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芸能人の「一日警察署長」に逮捕権限ある?事件発生時の捜査はどうなるか #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

9月21日から始まる秋の全国交通安全運動にあわせ、この時期は各地の警察署で芸能人らが「一日警察署長」を務め、市民に事故防止などを呼びかけるのが恒例行事となっています。もしそのタイミングで刑事事件が発生した場合、彼らは署員を指揮して捜査したり、逮捕状を請求したりできるでしょうか。「一日警察署長」の権限や活動内容などについて、参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

「1日署長といいつつも、半日弱くらいの署長」「警察官になる訳ではなく、交通安全運動に協力する『広告塔』」
出典:FNNプライムオンライン 2022/4/6(水)

「名目上の階級だ」「裁判所に逮捕状を請求することはできないし、他の警察官に逮捕を指示できるわけでもない」
出典:Newsweek日本版 2016/9/27(火)

「機密書類をみる権限や事件捜査の指揮権が与えられることはない」「実際の業務は本物の署長が行っている」
出典:産経新聞 2016/1/11(月)

【一日署長】アイドルグループ「私立恵比寿中学」が交通安全を呼びかけ 「曲がり角で自転車に…」ヒヤり体験語る 東京・新宿区|TBS NEWS DIG

エキスパートの補足・見解

刑事訴訟法の規定により、通常逮捕に関して裁判官に逮捕状の発付を請求できるのは「検察官」か「司法警察員」に限られます。また、後者が警察官の場合、公安委員会の指定する「警部以上の者」に限るとされています。

警察官の階級は警察法に規定されており、上から順に警視総監、警視監、警視長、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長、巡査です。したがって、警視総監から警部までの警察官だけが逮捕状を請求できるということになります。

ただ、所轄の警察署の場合、署長に報告を上げてその指揮を受けた上で、警部の階級にある課長らの名義で請求するのが通例であり、警視正や警視の階級にある署長が自ら請求するということはまずありません。しかも、「一日警察署長」はPR大使などと同じく単なる広報活動用のネーミングにすぎず、本物の警察官ですらないので、犯罪の捜査や逮捕状の請求などできません。

「一日警察署長」に選ばれるのはアイドル歌手や俳優、お笑いタレント、アスリート、アナウンサーなどが多いのですが、市民の注目を集めるのが目的なので、著名なマスコットキャラクターや人気者の動物に委嘱することもあります。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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