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神と人間のガチバトル! 『終末のワルキューレ』のゼウスvsアダムの戦いが、意外すぎてオモシロイ!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

とんでもない設定なのに、モノスゴク面白いのが『終末のワルキューレ』だ。

人類の存亡をかけて、神と人間の代表13人ずつが、ガチでバトルする!

なぜそんな対決になったかというと、きっかけは「人類存亡会議」だった。

これは、全世界の神々が一堂に会して「人類に次の千年の存続を許すか、それとも滅亡させるか」を決める会議で、「人間たちは、地球の環境を壊してきた」という意見が次々に出され、満場一致で「人類滅亡」が決まりかける。

そのとき、ワルキューレ(戦場で死んだ兵士を天に導くとされる半神の女性たち)の一人・ブリュンヒルデが「ただ滅ぼすのでは…… あまりにも…芸がない」と、神と人間の最終闘争(ラグナロク)を提案した。

それは、神と人類が13人ずつの代表を出して戦い、先に7勝したほうの勝利。人類が勝てば千年の生存が許可され、負ければ滅亡させる――というものだった。

こうして始まる神vs人間のガチバトルは、そのメンバーからして興味深い。

神々はゼウス、シヴァ神、ヘラクレス、スサノヲノミコト……など13神。

人類は始皇帝、沖田総司、ラスプーチン、ノストラダムス……など13人。

なぜその人選!?というのも含めてオモシロイのだが、ここでは、第2回戦を紹介したい。

これは、神々の代表がゼウス、人類の代表がアダムというビックリ対戦なのだ。

◆アダムが強い理由

ゼウスは、ギリシャ神話の最高神。宇宙や天候を支配する全知全能の存在といわれ、作中でも「神の中の神(ゴッド・オブ・ゴッド)」と呼ばれていた。

見た目はヨボヨボのおじいさんだが、全身に力を込めると、筋肉が「ムキャキャ!!」と増量して、身長250cmを超えるような巨漢になる。質量保存の法則を軽々と超越しているあたり、さすが最高神だ。

一方、人類の代表がアダムなのはなぜか? 旧約聖書で「人類の始祖」とされるアダムが、特に格闘技に強かったという話は聞かないが……。

ところが、このアダムが強かった!

戦いが始まると、先に仕掛けたのはゼウスで、アダムの顔面にジャブを放つ。が、アダムは簡単にかわした。ゼウスのパンチは、その後どんどん速くなるが、アダムはすべてをかわし続ける。

そして反撃に転じると、それまでゼウスが放ち続けたのと同じ攻撃をしていき、それが次々にクリーンヒットするのだ。

なぜそんなことができるのか?

それは、アダムが「“神は自らのかたちに模し 人を創造された” 旧約聖書創世記第1章27節」からだという。つまり、神をマネて作られたヤツだから、神がやることをマネるのが得意!

これには大笑いしてしまった。このマンガは、こういう強引な解釈が実にオモシロイ。

アダムは、この能力「神虚視(かみうつし)」を駆使してゼウスを翻弄し続け、全宇宙の神をついにダウンさせる。これには、作中の神々や人間たちや、実況アナウンサー(北欧神話の神・ヘイムダルが担当)も驚いていたが、筆者もビックリしました。

◆パンチがどんどん速くなる!

しかし、ゼウスをダウンさせられるほどの攻撃ができるのは、最初にゼウスがすごいパンチを放ち、アダムがそれをマネしたから。

つまり、ゼウスの攻撃がそれだけすごかった、ともいえる。

では、ゼウスのパンチの威力はどれほどなのか?

マンガではいちいち「パンチの所要時間」が示されていたが、最初のパンチが、なんと「0.01秒」。

これが、ファイティングポーズから腕が伸び切るまでの時間だとしたら、ゼウスの腕の長さを90cmとした場合、拳の最高速度は秒速180m=時速648km(平均速度はその半分で時速324km)だ。

プロボクサーのパンチのスピードが時速40kmといわれるから、その16倍である。体重あたりの破壊力は2乗になって256倍!

次に放ったパンチは、所要時間0.001秒。速度は秒速1800m=マッハ5.3!

その次は、0.0001秒で、秒速18km=マッハ53!

そのまた次は、0.00001秒で、秒速180km=マッハ530!

さらに速くなって、0.00000001秒で、秒速18万km=光速の60%!

◆すごすぎて、すごくない!

これらをすべてかわしたアダムは、ゼウスに「逃げるだけではどうしようもないぞい?」と言われると、ついに反撃に出た。

最初のパンチは0.01秒で、次に0.001秒。さらに0.0001秒……と、前述どおり、ゼウスの攻撃を順次再現してすべてクリーンヒットさせ、ついにダウンに追い込んだのだ。

ここに至ってゼウスは、かつて「時間の神」である父・クロノスから受け継いだ「時を超える拳」を出す。

その所要時間は、コマのなかには「0.00000000000000000000」としか書かれていない。まだ数字は続きそうなのだが、具体的な数値がわからない。

仕方がないので、その次が「1」だったと考えると、どうなるか?

90cmを0.000000000000000000001秒のパンチとは、秒速180京km=光速の6兆倍のスピードだ!

この宇宙では、いかなるものも光速を超えないはずだが、全宇宙の父ならそれもアリなのか……!?

ただ、その威力を考えるとナゾなことになる。

光速を超える仮想的な物体は「タキオン」と呼ばれて研究されており、「速度が速くなるほど、運動エネルギーは小さくなる」というビックリ仰天の結論が導かれている。

その論に従って計算すると、光速の6兆倍のパンチの威力は秒速173mのパンチと同じ。えっ、最初のパンチ(秒速180m)より威力がない!?

あまりにすごすぎて、全然すごくないことになってしまうゼウス。やっぱりすごすぎる!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

ところで、なぜアダムはここまで強いのか? 対戦相手のゼウスも気になったようで「おぬし本当のところ なぜ神々との闘いに出てきた?」と聞いたところ、アダムは「子供たちを守るのに―― 理由なんているのかい」と答える。

その言葉に、すべての人間たちは父(アダム)の勝利を祈ったという。実況のヘイムダルも「いま人類がこの瞬間ひとつになっている!!!」と絶叫していた。

いや、もう筆者は、感動していいのか、笑っていいのかわかりません!『終末のワルキューレ』、とにかくすごいマンガである。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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