Yahoo!ニュース

今夜放送『カールじいさんの空飛ぶ家』。風船が何個あれば家が浮くか計算したら、オドロキの数値が出た!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

ディズニー&ピクサー映画の新作『マイ・エレメント』の公開を記念して、8月4日の「金曜ロードショー」で『カールじいさんの空飛ぶ家』が放送される。

これはもう、涙ナシでは見られない名作だ!

大好きだった妻エリーを亡くし、妻との思い出が詰まった家も手放さなければならなくなったカールじいさん。

立ち退きの日になり、おとなしく家を出るかと思ったら、なんと家がフワリと浮いた!

カールじいさんは、夜のうちに無数の風船を家にくくりつけていたのだ!

そのまま高度を上昇させて、エリーと約束したパラダイスの滝へ向かう……!

これは、78歳のカールじいさんが、新しい「大切なもの」を見つけて、ゆっくりと心を開いていくスバラシイ物語である。

切ない回想から始まり、見終わる頃には、温かい気持ちで心が満たされる。

そしてもう一つ、筆者が気になって仕方がないことがある。

それは「風船を何個くくりつければ、家を浮かせることができるのか?」という問題だ。

◆風船は何個必要か?

アニメでは、モノスゴクたくさんの風船が描かれていて、それがひとかたまりになった大きさは、家の何倍もあった。

『ピクサー・クロニクル全史』(講談社)には「数万個」と書かれており、また「1万297個」とする説もあるようだ。

もちろん、家の重さと風船の浮力をどう考えるかで、風船の数は変わってくるので、ここでは筆者なりに計算してみたい。

まず、家の重さを推測しよう。

カールじいさんの家は、初めてエリーと出会った廃屋を買って改修したもので、小さな木造2階建て。

アニメの描写から目測すれば、建築面積は縦5m×横6m=30m²ほどだろう。

このような2階建て家屋の場合、建築面積1m²あたり400kgの材木が使われるというから、すると家の重さは12tになる。

一方、風船が持ち上げる力は?

遊園地などで売っている風船には、内部にヘリウムが入っている。

ヘリウムは空気よりも軽いから、空気中で手を離すとフワッと飛んでいくし、軽いものならぶら下げて空中に浮かべられる。

筆者が縦30cm、横20cmの風船で計測したところ、1個あたり9gのものを浮かべる力を持っていた。

いうまでもなく、風船が大きいほど、重いものを浮かべられる。

カールじいさんの風船は、それよりずっと大きく、アニメの画面で計ると、縦80cm、横60cmほどもありそうだ。

この大きさなら、1個で105gのものを浮かべることができる。

家の重さ12tとは、1200万g。

よって、1200万g÷105g=11万4286個。

それだけの風船があれば、カールじいさんの家は空に浮かぶということだ!

◆準備がモーレツに大変!

この11万4286個とは、浮かべる力から計算で求めた数である。

アニメでは、巨大な風船のかたまり(家と比較すると、縦37m×横32mの楕円形。12階建てのビルほど!)が描かれていたので、それが風船何個でできるかを計算すると、なんと風船10万5803個!

浮かべる力から計算しても、アニメの描写から推定しても「カールじいさんは11万個ほどの風船で家を飛ばした」という結論に至るのだ!

これには筆者もちょっとびっくりしました。

そこで、ここから先は「風船11万個」という数値で考えたいが、11万個ともなると、用意するのがたいへんだったに違いない。

回想シーンによれば、カールじいさんの若いときの仕事は風船売り。

風船の扱いは手馴れたものだろう。

とはいえ、立ち退きを迫られていたカールじいさんが、旅の準備に使えた時間は、一晩しかなかったと思われる。

夜8時から朝6時までの10時間を使ったとしても、11万個の風船を膨らませ、口をしばり、糸をつけ、暖炉の下に結びつけるには、猛烈に急がなければならなかったはずだ。

10時間とは3万6千秒だから、1個に使えた時間は、3万6千÷11万=0.33秒。

あまりにも忙しい! 

カールじいさんは、目にも止まらぬスピードで、風船を膨らませては暖炉の下に結びつけていったのだろう。

ああ、こういうときにエリーがいてくれたら……と、ますます寂しくなったのではないかなあ。

費用も莫大にかかっただろう。

ネットで調べてみると、大きな風船は驚くほど高くて、直径75cmのものが1個千円もする。

風船売りだったカールじいさんは昔の仲間に相談すれば安く買えただろうが、仮に1個300円という破格のお値段で仕入れたとしても、11万個で3300万円。

ヘリウムもタダでは手に入らない。

同じくネットで調べると、7千L入りのボンベが中身だけで2万9400円。

これも昔のよしみで、1本1万円で購入できたとしよう。

縦80cm×横60cmの風船には、150Lのヘリウムが入るから、11万個で1650万L。

すると、1650万L÷7千L=2357本と1千Lで、ボンベは2358本が必要だ。

値段は2358万円。

風船と合わせて、5658万円もかかったことになる。高い!

カールじいさんは、これほどの手間とお金をかけて、エリーとの約束を果たそうとしたのだ。

ああ、エリーへの想いが伝わってくる……!

皆さまどうか、8月4日の「金曜ロードショー」は、空想科学的な視点も含めて、カールじいさんの冒険を応援していただきたい。

ところで、8月4日公開の新作『マイ・エレメント』は、『カールじいさんのデート』という短編も同時公開されるらしい!

あのじいさんがデート!? いったい誰と!?

この映画も、モーレツに気にかかる……!

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

柳田理科雄の最近の記事