Yahoo!ニュース

#コロナとどう暮らす】緊急事態宣言の解除後も「心のモヤモヤ」は続く

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
新型コロナによる「心のモヤモヤ」をLINEのチャット機能で相談してみては?(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 新型コロナウイルスの影響により、人の心はどのような影響を受けているのだろうか。5月中旬の2日間、北陸在住の心理カウンセラーら6人がLINEのチャット機能を使って「コロナ心のモヤモヤ相談」を実施した。アクセスは予想を上回る133件。緊急事態宣言が解除されても不安を抱えている人は少なくない。そこでカウンセラーたちは6月11、12、13日も相談に応じる方針で準備を進めている。チャットでどんな悩みが明らかになったのか? 全国心理業連合会認定プロフェッショナル心理カウンセラーの野末貴代さんに聞いた。

「心のモヤモヤ相談」の相談員を務める心理カウンセラー・野末貴代さん(本人提供)
「心のモヤモヤ相談」の相談員を務める心理カウンセラー・野末貴代さん(本人提供)

 ――「コロナ心のモヤモヤ相談」は、どのような経緯で実施されたのですか。また、相談に応じたメンバーについても教えてください。

 北陸でメンタルヘルスに関わる3団体・法人(こころネット北陸LLC、一般社団法人カウンセラーカレッジ石川、株式会社ヒューマン・サポート)の共同企画事業として開催しました。相談に応じたのは一般社団法人全国心理業連合会認定のプロフェッショナル心理カウンセラーや、臨床心理士、公認心理士、スクールカウンセラーなど、日ごろからさまざまな場でカウンセリングに当たっている6人です。「スーパーバイザー」という立場の人もいて、カウンセラーと相談者のやりとりが適切に行われているかをチェックしてもいました。

心のモヤモヤ「不安」が34%

 実施したのは5月15日と17日の2日間で3回に分けて3時間ずつでした。LINE公式アカウントにアクセスがあったのは133件、相談が成立したのは35件。時間外にもアクセスがありました。成立した相談の合計時間は2,305分で、相談1件当たりの平均時間は約66分。相談内容を外的・内的の区分で内訳を分析すると次のようになります。

▽外的区分

・自分自身のこと38%

・現在の環境面13%

▽内的区分

・不安など34%

・メンタル不調11%

・身体症状9%

・怒りやクレーム8%

・自殺念慮2%

 ――心のモヤモヤを表す「内的区分」のトップである「不安」は、何に起因しているのでしょうか。また、どんな対応をされましたか?

「風邪のような症状が出ている。コロナではないか」「お金がない。仕事も不安定」「家族が発熱し、味覚障害などの症状が出ている。コロナでは?」「もともと持病があり病院に通っている。今、受診してもいいのか」などの理由から不安になったようです。

 まず徹底的に話を聞きました。悩みに寄り添い、「そうですね」などと言葉を掛けることが大切です。1時間かけて相談に応じるとすれば40分以上は共感や受容に費やします。とにかく不安な胸の内を話してもらう。吐き出した感情をカウンセラーが正しく受容することで、相談者の悩みや不安は軽減されていきます。

まず不安を出し尽くして

 ――「不安を出し尽くした」と判断するタイミングは、何でしょうか。緊急事態宣言が解除され、友人・知人と会う機会も増えます。私たちが日常生活で相談を受ける時、参考になればと思います。お聞かせください。

 三つあります。相手の方から「どうしたらいいですかね?」などと聞いてくること。二つ目は、「行政や社会が悪い」などの原因を外に求めていた姿勢から一転し、「ほかの視点から考えてみよう」という気づきが見えた時です。三つ目はチャット機能ならではの見極め方法です。文章の量が少なくなるタイミングです。長く、連続していたコメントがトーンダウンしてくると、気持ちが落ち着いているはずです。

 不安を出し尽くすと「気づき」が生まれ、話を聞く準備ができます。「今の状況で、何かやってみたいこと、できそうなことはありますか」と声を掛けます。すると自発的なアイデアが生まれたり、「情報をください」と助言を求められたりするようになります。

 LINE公式アカウント「コロナ心のモヤモヤ相談」に登録すると最初に送られてくるメッセージ(筆者撮影)
 LINE公式アカウント「コロナ心のモヤモヤ相談」に登録すると最初に送られてくるメッセージ(筆者撮影)

 ――不安が募り、心身の異変を感じている方も多いようですね。

 心身の不調としては「鬱々として何もやる気が起きない」「だるい」などがありました。家事がこなせないなど、日常的な行動とかけ離れているために周囲に対して「申し訳ない」と感じ、家族とのコミュニケーションに影響が及んでいるケースも。また、家族から注意を受けて気に病んだり、口論になったりすることもあります。

 ――口論になるのはコミュニケーションの中で「怒り」をぶつけたり、助言を「クレーム」と感じたためとも言えますね。緊急事態宣言が解除されても依然として感染のリスクはありますし、経済的なダメージは今後、表面化してくるはずです。家庭や職場のコミュニケーションに支障を来すことは、これからもあるのではないでしょうか。

 夫婦関係が悪化し、離婚を考えるようになるケース、テレワークが快適だったことから職場の人間関係にストレスを感じていたことが分かり、転職を考えているケースもありました。また、コロナとは関係のないこと。例えば「職場でパワハラやセクハラがある」という不満を訴えた方もいます。ずっと悩んでいたことを、このタイミングで相談したということです。

生活が苦しく「死にたい」

 自殺念慮もありました。アクセスが集中し、相談者を待たせてしまったことが少なくありませんでした。話を聞き始めると、生活が苦しく「死にたい」という思いを明かすケースも。苦しい胸の内を語らずにはいられなかったのでしょう。

 ――コロナはいろんなマイナスの感情を増幅させ、隠れていた問題点をあらわにしたということですね。

 いつもできていたことができないのは、やり通すエネルギーが低下してしまったからです。また、悪い情報ばかりが入ってくる。だから「コロナに関する情報に触れるのは1日1回だけ」と助言しました。

 何かに不満を持っていて、抑圧された生活の中で爆発してしまった方もいる。また、もともと持っていたメンタルヘルス不調が、コロナによってダメ押しされたケースもあるでしょう。普段は友達とのおしゃべりや趣味などに打ち込むことで忘れていたストレスが解消できない。そんな印象を受けました。

いったん気持ちを整理できたらいい

 話を聞いてみると、本当に厳しいケースもある。相談だけで気持ちを切り替えられることは、むしろ少ないでしょう。相談者は、すぐに答えや助言をほしいわけではなく、話を聞いてもらいたい。理解してほしいのだと感じます。だからこそ、相談者の皆さんに「迷いは、ごく自然なこと」「いったん気持ちを整理できたら、それでいい」とお伝えしています。

 ――LINEのチャット機能を使っての「コロナ心のモヤモヤ相談」。あらためてその意義をお話しください。

 医療系の悩みだからといって病院へすぐにつなげばいいというわけではない。むしろ、「話してすっきりした」と相談を終えるケースの方が多かったです。だからこそ、意味があると思います。クラスターが発生した医療機関や施設などにクレームの電話をする人がいると聞きました。多忙な医療従事者や介護関係者に怒りをぶつけることは彼らを疲弊させ、貴重な時間を奪ってしまいます。大きなマイナスです。

 私たちが相談を受けることで怒りを吸収する。相談の中で、コロナに対しての不安のみならず、その人が潜在的に抱えている悩みは何なのかを知り、本人の自覚につなげることこそ大切なのかもしれません。日常においては、関わり合う人同士がお互いの声に耳を傾けることが大切。「自粛警察」になって暴走したり、正義を押しつけたりする行為を防ぐことにもつながるはずです。

 相談者にアンケートを実施しました。「カウンセラーは寄り添ってくれたか」という質問に対し、回答者全員が「満足している」との評価でした。さらには「また、やってほしい」という声が60.9%もありましたので、6月の「第2弾」を実施します。緊急事態宣言が解除されても「心のモヤモヤ」は、すぐにはなくならないのではないでしょうか。

※「コロナ心のモヤモヤ相談」の詳細や、6月の実施予定はこちら。

https://peraichi.com/landing_pages/view/ygukz?fbclid=IwAR3XTQW-l1WT-dfBaLqainkkzBjP9YQZVF_Acz1vNw3fFHd4xWu8F6qf1c0

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・Webメディアで執筆。ニュースサイトは医療者向けの「m3.com」、動物愛護の「sippo」、「東洋経済オンライン」、「AERA dot.」など。広報誌「里親だより」(全国里親会発行)の編集にも携わる。富山を拠点に各地へ出かけ、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療・介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

若林朋子の最近の記事