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アニメ映画『アンネ・フランクと旅する日記』アマプラで公開:ホロコースト記憶のデジタル化で歴史の継承

佐藤仁学術研究員・著述家
(c)ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND

アンネ・フランクをテーマにした創作アニメ映画『アンネ・フランクと旅する日記』(原題:Where Is Anne Frank)が2022年3月に日本でも公開されていた。キービジュアルでは「未来を信じ続けたアンネを探して、現代を旅するキティ。そこにはどんな世界が広がっているのだろう」と伝えていた。そして現在、アマゾンPrime videoでも公開されている。

▼「アンネ・フランクと旅する日記」

世界中で大人気のアンネ・フランク

この映画は、もともと2021年7月にはフランスのカンヌ映画祭でアンネ・フランクの話をもとにした創作アニメ映画「Where is Anne Frank」として公開されていた。イスラエルの映画監督でホロコーストを生き延びた両親を持つアリ・フォルマン氏が監督を務めている。フォルマン監督は2008年に公開された「戦場でワルツを(Waltz with Bashir)」も制作していた。2021年8月24日から9月4日までイスラエルのエルサレムで行われる第38回エルサレム映画祭でも公開されていた。そして「Where is Anne Frank」は2021年のヨーロッパ映画賞にもノミネートされた。

第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。アンネ・フランクはユダヤ人だったために、ナチスの標的となり迫害を逃れてオランダのアムステルダムの隠れ家で約2年間、身を潜めて生活していたが、密告されて1945年にベルゲン・ベルゼン強制収容所で病気で死亡した。アンネが隠れ家生活で思いを綴った日記を戦後、ホロコーストから生き延びた父オットー・フランクが「アンネの日記」として出版し、現在でも世界中で多くの人に読まれている。アンネ・フランクはホロコーストを象徴するような人物で、欧米やイスラエルではホロコースト教育が行われることが多く、小学生の必読書にもなっている。

またアンネ・フランクは世界中の老若男女にも人気がある。世界中の若者に人気のインスタグラムには世界中のアンネ・フランクのファンがアンネの当時のモノクロ写真や、アムステルダムにある「アンネの家」を訪問した写真をたくさん投稿している。

進むホロコーストの記憶のデジタル化

そしてアンネ・フランクの生涯は「アンネの日記」をもとにした映画、ドラマ、演劇、アニメ、マンガなどで世界中で作品の題材として取り上げられ、演じられている。アンネの生涯を忠実に描いたノンフィクションである。

戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いたりしている。特にこのようなアニメは、残酷な映像や写真がないので、小学生のクラスでのホロコースト教育では多く活用されている。

『アンネ・フランクと旅する日記』(Where is Anne Frank)はアンネが迫害されていたホロコーストの時代と、「アンネの日記」に登場して、アンネが日記の中で語りかけている架空の人物のキティが出てきて、それぞれの物語が繰り広げられる創作アニメ映画、いわゆるフィクションだ。アンネの生涯をもとにしたノンフィクションの部分と完全に創作のフィクションが入り混じっている。だが、当時のアンネやユダヤ人の置かれた立場も鮮明に描かれており、ホロコーストの時代の様子や、その時期を過ごしたユダヤ人の少女の心境を垣間見ることができる。

アンネの隠れ家を運営しているアンネ・フランクハウスはアンネ・フランクを紹介するためのデジタル化したコンテンツ製作にとても積極的で、アンネ・フランクが生きていた時代の貴重な動画を公開したり、アンネ・フランクが当時スマホを持っていて動画を撮影するというWEBドラマシリーズ「Anne Frank video diary」を製作しYouTubeで配信したりしている。アンネ・フランクの生涯とホロコーストの歴史を次世代の若者に伝えようとしている。またアンネの家をVR(仮想現実)で廻れるサービスもメタと共同で制作した。特にコロナ禍になってアムステルダムのアンネの家を訪問できなくなってからはオンラインでの様々な情報やコンテンツ提供にも注力してきた。また公式SNSでも多くのアンネ・フランクや家族の貴重な写真なども公開している。アンネ・フランクが動いている唯一の動画も公開されている。

2023年1月にはアンネ・フランクハウスは「Anne Frank Knowledge Base」(アンネ・フランク・ナレッジベース)を開設した。Anne Frank Knowledge Baseではオンラインでアンネ・フランクや家族、匿ってくれた関係者や学校時代の友人などの情報、当時の様子をオンラインで確認することができる。またフランクフルト、アムステルダム、アウシュビッツなどアンネ・フランクに関係の深い場所が地図上で表示されて、その場所でのアンネ・フランクや関係者の情報を知ることができる。

アンネ・フランクハウスだけでなく2019年の90歳のアンネの誕生日の6月12日には、Googleがアンネ・フランク博物館と協力して、アンネが隠れ家に潜む前に子供時代を過ごした家、家族の思い出の写真、貴重な映像などを紹介するコンテンツを「Google Arts & Culture」で公開した。当時の貴重な写真や映像をデジタル化して公開、家の中をストリートビューで閲覧することができる。

デジタル化されたアンネの日記や映画などのコンテンツやメディアはホロコースト教育でも多く利用されている。ホロコースト教育はホロコーストだけでなく、欧米で今も根強い反ユダヤ主義をなくすためにも行われている。

(c)ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND
(c)ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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