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『ウルトラマン』の怪獣の「出身地」で、いちばん多いところはどこ? 意外な事実にびっくりするぞ。

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

筆者が子どもの頃、本屋には「怪獣図鑑」がたくさん並んでいた。

それらには、『ウルトラマン』などに出てきた怪獣たちの「身長や体重や弱点」が明記されており、怪獣の生態を想像してワクワクしたものだ。

それに加えて「出身地」が記載されていることも多かった。

たとえば、ゴモラの出身地は「ジョンスン島」、シーゴラスの出身地は「西イリアン諸島近海」という具合。

そんなふうに言われると、怪獣の存在感がリアルに伝わってくるようで、筆者は出身地を確認するのが大好きだった。

そこであるとき、手元にある何冊もの「怪獣図鑑」をひっくり返して、『ウルトラQ』から『ウルトラマンタロウ』までの昭和の怪獣について、出身地を調べてみたことがある。

怪獣は合計225匹。

図鑑によって記載されている出身地が異なる怪獣もいたが、筆者なりに納得のできる場所を選んでいった。

――その結果、思いもかけない事実が浮かび上がったので、ここで紹介したい。

いちばん多くの怪獣を輩出している地域は、いったいどこなのか!?

◆いちばん多い出身地はどこ?

調べた結果を先に示そう。怪獣たちの「出身地」ベスト5は次のとおりだ。

第1位……東京(37匹)

第2位……宇宙(25匹)

第3位……地底(18匹)

第4位……異次元(17匹)

第5位……海底(6匹)

なんとなんと、最も多くの怪獣を輩出している地域は「東京」だった!

地球生まれの怪獣160匹のうち、実に37匹が東京出身。

占有率は23%で、極度の一極集中だ。

狭い東京のどこに、これほどの怪獣がいるのだろうか?

具体的に挙げると、グドンやドドンゴが「奥多摩」、タッコングが「東京湾」、コスモリキッドが「多摩川」。

確かに、東京で怪獣が出るとしたら、そのあたりという気がする。

だが、都市部も平穏ではない。

住宅地の土管の落書きからはガヴァドンが登場し、マンションが怪獣になってビルガモが出現し、いまの東京都庁が建つあたりからは、ツインテールとグドンが現れた。

油断なりませんなあ、東京は。

それにしても面積2194km²の東京に37匹。

つまり59km²に1匹が出現するわけで、モーレツに濃密だ。

これに近い面積の地域を探すと、世田谷区が58.05km²、大田区が61.86km²。

東京の皆さん、いつ怪獣が出ても不思議ではありませんぞ。

しかし、これで幼い頃からの疑問が解けました。

筆者はテレビを見ながら「なぜ怪獣は、東京にばかり現れるのだろう?」と思っていたのだが、別に理由はない。

ヤツらは地元をうろつき回っていただけなのだ!

◆ジャミラの故郷はどこなのか?

第2位は「宇宙」だ。

東京から一転、ざっくりとした括り方だ。地球も宇宙の一部だから「わたしもあなたも出身地は宇宙」といえば、いえる。

だがここには、バルタン星人やゴドラ星人の「バルタン星」や「ゴドラ星」などは含んでいない。

出身地が「宇宙」というのは、生まれた星まではわからないが、とにかく地球外の出身ということなのだろう。

確かに、そう記述するしかない怪獣もいる。

スカイドンは、ある日突然、空から落ちてきた。

ただ寝たり歩いたりするだけなのだが、20万tというあまりの体重ゆえに、科学特捜隊もウルトラマンも四苦八苦。

そういう怪獣は、出身地も漠然と「宇宙」くらいがふさわしい。怪獣の特性を絶妙に反映した名出身地といえよう。

しかし、ジャミラの出身地を「宇宙」としている図鑑があったのは、いかがなものか。

ジャミラは、地球を出発した宇宙飛行士が、水のない星に置き去りにされ、環境によって怪獣に変異してしまった気の毒な人間なのだ。

ジャミラというのも、その飛行士の名前。

明らかに地球生まれで、『ウルトラマン』のその回のタイトルも「故郷は地球」だったのに、「出身地は宇宙」とされるなんて……。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

第3位は「地底」である。

たとえば、キングゼミラは「東京の地下」で、これも地底に分類した。

これはアブラゼミの怪獣だから、成虫になるまでは地底で過ごすというのは理にかなっている。

冬眠怪獣ゲランは地底1万m、原始地底人キング・ボックルは地底30km(=3万m)、地底怪獣テレスドンは地底4万m。

地底の5千mよりも深いところには、過酷な環境で生きられる細菌さえ棲まない。

エサになる動植物もないし、空気も届かないと思われるが、このヒトタチどうやって生きているのか……?

しみじみ興味深いのは、マグネドンの出身地「北極の地底」だ。

北極には、南極と違って大陸がない。

氷原の下は海だから、北極の地底とは「海底の地底」のことになる。

徹底的に下から叩き上げた怪獣ですなあ。

◆実在する地名が続々

日本生まれの怪獣は、出身地が具体的な地名で表されることが多い。

たとえば、レッドキングは「太平洋の多々良島」、サドラーの出身地は「霧吹山」、コダイゴンは「信州蓮根湖」だ。

これらの地名は、いかにも実在しそうでいて、おそらく架空なんだろうな……という雰囲気も湛えている。絶妙な出身地といえる。

ネロンガの「伊豆伊和見山」も同じだが、ヒドラの「伊豆大室山」となると、話が違ってくる。

大室山は実在する山で、伊豆・伊東観光協会の公式ホームページには「伊豆高原のどこから見ても、お椀をふせたような柔らかな曲線のシルエットが美しい大室山、標高580mの山頂に直径300mのすり鉢状の噴火口を持つ休火山」と書かれている。

そんな観光名所が怪獣の出身地……!

箱根出身の怪獣は多くて、キングザウルスⅢ世は「箱根山中」、ロードラは「箱根付近」、レオゴンは「芦ノ湖」。

出身地ではないけれど、『ウルトラQ』では箱根に向かうロマンスカーが宙を飛んだりしていて、箱根はなかなかオソロシイところなのだ。

実在する地域の怪獣たちは、他にも多い。

カウラの出身地は「岡山県」。桃太郎で有名なところだ。

グロンケンは、蕎麦がおいしい「長野県松本市」。

ベロクロンは、ぶどうが採れる「広島県福山市」。

ダンガーは、マグロのジャーキーが美味な「沖縄県南大東島」。

パゴスは、納豆の名産地「茨城県」。

ザンボラーは鳩サブレ―で有名な「鎌倉市」。

……などなど、つい名産の食べ物と併せて紹介してしまったが、そうすると怪獣も身近に感じられませんか?

そうかと思えば、よくわからない出身地も多い。

カイマンダーとシシゴランの出身地は「神社」。

ムカデンダーは「八幡神社の裏山」。

スフィンクスの出身地は「小学校の校庭」で、ザイゴンに至っては「ビル街」だ。いや、それらは施設やロケーションの名称であって、地名ではない。

サウンドギラーに至っては「騒音のある所」。もはや施設名ですらない。

もう何でもアリの出身地だが、筆者は時間があるときなど、いまでも怪獣図鑑の出身地の項を眺めて、怪獣がそこで育ってきた様子などを想像し、ニコニコしてしまう。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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