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荒天のホーム戦。割り切ったゲームで勝ち点1 宮代はJ初出場/レノファ山口

上田真之介ライター/エディター
試合後に険しい表情を見せたレノファの選手たち=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 J2レノファ山口FCは7月20日、維新みらいふスタジアム(山口市)でアルビレックス新潟と対戦し、2-2で引き分けた。台風接近による荒天で戦い方を変えざるを得なかったが、レノファはFW陣が2得点を奪取。加入したばかりの宮代大聖はJリーグ戦初出場を果たし、90分間を戦い抜いた。

明治安田生命J2リーグ第23節◇山口2-2新潟【得点者】山口=山下敬大(後半3分)、工藤壮人(同48分)新潟=レオナルド(後半11分、同31分)【入場者数】3662人【会場】維新みらいふスタジアム

 レノファは前節からメンバーを二人、変更した。川崎フロンターレから期限付き移籍で加入し、今月16日の練習で初合流した宮代大聖を先発起用。宮代はJリーグ戦初出場で、霜田正浩監督は19歳のストライカーをゴールに最も近い位置に置いた。また、今年のトゥーロン国際大会のメンバーに選出され、同大会で右ウイングバックで起用されていた川井歩を、今節は同じポジションでスタメンに並べた。

宮代(前列中央)がJリーグ戦初出場
宮代(前列中央)がJリーグ戦初出場

新加入の宮代を先発起用

 台風5号の接近のため、試合前から強風と強雨の荒れた天候となった。ピッチに水がたまり、ボールを動かしにくいコンディションは両チームの戦術決定に影響。新潟は顔ぶれこそ前節と同じだったが、システムを4-4-2に変更した。「このコンディションなので、前線にパワーのある選手を入れる。そのオプションは持っているのでそれを選んだ」と吉永一明監督は狙いを説き、2トップにレオナルドと渡邉新太を並べた。

レノファの布陣。宮代や山下が積極的にボールを受けた
レノファの布陣。宮代や山下が積極的にボールを受けた

 レノファもボールを地上戦でつなぐことはできず、ロングボールが増加する。アバウトなボールが増えれば個の力に勝る新潟に有利で、ゲームは敵地に乗り込んだ新潟がやや押し込んだ状態で進んでいく。ただ、レノファは風下に立っていたため、「今日はコンディションも含めて割り切った戦い方をしなければならない。前半は我慢」(霜田監督)だとプレーを取捨。リスクになる要素を減らし、守備局面では早めに寄せてボールを奪いきるプレーに注力する。

 それでも新潟は試合序盤からフィニッシュまで持ち込み、レノファのゴールに迫る。前半7分に高木善朗が右足でスピードのあるシュートを放ち、クロスバーを直撃。その後もレオナルドと渡邉の2トップに集めて好機を作ったほか、同39分にはFKの流れから攻撃を再構築し、カウエのクロスに長身の大武峻が飛び込んだ。レノファはこれらのピンチにペナルティーエリアの中でも集中して対応。シュートブロックにも徹底して入り、スコアが動くことはなかった。

 レノファの攻撃陣にとっての見せ場は、霜田監督が話すように後半までお預けとはなったが、「我慢」を強いられた前半であってもレノファらしいサッカーを完全に捨てたわけではなかった。

 前半35分、敵陣中央で前貴之がセカンドボールを拾うと、前から見て左側を駆ける三幸秀稔にパスを供給。三幸はすぐに右の深い位置にサイドチェンジのボールを送り、回収した高井和馬がクロスを上げている。このボールはファーサイドの山下を捉えられなかったが、ピッチコンディションが厳しくとも幅を使った攻撃でチャンスを作り出した。割り切る中にも、レノファらしさの片鱗が見えた前半の戦いだった。

既存FW陣も躍動 山下は今季8点目

強い雨が降り、水しぶきも上がった
強い雨が降り、水しぶきも上がった

 後半に入っても風雨ともに収まる気配を見せないが、風上に立ったレノファが一転してスタートから攻勢。開始直後にCKのチャンスを獲得すると、吉濱遼平がゴール前にクロスを送る。これは新潟のGK大谷幸輝にクリアされるものの、山下が拾ってすぐに右足を振り、待望の先制点を射止めた。「思い切って足を振った結果がゴールに入ってくれたという感じだった」。山下が今季8点目となるゴールを挙げ、レノファが1点をリードする。

 だが、1-0の時間は長続きしなかった。新潟は失点後、すぐに矢野貴章を投入。前線に置いて攻撃の再度の活性化を図り、レノファに行きつつあったモメンタムを引き戻す。

 同11分には、戸嶋祥郎が縦の長いボールをディフェンスラインの背後に落とす。これを拾ったのがレオナルドで、そのままディフェンスを置き去りにゴール至近まで突破。GKの位置を見てループシュートを決め、すぐに同点に追いついた。さらに同31分、レノファのクリアボールが中途半端になったのを逃さず、矢野が回収。すぐにカウンターに出て、レオナルドがこの日2点目となるシュートを放った。

 試合は約15分を残して1-2。両チームの疲労も激しく、終盤はゴール前での攻防がさらに増加する。

オレンジ色のユニフォームに袖を通した宮代。「次は勝利を届けたい」と意気込む
オレンジ色のユニフォームに袖を通した宮代。「次は勝利を届けたい」と意気込む

 1点を追いかけるレノファは前線に人数を集めて決定機を再創出し、後半34分には宮代がゴール至近からシュートを放った。これは大谷がファインセーブするが、レノファは矢継ぎ早の選手交代でゴール周辺での攻防に刺激を与えた。すなわち、FWの工藤壮人を入れて攻撃枚数を増やし、さらにはセンターバックで長身の菊池流帆も前線に配置。菊池を上げる代わりにドストンを最終ラインに置き、相手の個の力に対応した。

 迎えた後半アディショナルタイム。宮代の大きなサイドチェンジを起点に、菊池が敵陣左サイドからマイナス方向のクロスを送る。これをもう一度宮代が中継し、ボールは工藤の足元へ。「点を取りに行かなければいけない状況だった。しっかり当てることを意識した」。そう話す工藤の執念のシュートがネットを揺らし、レノファが土壇場で追いついた。

 強い雨が降り続いた試合は、2-2のドローで勝ち点1を分け合った。

ハードワークで得た勝ち点1

 レノファにとっては勝ち点1を得た試合と言えるだろう。勝ち点2を失ったとネガティブに考えるべきではなさそうだ。

 グラウンダーのボールはすぐに止まり、浮き球もファーストバウンドがイレギュラーに跳ねる難しいピッチコンディションだった。こういう試合では浮き球に先に触れる長身選手や、パスに頼らずに攻撃できる選手に有利で、比較するまでもなく新潟に一日の長があった。

霜田監督は試合後、胸のエンブレムを叩きサポーターの声援に応えた
霜田監督は試合後、胸のエンブレムを叩きサポーターの声援に応えた

 いわゆる「個の力」の差をレノファはこれまで、組織的なサッカーで埋めてきた。だが、パス成功率が低下する悪条件下では優位性を築きにくい。無策ではやはり相手の土俵に乗せられてしまうため、レノファは前半から、「球際で戦うことや相手よりも一歩でも二歩でも先にボールへ行くことを全員で意識」(山下)して、ハードワークで応戦。厳しくボールホルダーにアプローチしたり、山下や宮代はボールを受けるプレーでも貢献しペナルティーエリア付近での攻撃を厚くした。

 個の力に戦術で及ばないならば、少なくとも相手以上のハードワークは続けなければならない。その原則に従った90分間だった。

 試合を通して2失点は喫したものの、差をハードワークで埋めた点は十分に評価できるだろう。困難な試合展開になりながら、幅を使う攻撃を出そうとした瞬間があったことも頼もしい。霜田監督は「もったいない試合」と表現したが、「前節はアディショナルタイムでやられたが、今節は追いつくことができた。選手たちのメンタルの成長を感じるし、こういう戦い方を続け、勝ち点3が取れるようなたくましいチームにしたい」と前を向いた。

 宮代が初出場した試合で、山下と工藤がゴールを決めたのはチームにとってポジティブな要素。FW陣の火花散る競争の中から、真に強いストライカーが出てくるはずだ。むろん、それぞれの選手ともに良好なピッチコンディションでこそ真価を発揮する。荒天でもこれだけのプレーが見せられただけに、今後のパフォーマンスが楽しみだ。

 レノファはこのあとの2試合はアウェー戦となる。7月27日にNACK5スタジアム大宮で大宮アルディージャと、同31日にニッパツ三ツ沢球技場で横浜FCと対戦する。いずれもナイトゲーム。

 次のホーム戦は8月4日午後7時キックオフ。維新みらいふスタジアムに水戸ホーリーホックを迎える。上位勢との対戦が続くが、この試合でできたことを自信にしてゲームに備えたい。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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