強い指導力を発揮している。しかし残念ながらまだ38歳ということも影響しているのか、老獪な外交戦略に関しては、バイデン大統領の罠にはまってしまったという浅いところがあった。

 ハマスの奇襲攻撃という反逆に遭い、パレスチナを軽視し「イスラムの結束」を甘く見たことを反省しているにちがいない。

◆劇的に動き始めた王毅外相兼中共中央政治局委員

 10月13日の上述のロイター報道を受けた後の、中国の王毅外相兼中共中央政治局委員の行動が尋常でない。

 10月14日、王毅はアメリカのブリンケン国務長官と電話会談し、イスラエルを軍事的に支援すると宣言したアメリカに対し、「軍事的手段にはいかなる解決の道もない。火に油を注ぐだけだ」と主張した。

 同日、王毅はサウジのファイサル外相と電話会談し、イスラエルの行動は自衛の範囲を超えたものであり、パレスチナに対する歴史的不正義は半世紀以上続いており、これ以上継続させることはできないと主張し、協力を呼びかけた。

 10月15日には、イランのアブドラヒアン外相と電話会談を行い、政治外交的手段を通して問題解決に当たること、すなわちイランが軍事行動を起こさないことを確認し合ったという。

 同日、王毅はトルコのフェイダン外相と電話会談し、ガザ地区住民に対するイスラエルの非人道的な報復攻撃の激化に反対し、パレスチナ問題を二国家問題として解決(イスラエルと同等にパレスチナも独立した主権国家として国連が承認)すべきであることを確認し合った。

 10月16日に王毅は、訪中したロシアのラブロフ外相と対面で会談し、国連や上海協力機構あるいはBRICS諸国との多極化秩序の下で互いに協調した戦略を推し進めることを確認し合った。

 同日、王毅はエジプトのシュクリ外相と電話会談し、互いに、パレスチナ人が合法的な国家的権利を回復し、独立国家を実現することを支持することを確認し合った。そしてシュクリ外相は「エジプトは一帯一路の共同建設に引き続き積極的に参加する」と述べている。

 17日にはプーチン大統領も北京に着いて、18日に第3回「一帯一路」フォーラムに参加しスピーチをしている。その後習近平との首脳会談に入っているが、その内容は別途考察することにする。

◆習近平が築いた中東和解外交戦略

 王毅が動き回ったのは、もちろんプーチン訪中に間に合わせることもあっただろうが、ガザ地区問題が、中東戦争を招き、第三次世界大戦へと発展するのを防ぎたいという習近平政権全体の外交方針があったからだろう。

 拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で詳述したように、習近平の外交戦略哲理は「兵不血刃(ひょうふけつじん)」(刃に血塗らずして勝つ)にある。経済で相手国を絡め取って、中国側に引き寄せるやり方だ。

 その意味では、中東も平和でないと困る。

 だから今年3月にサウジとイランを和解させ、その後「中東和解外交雪崩現象」をもたらしたばかりだ。

 前掲の『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の図表2-1(p.66)に掲載した時系列を、本コラムの図表1として以下に貼り付ける。

図表1:2023年中東和解外交雪崩現象の時系列(~5月17日)

筆者作成
筆者作成

 この流れを受けて、8月26日のコラム<習近平が狙う「米一極から多極化へ」の実現に一歩近づいたBRICS加盟国拡大>に書いた状況を維持し推し進めたいのが習近平の狙いだ。

 ところが、中国が中東で影響力を高めていることを、アメリカのバイデン大統領は面白く思っていない。そのことは10月11日のコラム<ハマスの奇襲 背景には中東和解に動いた習近平へのバイデンの対抗措置>に書いた通りだ。

 しかし、アメリカが介入してきた途端に戦争が起きる。

 それを17日から始まった第3回「一帯一路」フォーラムまでに示し、参加した約140ヵ国の関係者と共有したいと、習近平は思ったのにちがいない。

◆中東勢力図は米中覇権の分岐点

 以下に示すのは、ガザ地区とイスラエルの間で起きている紛争に関するアラブ諸国の勢力図だ。

図表2:ガザ地区・イスラエル紛争にまつわる中東勢力図

筆者作成
筆者作成

 緑色で塗った国々は、イスラエルを国家として承認していないイスラム諸国である。

 点線の矢印で記したのは、図表1にある習近平が起こした「中東和解外交雪崩現象」の中の象徴的ないくつかの国の和解現象をマップ上で可視化したものである。

 パレスチナのガザ地区とイスラエルの紛争に関しては、まずイランがパレスチナ側を支援し、サウジはそのイランと協力関係にある。

 万一にもイランが軍事的に参戦したりなどしたら、中東戦争になるだけでなく、ウクライナ戦争と相まって第三次世界大戦に発展する可能性もある。

 したがって中国もサウジも、必死になってイランに協力を求め、低姿勢だ。

 もしイスラエルがガザ地区の住民に対して度を越した攻撃を加えたら、イランが動き、アラブのイスラム国家が結束して、それに続くことになるだろう。

 バイデンは今イスラエルに向かっているが、そもそもハマスの奇襲攻撃を引き起こさせる原因を作ったのはバイデン自身であって、加えてアメリカがイスラエルを軍事的に支援するとなれば、中東は火の海になる。大統領選のためにユダヤ人を重視しイスラエル側に立つアメリカと、サウジとイランの首脳会談により反イスラエルを明確に表明した中国。

 中東の勢力図は今後の中米覇権の象徴のようなもので、習近平の戦略を知らない限り、日本はアメリカが誘導する台湾有事から逃れることはできないかもしれない。その認識を読者の皆様と共有したい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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