Yahoo!ニュース

「ウクライナ戦争2年」への低い関心...韓国メディアの報道を読む

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
ウクライナ戦争2年を伝える韓国KBSニュース。同サイトよりキャプチャ。

 24日、ロシアのウクライナ侵攻から2年を迎えた。韓国ではどう報じられているのだろうか。気になって、2月23日から24日午前にかけて韓国メディアのニュースをチェックしてみた。

◎テレビは短く言及

・公営放送KBSは6分の「特集」

 日本のNHKにあたる公営放送KBSは、23日夜9時のメインニュースで『ウクライナ戦争2年…先が見えない平和』と6分にわたって特集した。

 「開戦当時はロシアが優勢との展望があったが、ウクライナの強い抗戦意志と西側勢力の支援で戦争は今も行われており、ウクライナ東南部で1000キロにわたって戦線が形成されている」と伝えている。

 一方で「ウクライナ軍は岐路に立たされている」とし、武器の不足から守勢に回っていると説明した。米国からの支援が顕著に減り、今夏には最盛期の12%にまで落ち込むという展望を紹介した。

 同報道ではウクライナ戦争が韓国に与える影響についても触れた。

 物価の上昇をもたらすと共に、外交安保の側面から「ウクライナ戦争が北朝鮮の兵器の試験場になっている」と指摘、EUがウクライナ戦争において初めて北朝鮮を制裁リストに載せたことに言及した。

 その上で、戦争に対する負担と疲労感から今年、交渉の場が作られるのではないかとワシントン発で見立てた。

 (韓国語原文記事リンク)
https://news.kbs.co.kr/news/pc/view/view.do?ncd=7898013

・公営放送MBCは特集なし

 別の公営放送MBC(運営に政府に任命された人士が関わるためこう呼ばれるが、経営は国から独立)は23日晩のメインニュース番組でウクライナ戦争に関する特別な特集報道を行わなかった。

 しかしウクライナ保安局の「北朝鮮からロシア領土へと武器を供給するための物流経路が構築されている」というコメントを紹介しながら、北朝鮮の弾道ミサイル『火星11』がウクライナ戦争で使われているとするニュースを報じた。

北朝鮮によるロシアへの弾道ミサイル『火星11』提供を伝えるMBCニュース。同社サイトよりキャプチャ。
北朝鮮によるロシアへの弾道ミサイル『火星11』提供を伝えるMBCニュース。同社サイトよりキャプチャ。

 さらに、これに対しEUが今週末に北朝鮮を糾弾する共同声明を出す予定であるとし、英国やEUが北朝鮮を制裁対象に含めたことなどに触れた。

 (韓国語原文記事リンク)
https://imnews.imbc.com/replay/2024/nwdesk/article/6574040_36515.html

・地上波SBSでは「3分」

 地上波テレビのSBSは23日晩のメインニュース番組の中で『2年を越したウクライナ戦争…‘11月の米大統領選‘を注視するプーチン』という3分ほどのレポートを行った。

 「戦争は昨冬から1年以上膠着状態にある」とし、東部から南部にかけて戦線が形成されていることに触れながら、ウクライナは依然として領土の11%を奪われたままとしている。なお、前出のKBSでは「領土の20%近くが占領されている」としていた。

 SBSはまた、2年に及ぶ戦争の中でロシアに20万人、ウクライナに13万人の兵力損失があり、民間人の死者はロシア130人余、ウクライナ1万余とし「ロシアよりウクライナが圧倒的に多い」と言及した。

SBSではパリ特派員を通じ、ウクライナ戦争の戦況を伝えた。同社サイトよりキャプチャ。
SBSではパリ特派員を通じ、ウクライナ戦争の戦況を伝えた。同社サイトよりキャプチャ。

 さらにウクライナで行われた世論調査を引用する形で、ウクライナ市民の勝利への意志(89%)、領土回復への意志(65%)を伝え、「同盟国の支援を受け望み通りの勝利を得られると信じている」という現地市民とのオンラインインタビューを報じている。

 その上で米国の安保専門家を引用し「プーチンはロシアに冷たいバイデンよりもトランプに多くの期待を持っている」と伝えた。このため、プーチンは11月の選挙まで戦争を長期戦に持ち込む可能性が高いと分析した。

 (韓国語原文記事リンク)
https://news.sbs.co.kr/news/endPage.do?news_id=N1007548250&plink=THUMB&cooper=SBSNEWSPROGRAM

なお、地上波3社ともにウクライナ現地取材はなかった。

 韓国外交部がウクライナを渡航禁止対象としている点が背景にあるのだろうが、申請すれば特別に渡航が認められる。現に3社ともに過去、そのような現地取材を行ったことを考えると寂しいものとなった。

(24日晩追記)韓国メディアからは聯合ニュースがキーウ入りしている。

◎新聞社説は一紙のみ言及

 新聞各紙を見ると、24日の朝刊に社説を掲載したのは主要紙9紙のうち、中道紙の『韓国日報』一紙にとどまった。

 主要紙は医大定員増による研修医のストライキや韓国半導体企業の危機といった重要な問題を前に、ウクライナへの関心を示さなかった。日本の主要各紙がいずれも24日の社説でウクライナ戦争を取り上げた事とは対照的だ。

・韓国日報は朝露の結託を「最悪」と表現

 『韓国日報』は「冷厳な国際的な現実と安保の重要性を呼び覚ましたウクライナ戦争2年」という社説の中で、ロシアの戦争犯罪と共にウクライナに不利となっている戦況を伝えた。

 背景には国防力における劣勢と支援の速度の問題があると指摘し、米国も欧州も自国よりもウクライナを優先することができないとした。さらに、「根本的には冷戦終息の過程で核を放棄に主権と領土の保全を事実上、ロシアに依存することが不幸の種となった」と言及した。「ウクライナが冷酷な国際政治の犠牲となっている」という視点だ。

韓国日報の社説。同社サイトよりキャプチャ。
韓国日報の社説。同社サイトよりキャプチャ。

 一方で朝鮮半島の平和への影響にも言及した。

 北朝鮮がロシアに兵器を提供し、見返りとしてロシアの軍事技術と経験を受け取っている事を「韓国にとって最悪」と表現した。

 さらに「暴走するプーチンと金正恩委員長が手を結ぶ場合、何が起きるか予測できない」としながら、米韓同盟と安保協力を強める傍ら「何よりもみずからの国防力を育てなければならないというのがウクライナ戦争が韓国にもたらす教訓だ」と結んだ。

 (韓国語原文記事リンク)
https://www.hankookilbo.com/News/Read/A2024022315340003963

◎韓国社会の関心の低さ

 見てきたように、韓国メディアのウクライナ戦争への関心は総じて低い。あるとしても、北朝鮮とロシアの軍事協力と結びつけたものがほとんどだ。

 なぜか。目前に迫った総選挙や日々社会を揺るがす大ニュースが続く点など様々な要因があることを差し引いても、そこに「メディアの国際感覚の欠如」があることは否定できない。枠にはまった報道を惰性で繰り返し、世界の流れを追い切れていない。

 より具体的に言うと、『日本経済新聞』社説(24日付け)の「ロシアが勝てば世界はどうなってしまうのか。すべての国と人々はもう一度よく考えてほしい」という問題意識を、韓国メディアが持ち得ていないのだ。

 おそらく今後、西側諸国から韓国にウクライナ戦争への協力を求める声は高まり続けるだろう。現在は水面下での迂回協力にとどまっているが、それを直接協力に切り替えるようなタイミングが来るかもしれない。

 そのためには韓国国会の承認が必要であり、必然的に社会的な議論が求められる。しかし現在の韓国社会にはその土台となる認識が存在しない。

 支援するかしないのか、するとしてもどうやるのかという議論が急ごしらえなものになる場合、不十分な支援や韓国世論の分裂を深めるといった結果をもたらすことは火を見るより明らかだ。

 このため、韓国メディアには結論ありきの議論ではない、ウクライナ戦争を多角的に見るきっかけを広く市民に提供する義務がある。

 しかし今、残念ながらそれを果たしているとはいえない。

 何よりもウクライナ戦争の行方は朝鮮半島の平和を左右するものでもある。状況を追うことも大切だが、社会で議論すべき議題を提示する「アジェンダセッティング」もまたメディアの重要な役割である。各韓国メディアのより一層の奮起を求めてやまない。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

徐台教の最近の記事