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6試合ぶりの黒星。決定力不足が響く 首里城再建支援へ募金活動も/レノファ山口

上田真之介ライター/エディター
琉球が決勝点。明暗の分かれるゴールとなった=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 J2レノファ山口FCは11月3日、維新みらいふスタジアム(山口市)でFC琉球と対戦し、1-2で敗れた。主導権を握る時間は長かったが、試合の立ち上がりと最終盤に失点し、6試合ぶりの黒星。攻守に甘さが目立つ試合となった。

明治安田生命J2リーグ第39節◇山口1-2琉球【得点者】山口=高井和馬(前半37分)琉球=上門知樹(前半2分)、河合秀人(後半48分)【入場者数】6099人【会場】維新みらいふスタジアム

吉濱遼平(前列右から2人目)、山下敬大(後列右端)などが先発
吉濱遼平(前列右から2人目)、山下敬大(後列右端)などが先発

 14位のレノファと15位の琉球はいずれも昇降格の圏内に入る可能性がなくなり、来シーズンもJ2リーグで戦うことが確定している。その意味ではモチベーションの低い試合になるリスクもあったが、蓋を開けてみると攻撃色を前面に打ち出し、球際にも厳しい見応えのある試合となった。

 ただ、レノファから見れば、決めるべきところを決めなければ結果を逃してしまうという典型例のようなゲーム展開。昇格や降格などシビアなものが懸かっていなかったことが不幸中の幸いで、大きな反省点を残す90分間だった。

前半2分に失点。序盤は守勢

レノファの先発布陣。攻撃的な選手が多い構成となった
レノファの先発布陣。攻撃的な選手が多い構成となった

 今節はボランチの佐藤健太郎が累積警告による出場停止で、メンバーを一部変更。トップ下での先発出場が続いていた三幸秀稔をボランチに下げ、三幸が務めていた場所に吉濱遼平が入ったほか、山下敬大が右ウイングで先発復帰した。また、清永丈瑠や佐々木匠がベンチ入り。スタメン、ベンチを合わせた18人の平均年齢は23・9歳で、全員が平成生まれの構成となった。

 試合の序盤で主導権を握り、最初に結果を呼び込んだのは琉球だった。前線からのプレスがはまっただけでなく、ボランチの風間宏希と上里一将からの組み立ても機能して、立ち上がりからレノファ陣内でプレーする。逆にレノファはプレスを受けてパスのクオリティーが下がり、守備でも相手をつかまえきれなかった。

 ゲームが動いたのは開始早々の前半2分。整っていなかったレノファディフェンスの隙を突いて風間宏希が鋭く縦パスを送り出すと、上門知樹がセンターバックの間を抜けながらボールを足元に引きつけ、ゴールへと振り抜いた。

 先制した琉球は、同7分にも左サイドを崩してシュートまで持ち込んだ。この場面ではGK吉満大介がファインセーブ。レノファにとっては肝を冷やす場面となったが、その後もボールを保持していたのは琉球で、前半20分過ぎまではアウェーチームがゲームを握る。

琉球の上里一将と競り合いながらボールを動かす吉濱遼平
琉球の上里一将と競り合いながらボールを動かす吉濱遼平

 レノファは「プレッシャーは掛けていたが、相手にミスマッチを作られていた」(三幸)と歯車が噛み合わず、打開の一手としてプレスのタイミングを修正。相手ボランチに対して確実にアプローチできるようマッチアップする選手を絞った。

 とりわけ8試合ぶりの先発となった吉濱が厳しくチェックし、琉球のパスのリズムを乱すことに成功。前半の途中からは、「守備がはまった。相手は繋いでくるチームだったが、蹴られても(菊池)流帆とタカ(前貴之)でしっかり対処できていた」(吉濱)とレノファにとってポジティブな状況を作るようになる。

 前線にもようやくボールが入り、シュートチャンスも増加する。霜田正浩監督は今節、右ウイングに山下、中央に宮代大聖、左に高井和馬という攻撃力の高い選手たちで前線を編成。「思い切って3枚の矢を並べ、相手からボールを奪って早く攻める」(霜田監督)という意図は、守備が安定したこの時間帯から本領発揮。高井がドリブルで攻め込んだり、宮代が高井のクロスからヘディングでゴールを狙ったりと躍動する。

高井和馬は前半から攻守にわたって貢献
高井和馬は前半から攻守にわたって貢献

 前半37分には、左サイドを上がった川井歩がクロス。これに高井が頭で合わせ、同点とした。「1本目(一つ前のチャンス)はクロスがふんわりしすぎてGKに取られたので、それを踏まえて速いボールを蹴ろうと意識した。イメージ通りに蹴れて、和馬くんもうまく合わせてくれた」(川井)。その絶妙なクロスに飛び込んだ高井も「うまく合わせられた。昨日の夜にあのようなシュートの動画を見ていたので、イメージした通りだった」と狙い通り。攻撃が活性化してきたレノファが前半のうちに試合を振り出しに戻した。

ゲームは支配したが…。ゴール遠く

 後半もほとんどレノファがゲームを支配する。琉球に比べて幅を使った攻撃が多く、相手の守備を後手に回しながら、両サイドから矢を放ち続けた。セットプレーのチャンスも何度も獲得。そのたびに吉濱がピンポイントでクロスを入れるが、流れの中からも、セットプレーからも、なかなかゴールが生まれなかった。

川井歩はクロスからチャンスメークする
川井歩はクロスからチャンスメークする

 決定的なチャンスはいくつもあり、後半15分にはコーナーキックのクリアボールから二次攻撃を開始、吉濱の縦パスを受けた宮代がヘディングシュートを放つが右に外れてしまう。同21分には川井のクロスに山下が合わせるもクロスバーの上。さらに同34分、今度は右サイドバックの石田崚真がタイミング良くセンタリングのボールを上げ、再び宮代が飛びつくが枠を捉えられなかった。

 霜田監督は最終盤、最終ラインの枚数を削って工藤壮人を投入。3本としていた攻撃の矢を4本、5本と増やしていく。

 それでも集中力高く守っていた琉球のディフェンスを崩せなかった。同43分のフリーキックのチャンスでは、途中出場した池上のクロスに菊池流帆が合わせるが、スピードのあるシュートとはならず琉球のGK石井綾が回収。アディショナルタイムにも菊池、宮代とつないで山下が鋭く狙うもボールは再び石井の手中に収まった。

 チャンスを逃し続ければ、防戦一方になっていたチームに光が差すのはサッカーではよくあること。3分と掲示された後半のアディショナルタイムを消化し、ホイッスルと待つばかりとなったラストプレー。レノファの攻撃を跳ね返した琉球は河合秀人と先制点の上門が鋭いカウンターで攻め上がり、最後は河合が右足のシュートを叩き込んだ。

 最後まで試合を諦めなかった琉球。執念が実ったとも言えるゴールで試合は決した。レノファは、典型的だが、決して演じてはならない悲劇の演者となり、土壇場で黒星。霜田監督は「勝負を決めきるところで決められないと、最後にこうやって大きな課題が出てしまう」と険しい表情を浮かべた。

決定力とカウンター対応に課題

高宇洋(左端)と吉濱遼平(中央)。何度もFWにラストパスを送った
高宇洋(左端)と吉濱遼平(中央)。何度もFWにラストパスを送った

 1-2で敗れたレノファ。21本ものシュートを放ったが、ゴールネットを揺らしたのは1本だけだった。

 もちろん多くの時間帯でゲームを支配し、大半の攻撃がシュートで終わっているのは前向きに捉えられる要素だ。押し込まれて早い時間で失点したものの、相手の自由を奪うためにプレッシングの位置を変更するという判断も賢明。霜田監督の攻撃的な采配も効果的だった。得たものはあり、三幸は「前半のうちに修正できたのは、自分たちが成長しているところなのかなと思う」と話す。

 課題という意味では、やはり決定力の低さが結果に影響した。これに関してはチームで対処できる部分もあるにはあるが、個人の技量とも密接に関係する。一朝一夕で上がるものではなく、練習から地道に取り組んでいくしかなさそうだ。

 その一方でカウンターからの失点は十分にチームとして修正できる部分。今節は佐藤が不在のために若い布陣でメンバーを構成したが、リスク管理が不足した面はあっただろう。若い分、前のめりになって攻撃に行きやすく、実際にいつ点が入っても不思議ではないほど押し込めた。ただ、その分の代償も大きかった。

 「最後の最後まで勝ち点3を狙いに行った。チャンスを作り、相手陣地に押し込み、僕らのやりたいサッカーはできたが、なかなか点が取れず、逆に相手のカウンターで潰せなかった。まだ僕らにはそういう甘さがある。こういう試合で勝ち点3を取れるチームにしなければいけない」(霜田監督)

 久しぶりに出現した甘さに敗れ、6試合ぶりの黒星を喫した。修正すべき点は明らかで、今シーズンを通して課題となっている早い時間帯での失点を防ぐとともに、カウンターが失点に直結するもろさに対してもチームで取り組みたい。リーグ戦は残り3試合。甘さを封じ、したたかで、しびれるようなゲームを作らなければならない。

 レノファの次戦はアウェー戦で、11月10日に東京都町田市でFC町田ゼルビアと対戦する。その翌節がホーム最終戦。同16日午後1時から、維新みらいふスタジアムでモンテディオ山形と対戦する。

首里城再建へ、スタジアムで募金活動

募金活動に参加した鳥養祐矢(左)
募金活動に参加した鳥養祐矢(左)

 レノファ山口FCは11月3日、首里城(那覇市)の建造物の再建に役立ててもらうため、試合会場で募金活動を実施。全額を支援活動を表明しているFC琉球に寄付した。今年の夏にレノファから琉球に移籍した鳥養祐矢も募金の呼び掛けに参加し、ケガのために試合には出られなかったものの、特設ブースで両サポーターから支援を募った。

 試合後には両チームの監督がコメントした。

 執念のゴールが実ったFC琉球の樋口靖洋監督は次のように語り、「使命を与えられたゲームだった」と振り返った。

 「本当に沖縄の人たちにとってみれば悲しい出来事で、我々のJ2残留は決まったが、一つの使命を与えられたと思って試合に臨んだ。沖縄の人たちに明るいニュース、元気、希望といったものをサッカーを通してどう与えることができるか。感じてもらうことができるか。残りの試合に使命を与えられたと強く思う。そういう中で選手たちと臨んだゲーム。非常に集中して戦ってくれたし、結果として明るいニュースを一つ届けることができたことを、まずは喜びたい」

 樋口監督は募金活動にも触れ、「山口の関係者、ファン、サポーターのみなさまにこの場を借りて感謝申し上げます」と話した。

 レノファの霜田正浩監督も試合を振り返る記者会見の冒頭で「沖縄で起きた首里城の火災について、今日は募金活動もさせていただいたが、県民の方の悲しみ、ショックを考えると、沖縄の人たちに心からお見舞いを申し上げたい」と述べた。

 首里城は10月31日未明に発生した火災で、正殿などの主要建造物が焼失。各地で支援に向けた動きが始まっている。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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