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ペアリングに見る松山英樹の評価

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
ミケルソン、ウッズ、そして今週はストリッカーと回る松山英樹(写真/平岡純)

今週はシーズン最後のメジャー、全米プロが開催される。同大会に初出場する松山英樹はスティーブ・ストリッカー、ジェイソン・ダフナーと同組で回ることが、すでに前週から決まっている。

松山が世界の舞台で、どの選手と同組になるか。メジャーやビッグ大会におけるペアリングには、大会の主催者や人々の松山に対する見方や期待が反映されていて、実に面白い。

たとえば、プロとしての世界における実績がゼロの状態で松山が挑んだ6月の全米オープン。USGA(全米ゴルフ協会)が予選2日間に松山と組ませたのは、ジョーダン・スピースだった。

スピースは米ツアー・ノンメンバーのステイタスで今季をスタートした19歳。すでに米ツアーで1勝を挙げ、今はもう正式メンバーに格上げされたが、全米オープンのときのスピースは、ジュニア時代やアマチュア時代に活躍したもののプロとしての未来は未知数という状態で、米ツアーにおけるスピースのその立場は、世界における松山のそれと酷似していた。

だから、「若い」「ノンメンバー」「未知数」といった共通項で結ばれていた松山とスピースが同組に選ばれた。逆に言えば、このときは松山に対してもスピースに対しても、まだまだ評価は低かった。

【次はミケルソン、次はウッズ】

だが、その全米オープンで10位に食い込んだことで、松山に対する評価は一気に高まった。

だから、次なるメジャーの全英オープンではR&Aが「国や大陸を代表するスター選手」をキーワードに、米国のフィル・ミケルソン、英国のローリー・マキロイ、日本の松山を同組にした。

その全英オープンで6位に食い込んだ松山を、今度は米ツアーが高く評価した。

今季から米ツアーは、毎週、通常大会で「フィーチャード・グループ」というものを作り、盛んにアピールしている。

要は、話題性の高い注目組を意図的に作り、人々の興味関心を引く作戦だ。そうやってペアリングによるプロモーションに注力している米ツアーが、高額賞金のかかるWGC大会のブリヂストン招待で、あえて作り出した注目組がタイガー・ウッズと松山の組み合わせだった。

それは、米ツアーや米ゴルフ界がいかに高く大きな期待や関心を松山に寄せているかの表われだったと言っていい。

【そして、ストリッカー】

あれは、ブリヂストン招待の開幕前の練習日だった。雨が降る中、松山が練習グリーンでパターを握り続けていると、そこにやってきたのは、パットの名手と呼ばれるスティーブ・ストリッカー。

他選手の技を目で見て盗み、我が物にしようと心がける松山は、しばしば手を止め、ストリッカーの動きを見つめた。しばらく見ては、再び視線をグリーン上に戻してパット練習。そのたびに逆にストリッカーが松山の動きを見つめていた。

ストリッカーのパットを見つめていた松山英樹(写真/平岡純)
ストリッカーのパットを見つめていた松山英樹(写真/平岡純)

その日の帰り際、松山は言った。

「ストリッカーはタイガーが『宇宙一パットが上手い』って言った選手ですからね」。

練習グリーンですぐそばで眺めたストリッカーのパットは「やっぱり上手だった?参考になった?」と尋ねると「わかんないっすよ。まだ一緒に回ってないから」

そんな会話が全米プロを主宰するPGAオブ・アメリカの耳に入ったのではないかと疑いたくなるように、全米プロの予選2日間を松山と同組で回る相手がストリッカーになった。

全米プロのペアリングが発表されたのは前週のブリヂストン招待の3日目。ペアリングを伝えると松山は「またまたまた……」と興奮を示しながら、すごい選手ばかりが続くペアリングを喜んでいた。

【マツヤーマだよ】

対するストリッカーのほうは松山との同組ラウンドをどう思っているのか。

発表された数時間後のファイアストンのドライビングレンジ。松山が球を打っていたら、他に空いている打席はいくらでもあったのに、ストリッカーはわざわざ松山のすぐ前の打席に入ってきた。

松山が気づいて手を伸ばすと、ストリッカーも手を伸ばし、互いに握手。そのあともストリッカーがやけにうれしそうなので、近寄っていって尋ねてみた。

「全米プロのペアリング、もう聞きました?」

すると、ストリッカーは背後で球を打つ松山に気づかれまいと声を潜めながら、しかしニコニコしたまま答えた。

「もちろん。マツヤーマだよ。マツヤーマ。彼はパットがすごく上手いね。だから僕は彼と回る2日間がとても楽しみで、待ち切れなくて、今、ここに入って来た」と、松山の前の打席に入り込んできた本当の理由を照れ笑いしながら明かしてくれた。

なるほど。今週開幕する全米プロで松山とストリッカーを同組に結びつけた共通項は「パットの上手さ」ということのようだ。

だが、ストリッカーには、それ以外にも特徴がある。スランプから這い上がった復活の人。そして、元クラブプロゆえ、スイングやストロークを理論的に見たり考えたりできる目と頭脳の持ち主でもある。

同組になった選手から、いろいろ盗み、我が物にするのが松山の成長の糧だとすれば、ストリッカーと回る今週の2日間で松山がさらなる大きな成長を遂げることは間違いない。そうやって松山は力をつけ、どんどん大きくなっていく――。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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