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作新学院、栃木7連覇。全国連覇へ @宇都宮清原球場

川端康生フリーライター
圧勝で栃木7連覇を飾った作新学院。その先に甲子園連覇を見据える。

 栃木大会決勝は3年連続同じ顔合わせとなった。作新学院と国学院栃木。心配された天気は小雨ながら朝から降り続け、試合中もほとんど止むことはなかった。それでも清原球場は両チームの応援団と高校野球ファンで埋め尽くされた。

 そして――圧勝だった。満員のスタンドが感嘆のため息をつくほどの圧倒的勝利で、作新学院が7連覇を飾った。

圧勝だった

 まったく寄せ付けなかった。先発全員の19安打で2回から7回まで毎回得点。守っては7回まで国学院栃木を0封。4回を終えた時点で、すでに10対0だったのだから圧勝というしかない。

 始まりは2回だった。

 1死から七井、石戸の連続ヒットで作った最初のチャンスで、7番・大久保がライト前へタイムリー。

力のあるボールだった。だが、力で打ち返した。そして大勝への端緒を切った。

 実は初回は三者凡退だった。国学院栃木の先発、大須賀投手の立ち上がりは上々に見えた。苦戦の、少なくとも接戦の予感は漂っていたのだ。

 しかし、大久保の一打で先制した後、続く8番・篠原もインコースのストレートを、やはり力で弾き返して、またタイムリー。

下位打線にもかかわらず、このスイング。作新の打力を目の当たりにしたとき、予感はすでに霧散していた。

 3回、四球を足がかりに1死満塁として、また大久保。今度は左中間を深々と破った。

 初球だった。その直前、国学院栃木がマウンドに伝令を送った。そのリスタートの初球を狙った。単なる打撃力ではない。野球を知り尽くしているから、このボールを狙って打った。作新の野球力の高さを感じさせる走者一掃のタイムリーだった。これで6対0。

 さらに4回。相原の四球から始まり、添田、鈴木、中島と3連打。何とか交わそうと試みる国学院栃木の継投をものともせず、2点を追加し、8点差。しかも、次打者の七井がプッシュバントである(ピッチャーのグラブの先を抜け、内野安打になった)。これでは相手はたまらない。押し出しの四球。そして三度(みたび)、大久保がセンター前へ。

 まだ4回。なのに大久保はすでに3の3。それもすべてタイムリーで5打点を叩き出し……。気が付けば10対0。大量得点差をつけ、勝負を決めてしまったのだった。

中盤で試合は決した

 前半で大量得点差をつけられてしまった国学院栃木。しかし、チャンスがまったくなかったわけではなかった。

 初回、上々の立ち上がりで大須賀が作新打線を三者凡退に打ち取った直後、1番・古河が初球を叩き、レフト線への2塁打。その後、1死3塁とし、打順は中軸。先に点を奪う絶好機を作った。

 さらに3回にも先頭の中山がヒットで出て、1死1、2塁。しかし、作新学院・篠原投手にいずれも封じられた。準決勝までの5試合で33点を奪ってきた打線が火が吹くことはなかった。

 それでも大須賀投手は粘りのピッチングを見せていた。3失点した2回にはなおも続いた1死1、3塁のピンチを130キロ台後半のストレートで抑え、3回もやはり3失点したが、続く打者を連続三振。

 ぎりぎりのところで踏み止まっていた。

 しかし、4回、7失点目を喫したところで降板。引き継いだ投手も、すでに勢いの付いた作新学院の打線を食い止めることはできなかった。

 5回に中山、古河のヒット(二人ともこの試合2安打を放った)と死球で作った2死満塁が、国学院栃木にとって競りかける最後のチャンスだったが、ここでも次打者が篠原投手の前に三振。

 結局、中盤で試合を決められることになった。

3年連続決勝敗退。それでも

 3年連続同じカード、つまり栃木県を代表する2校が対決した決勝戦は、思いがけず大差の結果となった。

 15対0という結果ほどの実力差があったかと問われれば、そうは思わない。しかし、両チームの間には確かに力の差があった。国学院栃木がミスをしたわけでもない。ターニングポイントになるプレーが起きたわけでもない。

 得点差はともかくとして、強い方が順当に勝った。そんな決勝戦だった。

 だから、国学院栃木に対して「最後まで諦めずに……」といった空疎な慣用句は使わない。完敗だった。4回終わって0対10。勝敗が決したことは彼ら自身が悟っていたはずだからだ。そんな情緒的な慰めは、真剣勝負に挑んだ彼らにむしろ失礼だと思う。

 ただし、負けを悟ったからといって彼らが諦めたかと言えば、決してそうではない。この試合の勝敗のもっと手前に、絶対に諦められないものがあるからだ。

 たとえば8回の守り。作新学院の好打者、5回にはホームランも放っている相原を三振に打ち取った瞬間、交代出場のキャッチャー、大久保が力強く握りしめた右の拳。

 すでに0対15だった。試合の決着はついていた。それでもかぶったマスクから左バッターボックスの打者を伺い、組み立てを考え、サインを出し、そこにやはり交代登板していた野澤のストレートが決まった瞬間、大久保の右手がガッツポーズを突き出したのだ。

 球児の本能。ただし、持って生まれたものではない。昨日も一昨日も、先週も先月も、入学以来取り組んできた練習の厳しさと、その厳しさに立ち向かい続けた時間によって刻み込まれた本能である。

 だから、たとえ勝敗が決したとしても、目の前の打者を打ち取ろうとする瞬間、相手投手が投げ込んでくるボールを打ち返そうとする瞬間、飛んできた打球に足を動かし、グラブを差し出す瞬間……、彼らがそんな一つ一つを諦めることは絶対にありえないのだ。

 その裏、同じく交代選手たち。代走の宮崎が二塁へ走る。ピッチャーのモーションを盗んだいいスタートだった。

 ショートに入っていた八木沢。三遊間を破った。宮崎が3塁を回ってホームへ滑り込む。見事なスライディングだった。

 そして1点を取った。勝敗には関わりない、たった1点。

 しかし、すべてのプレーに彼らの費やしてきた日々は確かに映っていた。

全国連覇へ

 7年連続して栃木県を制した作新学院。19安打15得点の陰に隠れがちだが、先発の篠原の好投にも触れておかなければならない。

 ゆったりとしたフォームから丁寧に投げた。長い腕をしなやかに使って、長くボールを持てる。春から頭角を現してきた投手だと聞く。その春の関東大会では早稲田実業の清宮にホームランを打たれたらしい。

 マウンド経験を重ね、全国レベルの強打者と対戦することで、ピッチング技術を高めてきた成果が、この夏、花開こうとしている。

 エースの左腕・大関との2枚看板が揃ったことで、甲子園での期待はより膨らむことになる。

 打線は4安打した大久保、七井をはじめ、切れ目が全くない。ライトへの本塁打を放った1番・相原は選球眼もいい。鈴木のバッティングセンスも目を見張るものがあった。スピードも魅力だ。

 すべての選手がどん欲に次の類を狙う姿勢もまた見事だった。

 昨夏は今井(西武)を擁して全国制覇。優勝旗も全員で返すことができる。そして、その優勝旗をまた――。

 栃木7連覇の先に、全国連覇も見据えて挑む甲子園である。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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