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レノファ山口:金沢にドロー。2点先行も守り切れず ピッチにも課題

上田真之介ライター/エディター
水しぶきが上がるピッチ =21日、山口市(筆者撮影。他の写真も)

 J2レノファ山口FCは3月21日、山口市の維新みらいふスタジアム(維新百年記念公園陸上競技場)でツエーゲン金沢と対戦し、2-2で引き分けた。雨のピッチで戦い方の変更を強いられたが、山下敬大のプロ初ゴールなどで一時は2点をリード。しかし、試合終了間際に追いつかれ、対金沢戦での初勝利とはならなかった。順位は前節より一つ下げて4位となっている。

明治安田生命J2リーグ第5節◇山口2-2金沢【得点者】山口=小野瀬康介(前半40分)、山下敬大(後半2分) 金沢=マラニョン(後半32分、同49分)【入場者数】3508人【会場】維新みらいふスタジアム

先発メンバーは前節から変更。坪井慶介、佐藤健太郎が外れ、センターラインは若手中心に
先発メンバーは前節から変更。坪井慶介、佐藤健太郎が外れ、センターラインは若手中心に

徐々に主導権。山下敬大はJ初ゴール

 連戦中日となった水曜日の試合。霜田正浩監督は前節からメンバーを入れ替え、高橋壱晟とヘナンが初先発、瀬川和樹が2試合ぶりにスタメンに復帰した。

先発したヘナンは今年のタイキャンプで合流した。「次の試合でも先発で入れるように練習から取り組みたい」と話した
先発したヘナンは今年のタイキャンプで合流した。「次の試合でも先発で入れるように練習から取り組みたい」と話した

 今節は雨が降り続き、ピッチは水たまりの中のような状況。雨天時は「水含み」と書かれることが多い公式記録のピッチ欄も今日ばかりは「良芝、水たまり」と記されるほど。グラウンダーのボールはすぐに止まり、浮かせたボールもあまりバウンドしない。最終ラインの背後に飛んだボールは危険度が高くなり、通常のピッチ状況であればGKが蹴り出せるボールも、今日ばかりはDFとGKの間でストップ。攻撃側にも回収しやすい場面ができてしまった。

 これは前線に縦パスを送っていた金沢にやや有利に働き、ゲームの序盤はFW佐藤洸一が高い位置でボールに触る。ただ、前貴之や初出場のヘナンが状況に即応してセーフティーに外に逃すなど、レノファも集中して守っていく。

 レノファにとっても決して慣れたピッチコンディションではない。16年5月のザスパクサツ群馬戦で同じような状況になっていたが、そのときからプレーしているのは先発メンバーに限れば三幸秀稔のみ。ベンチメンバーを含めても人数は限られた。(群馬戦では当時はレノファでプレーしていた加藤大樹(金沢)が初得点を決めている)※リンク先はJ's GOAL

 序盤の難しい時間帯を守備陣が中心となって耐えると、前半30分以降はレノファが前線にボールを運んでいく。同40分、ボックス内で大崎淳矢がはたいたボールを瀬川和樹が拾い、すかさず送ったクロスからコーナーキックを獲得する。

 このチャンスにキッカーの三幸秀稔がファーサイドに供給。セカンドボールからの反復攻撃では小野瀬康介がドリブルでペナルティエリア内に進入し、「ワン・ツーで行こうとしたが、うまく相手に当たって自分が先に触れた。シュートコースも見えた」と迷いなく放物線を描いたシュートを右隅にしずめ、レノファが2試合ぶりに先制する。

シュートを放つ山下敬大(右)。左からは大崎淳矢も詰めた
シュートを放つ山下敬大(右)。左からは大崎淳矢も詰めた

 霜田監督は後半のスタートから山下敬大を投入。練習から貪欲にゴールに向かう姿勢を見せていた山下は、ピッチに立った直後の後半2分、高木大輔の縦パスに反応して最終ラインの裏へと抜け出し勢いそのままにシュート。「攻撃では裏にどんどん抜けていこうと言われていた。後半の立ち上がりにうまくボールが来たので、得点に繋がって良かった」と特長を生かして、プロ初ゴールを決める。アシストした高木も「シュートを打とうとも思ったが、ジュンヤくん(大崎)とケイタが走っているのが見えた。二人とも微妙なところに出しても頑張ってくれるのは分かっている」と判断良くふわり浮かせたパスを出した。

 これでレノファが2-0とリード。なおもレノファは山下が中盤でハイボールに対応し続け、金沢が途中投入した長身の垣田裕暉やスピードがあり雨にも強い加藤大樹への供給路を断つ。

 しかし、2-0の危険なスコアは試合終盤、金沢にチャンスをもたらした。

 後半32分、相手のロングフィードをクリアしようとした瀬川和樹が、ピッチに足を取られて転倒。転々としたボールをマラニョンに拾われて1点差に詰め寄られる。試合最終盤には金沢にコーナーキックのチャンスを与え、作田裕次に枠方向に強烈なヘディングシュートを打たれてしまう。レノファも身体を張って跳ね返すが、シュートブロック時のハンドを取られてPKを献上。再びマラニョンに決められ、土壇場で同点とされた。

 反撃するには時間が足りず、試合はそのまま2-2でホイッスル。レノファは勝ち点3を取れるゲーム運びをしていたものの、勝ち点2を失う形となった。

勝つためのしたたかさを

 PKは岸田和人のシュートブロックが、手で得点機会を阻止したとジャッジされたもの。スピードのあるシュートに対して岸田は的確な反応を見せたが、厳しい判定となった。ただ、チームとして考えなければならないのは、試合時間が残り少ない中で相手に決定的なチャンスを与え、枠へとシュートを飛ばさせたという点だ。ギリギリのところでシュートに飛び込まなければいけない状況を、試合最終盤で作らせたことは反省しなければならない。霜田監督は一つ前の失点も含めて「もっとシンプルにやらなければならないところを、ひとつボールを持ったり、いいことをやろうとして繋ごうとしたり、そういう隙が最後の2失点に響いてしまった」と話した。

後半アディショナルタイムに追いつかれ、試合後のあいさつでは一様に肩を落とした
後半アディショナルタイムに追いつかれ、試合後のあいさつでは一様に肩を落とした

 ポジティブに受け止めることもできる。仮にPKにならなかったとしたら、最後まで守り抜いたという賛美となって、ピンチは記憶されずに水に流されてしまうかもしれない。それが今節は失点になってしまったのだから、否が応でも勝ちきるための時間の使い方という課題に取り組むことができる。高い授業料は払ったが、反省点を次戦への糧としてしっかり修正し、勝ち点3に結びつけたい。

 前向きに受け止められる要素はもう一つある。レノファといえば高さに頼るのではなく、前線からのチェックやボールポゼッションで主導権を握るのがスタイル。それでも今日はピッチコンディションを見て浮き球を主体に構成。特に山下敬大など「中盤で高さを生かしてロングボールを競り合うこともできる」(霜田監督)選手を起用してチャンスを作り、実際に得点にもつながった。ロングボールの奪い合いというのは決してメインストリームの選択肢にはならないが、オプションを増やせたのは今後の戦いにも生きてくる。

言い訳にはできぬが…。環境面にも課題

 霜田監督は「最初のワンバウンド目はスリッピーで、ツーバウンド目は止まる。そこまで計算して蹴りなさいという話はした」と選手たちにいつもとは違う考え方を求めた。これは筆者の恣意的な言い換えかもしれないが、ピッチコンディションがそれを求めたと表現してもいいかもしれない。やはり事故のリスクを伴う水浸しの中を望んで走る者はいない。

13年4月の中国リーグ(地域リーグ)富士ゼロックス広島戦。ピッチはまだら模様で、この当時と比べれば大きく改善してきている
13年4月の中国リーグ(地域リーグ)富士ゼロックス広島戦。ピッチはまだら模様で、この当時と比べれば大きく改善してきている

 2011年の山口国体の際に大規模改修を受けたスタジアムは、レノファのJリーグ参入とともにさらに改修が進み、J1クラブライセンスの基準も満たした。芝が生えそろわないような状況もなくなった。しかし、雨天時の水はけなどは今節のように課題を残したまま。練習場環境を含め山口県内のピッチはもう一段階、レベルを上げて整えていくべきではないだろうか。県内の複数の自治体で整備されてきている人工芝のピッチも、管理を怠ると使い勝手が悪くなる。チームの躍進に環境もしっかりと追いついていきたい。

 レノファは中3日のスケジュールで次戦を迎える。25日午後3時から維新みらいふスタジアムで松本山雅FCと対戦し、3試合ぶりの勝利を目指す。連戦最終戦も総力戦で乗り越える。

※高橋の「高」、大崎の「崎」はそれぞれ旧字または異体字が登録名

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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