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コンビニ3社限定「サクレ」「トリス缶」登場 NPB(ナショナル・プライベート・ブランド)戦略の狙いは

渡辺広明コンビニジャーナリスト/流通アナリスト
大手コンビニ3社のNPB(ナショナル・プライベート・ブランド)商品勢揃い筆者撮影

暑い季節がやって来た。今回は夏にぴったりな、コンビニ商品のユニークな試みについて紹介してみたい。

フタバ食品のおなじみかき氷「サクレ」シリーズといえば、レモン味が定番である。ところが現在、セブン-イレブン(以下セブン)、ファミリーマート(以下ファミマ)、ローソンから、それぞれ限定味の「サクレ」が登場している。

セブンからは「コーラ」、ファミマは「ソルティライチ」、ローソンからは「りんご」の各味が販売されている。セブンの「コーラ」にはラムネが入っており、駄菓子的な、子供が好きそうな楽しさがある。対してファミマの「ソルティライチ」はさっぱりとしていて、どちらかと言えば大人向けだろうか。ローソンの「りんご」は、サクレのオリジナル味である「レモン」「いちご」「メロン」の流れをうまく汲んでいる印象。サクレのファンならぜひチェックしておきたいフレーバーだ。セブンとファミマからは昨年も販売されていたようだが、ローソンは今年から。サクレ限定味の「3社そろい踏み」は今夏からのようだ。

同様に、サントリーの「トリスハイボール缶」も3社それぞれから限定味が登場している。セブンは「太陽のレモン」、ファミマは「青空レモン」、ローソンは「夜風のトニック」というラインナップで、こちらは2018年からチェーン限定味が展開はされている。味のレビューは別の機会に譲りたいが、SNS等の反響を見るに、すでにそれぞれの限定味にファンがついているようだ。

各社の「トリス缶」 左から青空レモン(ファミマ)、太陽のレモン(セブン)、夜風のトニック(ローソン)/著者撮影
各社の「トリス缶」 左から青空レモン(ファミマ)、太陽のレモン(セブン)、夜風のトニック(ローソン)/著者撮影

コンビニには、メーカーが販売するナショナル・ブランド(NB)商品と、「セブンプレミアム」に代表されるような、コンビニ独自のプライベート・ブランド(PB)商品がある。そしてもうひとつの流れが、「サクレ」や「トリス缶」のような、NB商品でありながらコンビニ限定で販売される商品だ。私はこれをナショナル・プライベート・ブランド(NPB)商品と呼んでいる。

◆NPB(ナショナル・プライベート・ブランド)のしがらみ

これだけ大々的に、ひとつの商品のNPBが3社から登場したことには隔世の感がある。本来、メーカーが特定のチェーンに肩入れすることになるNPBは、「しがらみ」を生みがち。他社からの限定味が出ることを許したということは、それだけNPBがコンビニ業界に浸透してきたという象徴である。

私がローソン勤務時代に体験したこんな出来事は、しがらみの典型だ。

たしか1995年頃のこと。某大手飲料メーカーが、セブンの限定ビールを製造したことがあった。

セブンとメーカー名が併記される「Wチョップ商品」と呼ばれるジャンルである。要はNPB商品のことだが、当時はまだこの概念はまったく無く、業界に衝撃を与えた。

ローソンの当時の親会社・ダイエーの氏中内功は、この商品の発売を知り、激怒。そのメーカーが販売するお茶商品を、店頭からすべて撤去するよう指示したのだ。セブンにだけ肩入れするのはけしからん、というわけである。

撤去対象になったお茶はローソンにとっても大事な商品である。撤去されてしまうと店舗としても大いに困る。撤去は数日して解除されることになったが、もちろんメーカー側は焦っただろう。

◆NPB(ナショナル・プライベート・ブランド)のメリット2つ

私がコンビニ側の立場から、NPB企画に参加したこともある。ライオンが販売する制汗剤BANブランド企画だった。これも2000年代の初めだったから、やはりNPB文化はほぼ浸透していなかった。この時に企画したのは、NBとして5種類ほどあった制汗剤商品に加え「限定の香り」として売るローソンのNPBである。ローソン以外のコンビニにも置いてある商品だったから、先述のようなしがらみも当然あった。

だが、NPBには大きなメリットもあるのである。ざっくり言えば、

(1) メーカー側からは「棚が確保」してもらえる

(2) コンビニ側からは「緊急購買」の後押し

ということだ。制汗剤を例にとって解説しよう。

(1)は、実際の売り場を想像してもらえるとわかりやすい。コンビニ限定香料の商品が棚に並ぶということは、当然、その隣にはNB商品、つまり「通常の香り」の商品が置かれることになる。分かりやすく言うと、メーカーにしてみれば、通常は1商品しかコンビニの棚に置いてもらえないところ、そのチェーンの限定版を出すことで、最低2つの自社商品が販売されることになるのだ。全店での取り扱いが1商品増えるだけで、店頭には平均3個並ぶ事を考えると、可能性は低いがもし全店置かれたと仮定すると、約2万店あるセブンであればプラス6万個、ファミマ、ローソンでも約4・5万個分の商品が棚に置いてもらえることになる(そして売り場の広さによっては、ライバル社の制汗剤が棚から「押し出される」こともあるだろう)。

もちろん、先述の飲料メーカーのように、ローソン限定を出すことで、セブンやファミマの怒りを買い、そちらで売ってもらえなくなるリスクもある。そこはメーカーの営業判断だ。もともとセブンやファミマでの売上が芳しくない商品であれば、そちらは「捨て」、ひとつのチェーンに注力したほうが効果的だということもあるだろう。

対して(2)はコンビニ側の事情が大きい。コンビニで売られる商品は、コンビニが定価販売を基本としている事もあり、基本的には薄利多売の他の小売で買ったほうが安いことが多い。制汗剤であればドラッグストアの方が安いし、食料品もスーパーの方がお得なことがままある。にも関わらずコンビニで商品が売れるのは、急に必要になったから買う「緊急購買」の需要があるからだ。

急に汗が気になって制汗剤が欲しい、だけれどドラッグストアが近くにないから、割高であるのを承知でコンビニにやってきたそんなお客様が棚をみた時、コンビニ限定と謳っていれば、わざわざコンビニで買うことへの「納得」が得られやすい。コンビニでしか買えない商品なんだからコンビニで買ってもいいじゃないか、というわけだ。これはお菓子や飲み物にしても同様だ。「コンビニで買う」ことの理由づけに、限定のNPBは効果を発揮するわけである。

こうした事情を踏まえれば、3大コンビニすべてでNPBを展開する「サクレ」「トリス缶」の販売戦略が、いかに強固かお分かりいただけると思う。各メーカーとコンビニ各社との間の長年の関係性、またはメーカー内部にいる、やり手の交渉担当者の努力の賜物ではないかと察する。

コロナ禍で外食や外出がしにくい今夏ではあるが、お近くのコンビニへ足を運ぶ際にNPB(ナショナル・プライベート・ブランド)商品をご自宅で比べて楽しむという夏の過ごし方はいかがでしょうか。

コンビニジャーナリスト/流通アナリスト

渡辺広明 1967年生まれ、静岡県浜松市出身。コンビニの店長、バイヤーとして22年間、ポーラ・TBCのマーケッターとして7年間従事。商品開発760品の経験を活かし、現在 (株)やらまいかマーケティング 代表取締役として、顧問、商品開発コンサルとして多数参画。報道からバラエティまで幅広くメディアで活動中。フジテレビ「Live News a」レギュラーコメンテーター。 「ホンマでっか⁉︎TV」レギュラー評論家。全国で講演 新著「ニッポン経済の問題点を消費者目線で考えてみた」「コンビニを見たら日本経済が分かる」等も実施中。

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