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レノファ山口:岡山に快勝! 成熟する霜田流攻撃的サッカー。4戦連続シュート20本超

上田真之介ライター/エディター
ゴールを決める山下敬大=9日、山口市(筆者撮影。この記事の他の写真も)

 J2レノファ山口FCは6月9日、維新みらいふスタジアム(山口市)でファジアーノ岡山と対戦し、山下敬大の決勝点で1-0で勝利した。レノファはリーグ戦7戦負けなし。J2第18節の大半の試合が10日に行われるため変動の可能性があるが、暫定でトップに立った。

明治安田生命J2リーグ第18節◇山口1-0岡山【得点者】山口=山下敬大(前半33分)【入場者数】7902人【会場】維新みらいふスタジアム

 試合開始前の時点でリーグ最少失点の岡山と、リーグ2位の得点力があるレノファとの対戦。リーグトップクラスの盾と矛がぶつかり合った。レノファにとっては、その矛をゴールへと向けて戦わなければならなかったが、3日前にあった天皇杯2回戦もリーグ戦とほぼ同じメンバーで構成。大半の選手がリーグ戦、天皇杯、リーグ戦の3連戦となり、疲労が心配された。

山下敬大がヘディング弾。高さを生かす

高い位置から厳しく身体を寄せるオナイウ阿道(右)
高い位置から厳しく身体を寄せるオナイウ阿道(右)

 ただ、霜田正浩監督は天皇杯翌日の練習で「日程の過密は全然言い訳にしない。気にしないことにしている。J1に行くと当たり前だし、代表選手はもっと厳しいスケジュールでやっている」と一蹴。選手も疲れを口にせず、実際にゲームはレノファがボールを持って攻める時間が続いた。

 カウンターからピンチを招く場面があったものの、岡山がトップに置いた赤嶺真吾、仲間隼斗に対しては坪井慶介と渡辺広大が対応。オナイウ阿道、小野瀬康介などFWからのディフェンスも厳しく行き、相手のボールの供給回数そのものも減らした。

 攻撃局面ではサイドチェンジは少なく、同サイドから同サイドへの動きが中心。右で構築中に左サイドを張った高木大輔がボールを呼び込もうとするも、なかなかボールが出てこなかった。偏りがちな攻撃となったが、それでもミドルレンジからゴールを狙ったり、オナイウがドリブルで巧みに持ち込んでシュートを放つなどゴールに迫る。

山下敬大は後半も積極的にゴールを狙った
山下敬大は後半も積極的にゴールを狙った

 流れを渡さないままで迎えた前半33分。池上丈二の右からのクロスに山下敬大が飛びつき、ヘディングシュートで先制に成功した。霜田監督が「点を取る感覚が優れている。ここぞというときにボックスの中に入れて、高さを生かして飛び込んでいける」と評価する大卒ルーキーは、これが天皇杯2回戦からの連続ゴール。いずれも池上のクロスに合わせたもので、山下は「パサーとタイミングがうまく合った。いいポジションに入れて良かった」と喜んだ。

 後半の立ち上がり、レノファは中盤でボールを収められず、岡山に押し込まれるようになる。岡山が得意とするセットプレーのチャンスを何度も与えてしまい、ボールを放り込まれてしまう。それでも、「セットプレーの強さに対してみんながギアを上げてくれて、セカンドボールへの準備もしてくれた。(フィールドプレーヤーの)集中が切れるのも少なくなった」(藤嶋栄介)という厳しいディフェンスを継続し、ゴールを割られることはなかった。

佐藤健太郎(中央)を3カ月ぶりに投入し、ゲームを落ち着かせた
佐藤健太郎(中央)を3カ月ぶりに投入し、ゲームを落ち着かせた

 しかし守勢は放置できず、霜田監督は「中盤でセカンドボールの拾い合いになるが、ワンボランチだと拾えない時間が長くなった」と判断して、ケガのために離脱していた佐藤健太郎を約3カ月ぶりに投入。バランス感覚に優れたベテランを中盤に置くという采配は奏功し、再びレノファが主導権を握るようになった。後半40分以降はカウンターから山下とオナイウが連続してシュート。惜しくも逸れたが、岡山を自陣内に押し込みレノファのリズムで試合を進めた。

 1-0のクリーンシートで勝利し、レノファは対岡山戦初勝利。中国・四国地方のJリーグクラブで競うダービー「プライド・オブ・中四国」でも3連勝でトップを守った。

攻撃を最大化する、ゴールへのこだわり

 この試合でレノファは岡山の倍近い21本のシュートを振り抜いた。これで、レノファは天皇杯2回戦を含め4戦連続でシュートを20本以上放ったことになる。

 注目すべきはその中身で、霜田監督は「決定的なチャンスは作れている。シュートが防がれたり、ミスをしたりはあるが、そういうスポーツなのでそれは大前提。どれだけ決定的なチャンスをたくさん作れるかに注目している」と話して、単にシュートで終わるだけではなく、相手に脅威を与えるようなシュートにするよう指導に熱が入る。試合2日前の7日には、決定機を逸する機会があった大崎淳矢にマンツーマンで指導するなど、全体練習と個人練習の両方を使って改善を図る。

決定機の数と質が重要になってきている
決定機の数と質が重要になってきている

 フィニッシュの精度がいっそうフォーカスされる契機になったのは、1-1の引き分けに終わった5月3日のヴァンフォーレ甲府戦だ。ボールは保持していたものの、シュートは相手よりも4本少ない12本にとどまり、唯一の得点もDFの渡辺広大がFKに合わせたもの。4枚のFWをつぎ込みながらチャンスを引き寄せられなかった。霜田監督は試合後すぐに選手を集め、ゴールへのこだわりを示すよう求めた。2節後の東京ヴェルディ戦で2点差をひっくり返して逆転勝ちすると、第16節カマタマーレ讃岐戦からは4試合で計85本のシュート。決定機の数も増え、攻撃的なサッカーを見せつけている。

 レノファの攻撃の終え方は確実にステップアップ。単にシュートで終われば良いという段階は終わり、今は脅威を与えるシュートを放ち続けてゲームを優位に進めるというステップにやってきた。次に待っているのは、個々のチャンスを確実に決めていくという仕上げ作業に他ならない。

 キャプテンの三幸秀稔は「もう1点を取れるチームになりたい。それが次の課題」と断言し、こう続ける。「公式記録では21本のシュートを打っているが、質を上げたり、点の取れる可能性が高いシュートを打てるよう、アイデアを共有したい」。

霜田正浩監督は選手の健闘をたたえた
霜田正浩監督は選手の健闘をたたえた

 攻撃の質に加えて、中2日のハードスケジュールでも運動量が落ちなかったのは大きな収穫だ。「しっかり走ってくれた。選手はたちは本当に良く頑張ってくれた」。指揮官はそう選手をたたえ、「必ずしも自分たちがやりたいサッカーがずっとできたわけではないが、跳ね返して、こぼれ球を拾って、身体を張った。もう少しボールを落ち着かせて自分たちのサッカーができる時間を作りたかったが、それは伸びしろだ」と力が入った。

 レノファは次戦以降はアウェー戦が続き、6月16日に徳島ヴォルティス、同23日にFC岐阜と対戦する。次のホームゲームは7月1日で、維新みらいふスタジアムに横浜FCを迎える。攻撃的なサッカーがどこまで進化するのか、夏場の戦いも楽しみだ。

6月9日の勝利。歴史を紡ぐ

 試合のあった6月9日は、レノファの初代監督だった宮成隆さんが死去して5年目の節目の日だった。

 レノファは県教員団を改組して2006年に発足。宮成さんは監督として指揮を執るだけでなく、自らバスを運転して遠征したり、10年には教員職を辞して強化に専念したりとレノファの昇格に向けて尽力した。13年に志半ばで死去。当時はまだ地域リーグを戦っていたが、「山口県にJリーグクラブを」と奔走した故人の思いを、中山元気監督(当時。現在はU-18監督)、上野展裕監督(現在は甲府監督)などがリレーしてJ2へと突き進んだ。

 くしくも死去直後の試合が敵地でのファジアーノ岡山ネクスト戦で、レノファは0-1で敗れていた。中山監督は当時、「プロサッカークラブを作るというのが宮成さんの思い。それを引き継ぎ、現場としては勝つことが大事だ」と話して戦力アップに注力。その後は快進撃を続け、負けの許されぬ全国社会人サッカー選手権大会(全社)を勝ち上がって優勝し、JFL入りを懸けた全国地域サッカーリーグ決勝大会(地決。現・全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)に駒を進めた。地決は一次ラウンド敗退となったものの、J3創設にともなってJFLの門戸も開き、レノファは初めて全国リーグへの参入を果たした。

オレンジ色に染まるみらスタのゴール裏。フラッグにある「異体同心」は13年のスローガン
オレンジ色に染まるみらスタのゴール裏。フラッグにある「異体同心」は13年のスローガン

 5年の歳月が経って、当時の10倍近いサポーターが訪れるまでにクラブは成長。今年の6月9日は8千人近いサポーターが声援を送ったみらスタで、岡山のトップチームに初勝利した。霜田監督は試合後、「チームの歴史を作ってくれた方へのリスペクトは絶対に持たないといけない。チーム、選手だけでなく、スタッフ、サポーター、過去にレノファに携わってくれた人たちも含めて、チーム山口で成長していきたい」と話した。

 Jの付く場所を目指したレノファ。往時の戦う精神は今もチームの根幹を流れ、今年はJ1という高みにチャレンジしようとしている。

※大崎の「崎」は異体字(大の部分が立)が登録名

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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