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NHK「大投票」番組で人気1位の『仮面ライダー電王』。その劇中キャラに、電王より強そうな人がいる!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

11月6日に放送されたNHKの『発表!仮面ライダー大投票』において、作品部門の1位に『仮面ライダー電王』が輝いた。仮面ライダー部門でも、主人公が変身する電王が選ばれたから、見事な2冠である!

『仮面ライダー電王』は2007年に放送された平成ライダーの第8作で、主人公は引っ込み思案で体力もなく、運さえも悪い野上良太郎。

そんな彼が変身する電王が人気ナンバー1とあっては、筆者もその能力を考察しなければ……と思ったのだが、実は主人公・良太郎以外にも、気になって仕方がない人物がいる。

それは、「時の列車」デンライナーの乗務員・ハナちゃん。

オーナーの依頼で「時の番人」として活動しており、良太郎を電王にスカウトしたのもハナちゃんだ。

ハナちゃんは負けず嫌いの性格で、デンライナーに乗っているモモタロスら4人のイマジンを仕切る。良太郎を守ることが自分の使命だと思っている。

変身するわけでもない彼女が、さりげなくやっていることがあまりにすごいので、良太郎にはちょっと悪いけど、ぜひここで考察したい。

◆モモタロスを殴り飛ばす!

注目すべき事件が起こったのは、デンライナー車内において。

おやつの時間に大きなプリンが出てきた。プリンを作ったのは、料理が苦手なハナちゃんだ。

それを知ったイマジンのモモタロスが、ハナちゃんに「食えるんだろうな」と言った瞬間、ハナちゃんの蹴りがうなった。

顔面を蹴り上げられたモモタロスは、デンライナーの天井にドカッとぶつかり、しばらく天井に張りついていたが、やがて落ちてきた……!

このシーンは、二つの意味でスゴい。

まず、人間が人間(のような大きさのヒト)を蹴って、飛び上がらせたこと。これ、現実にはまず不可能だ。

ある実験記録によれば、キックボクサーが鉄枠にぶら下げた重量70kgのコンクリート柱にミドルキックを叩き込んだところ、衝撃力1.2tを記録し、コンクリート柱は時速2.5kmで揺れたという。

かなりすごい力だと思うが、同じ威力のキックで体重70kgの人間を蹴り上げたとしても、上昇する高度は2.4cm。わずかである。

それに比べて、蹴られたモモタロスは1m50cmほども上昇している(劇中の描写からの目測)。

モモタロスの体重は102kgもあるから、ここから計算すると、ハナちゃんのキック力は、少なくとも108tだ!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

電王のキック力は、リュウタロスが憑依してパワーアップしたガンフォームと、最強形態のクライマックスフォームがいちばん強くて、それぞれ10t。

でもハナちゃんはその11倍のキック力を誇るわけで、戦いにはハナちゃんが行ったほうが確実に勝てると思う。

そしてもう一つすごいのは、しばらくモモタロスが天井に張りついていたこと。

これはおそらく「あまりにすごい勢いで天井にぶつかり、しばらく上昇力が持続した」という状態を表すものだろう。

でも、普通そんなことはあり得ない。天井にボールをぶつけたとき、威力がすごかったので長く張りついていた……という現象を見た人はいないはずだ。

――このナゾ、科学的にはちょっと解けそうもないです。

◆デンライナーに穴を開ける!

ハナちゃんのすごさは、それだけではない。

別の回で、モモタロス以外のイマジンたちが消えてしまうが、最終的に全員帰ってくる……というエピソードがあった。

モモタロスは「清々してたのによ!」などと悪態をついていたが、デッキに出ると嬉しさのあまり涙。ところが、そこでハナちゃんも泣いていた。

モモタロスは自分のことは棚に上げ、みんなに彼女が泣いていたことを教えようとする。

ここで、ハナちゃんの平手打ちが炸裂した!

モモタロスが激突したデンライナーの壁には穴があき、彼はそこから外に飛び出した。しばらくは壁の穴につかまっていたが、やがて力尽き、線路に落下していく……。

これも仰天のシーンである。

壊れた様子から推測すると、おそらくデンライナーの壁は、軽くて強靭だが、限界を超えると割れ砕ける炭素繊維強化樹脂(CFRP)でできているのだろう。

CFRPはプラスチックの10倍の強度を持つ。そのうえ、デンライナーの壁は目測6cmもの厚さがあった。生半可な力では穴などあかないと思われる。

そこで、筆者がプラスチックの板に鉄棒を落とす実験を行って、そこから得られたデータをもとに計算したところ、ハナちゃんの平手打ちは、モモタロスを時速370kmで吹っ飛ばしたことになった。新幹線よりも速い!

そして、これに必要な力は、なんと3万9千t!! あまりにもすごい!

空想科学的には、ハナちゃんは明らかに仮面ライダー電王よりも強そうだ。

こんなすごい女性に守ってもらえて、なんとシアワセだったのか、野上良太郎。

そのうえ『仮面ライダー大投票』で2冠を獲得するなど、ますます幸せなヒトだ。

良太郎、そしてハナちゃん、おめでとう!

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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