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みらスタ再開戦は黒星 サイドで優位性築けず/レノファ山口

上田真之介ライター/エディター
雨の中の黒星=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 J2レノファ山口FCは7月5日、山口市の維新みらいふスタジアムで愛媛FCと対戦し、0-3で敗れた。攻撃でリズムに乗れず、守備でも前後半ともに終盤に失点を繰り返した。観客を入れないリモートマッチは0勝1分1敗で、順位は14位に下げた。

明治安田生命J2リーグ第3節◇レノファ山口FC 0-3 愛媛FC【得点者】愛媛=西岡大志(前半47分)、長沼洋一(後半43分)、有田光希(同44分)【入場者数】0人(リモートマッチ)【会場】維新みらいふスタジアム

 レノファはリーグ再開戦となった前節のファジアーノ岡山戦で、2点を先行しながら引き分けに終わっていた。一方で愛媛は3点差をひっくり返す劇的な勝利。対照的な状況で迎えるゲームとなった。

 試合はその勢いを反映するかのように、愛媛に軍配が上がる。「いろいろな策が今日は裏目に出てしまった」。レノファの霜田正浩監督は試合後、そう振り返った。

川井とヘニキの右サイド

縦パスに追いつこうとする川井歩。後ろではヘニキがカバーしている
縦パスに追いつこうとする川井歩。後ろではヘニキがカバーしている

 目を引いたのは右サイドの使い方だ。このサイドは、サイドバックの川井歩、アンカーのヘニキ、ウイングの池上丈二の3選手で構成したが、攻撃局面ではヘニキが外を張ったり、池上が内側へと絞ったりとオートマチックな動きで川井が前線へと進出するルートを開いた。左サイドは前節との大きな違いを感じるような組み立てではなかっただけに、右サイドの変容は際立った。

 左右非対称のビルドアップには、一つの推論を立てることができる。

 サイドバックやボランチに着目すると、安在和樹や高宇洋は攻撃と守備のどちらでも遜色のない安定したパフォーマンスを見せられるが、攻撃偏重や守備重視などどちらかに針が振れている選手もいる。本来ならバランスのとれた顔ぶれをスタメンに並べるのがセオリーではあるが、極端な連戦がある今年は必ず総力戦となる。

 今日の右サイドはまさに連戦を見越したような起用だった。武岡優斗を選択せず、積極的な攻撃参加を武器とする川井歩と、ビルドアップに課題がありながらも対人守備には強いヘニキをチョイスして役割を分散。川井に関しては守備負担を減らし、積極果敢な攻撃参加を促した--。このような戦略は十分に考えられる。

 もっとも、本来なら試合後の取材で詳しく聞きたいところだが、オンライン会議システムを使用した取材で対象選手に限りがあり、どのような役割を負っていたかは十分には把握できていない。ただ、変則布陣が効果を発揮したとは言えず、地元テレビ局が投げかけた核心部への質問に霜田監督は「ヘニキと川井で攻守にわたってやりたかったが、なかなかうまくいかなかったというのが正直なところ」と返答。残念ながら非対称のビルドアップは及第点には達しなかった。

 しかし、右サイドだけが機能しなかったわけではない。愛媛の素早いチェックに苦しみ、レノファは左右無関係にチーム全体としてボールを保持できなかった。ほとんどの時間帯で愛媛に主導権を握られ、相手の攻撃を跳ね返しても、セカンドボールから反復攻撃を受け続けた。

池上丈二のパスセンスは後半に生きてきた
池上丈二のパスセンスは後半に生きてきた

 従来のポジションならば、池上がトップ下でボールを受けたり、高井和馬が第2節でイウリのゴールをアシストしたようにボールを受けに動く場面は見られるが、前半は「トップ下」の位置でボールを受ける選手が決まらず、ボランチから供給するパスはロングボールが目立ってしまう。

 レノファがチャンスを作れないままに時間が過ぎ、前半のアディショナルタイムにはCKの流れから失点。1点差を追いかける状態でハーフタイムに入った。

後半はともに布陣変更

 ハーフタイムでレノファはヘニキから森晃太に交代し、右ウイングに配置。池上を今年の定位置になっていたトップ下に戻すなど、従来の形で仕切り直しを図った。

 対する愛媛の川井健太監督もレノファの動きを読んで、戦術を転換。このハーフタイムで清川流石を下げて中盤に山瀬功治を投入。4-4-2としていたシステムを、5バックでの守備がしやすい3-5-2に変更した。「後半は山口さんのパワーが来るのではないかというところで、両ウイングを止めるためにシステムを変えた。守備の安定を図った」(川井監督)。レノファの森と高井に自由を与えないシステム変更は、結果が物語るように機能していく。

イウリへの供給は安定せず
イウリへの供給は安定せず

 とはいえ、レノファは相手が引き気味になったことと、従前の布陣にしたことでボールの受け手がはっきりし、愛媛陣内にようやくボールを運べるようになる。後半の早い時間帯からシュートシーンが増え、セットプレーからもチャンスをつかんだ。ボランチからウイングに飛ばしたり、池上がボールを受けて左右に散らしたりと得意とする攻撃パターンで相手陣内でサッカーを展開する。

 それでもウイングの行く手を阻む愛媛の堅い守りは突破できなかった。ピッチコンディションの悪さや後半25分頃からの強雨はパスの質を低下させ、そもそも針の穴を通すようなコースしかない1トップへのルートを遮断した。小松蓮、浮田健誠を相次いで投入するものの、ブロックの中に入ってのシュートは限られた。

 最終盤には集中が途切れて連続失点。レノファは後半だけで14本のシュートを放ちながら、ゴールを脅かすには至らなかった。「最後のクオリティーでまだまだのところが出た」(池上)。5バックの相手をどう崩すかは未だ課題のままで、天を仰ぐ無得点での敗戦となった。

「成功体験」の再現へ

 リモートマッチながら、ホーム戦で0-3。「前節・岡山戦の布陣だったら…」とたらればを言いたくもなるが、常にベストメンバーで戦えるわけではないのが、今年の難しさ。

 右サイドを使った組み立てにもう一度注目すると、レノファは一つの成功体験を持っている。言うまでもなく、三幸秀稔(湘南)、前貴之(横浜FM)、小野瀬康介(G大阪)の3人が絡んだゲームメークで、ボールをダイナミックに動かしながらゴールに近づいていくというレノファらしさを、高いレベルで体現した。

 3人とも攻撃に強みがある選手だったが、レノファ在籍中に守備面でもスキルアップし、リスクをコントロールする力も備わった。レノファでの武者修行で、J1チームから声が掛かるオールラウンダーに成長。選手を育てるという面でも、彼らの軌跡はレノファにとって誇らしい経験になっている。

 J2リーグの多くのクラブがそうであるように、レノファは決して完成された選手を集める側ではない。磨けば光る原石を見つけ、実際に磨き、成長をチームの力にしていくクラブの一つだ。とりわけ今年の過密日程を考えれば、大半の選手を一定のレベルにまで引き上げねばならないが、時間の猶予はなく、磨くスピードを上げたり、磨く方法を変える必要もある。むろん、最も有効な方法は実戦経験の積み重ねだ。

 今日は確かに右サイドの研磨はうまく行かなかった。しかし、センターバックでは大卒ルーキーの眞鍋旭輝を起用し、Jリーグに慣れていない中でも十分に戦えることを証明。霜田監督は「性格的にも技術的にも十分に戦力になってくれる。ここから成長してくれれば」と評価した。前線では森晃太、浮田健誠など他の若手も戦術へのフィットが進む。

ピッチコンディションは連戦に入ればさらに悪化する可能性も。状況に応じた戦い方も必要だ
ピッチコンディションは連戦に入ればさらに悪化する可能性も。状況に応じた戦い方も必要だ

 成長が感じられる部分を拾っていけば、少しずつでもチーム全体の底上げが図られていることに気づく。次はどのような組み合わせで「磨き」を掛けていくのか楽しみだ。

 ただ、0-3という負け方は、昇格を目指すチームとしては情けない。次戦からは強い制限が掛かる状態ながら観客が入る可能性が高く、サポーターの目の前で悲劇的な負け方をするわけにはいかない。成長を促し、勝利を目指す。成功体験をもう一度手にするために、チームが一つになって戦いたい。

 次戦以降は連戦となる。7月11日にジュビロ磐田と、同15日に徳島ヴォルティスといずれも敵地で対戦。次のホームゲームは同18日のFC琉球戦で、7月5日時点では観客を入れて開催する。ただ、状況は変わる場合もあるため注意が必要だ。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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