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レノファ山口:20位キープで「自力残留」 戦術が再融合。シーズン終盤で快進撃

上田真之介ライター/エディター
試合後にサポーターに挨拶する選手たち =19日、維新公園(筆者撮影。以下同)

 レノファ山口FCは来シーズンもこのカテゴリーで戦える権利を掴み取った。11月19日、レノファは維新百年記念公園陸上競技場(山口市)で愛媛FCと対戦。1-1で引き分けて勝ち点を積み上げ、残留圏内の20位でシーズンを閉じた。

明治安田生命J2リーグ第42節◇山口1-1愛媛【得点者】山口=大石治寿(後半21分)、愛媛=有田光希(後半40分)【入場者数】9397人【会場】維新百年記念公園陸上競技場

J3の結果を入れず、「勝ち」にこだわる

 午後1時にキックオフしたJ3リーグの試合で、ブラウブリッツ秋田が2-1で福島ユナイテッドFCに勝利。この結果を受け、試合開始前の段階で21位でシーズンを終えても降格はなくなった。ただ、最終戦を消化試合にするのではなく、レノファイレブンは「他力」ではなく、20位での「自力残留」を目指した。「選手たちにはJ3の情報は言わなかった。唯一の目標であり、今日やらなければいけないことは、目の前の相手に勝利することだった」(カルロス・マジョール監督)。選手もJ3の動向は頭に入れず、自力残留にこだわった。

大石治寿と岸田和人の2トップで臨んだ
大石治寿と岸田和人の2トップで臨んだ

 愛媛を迎えたオレンジダービーは、維新公園を取り囲む木立ちも紅葉し、それにふさわしい雰囲気に包まれた。とはいえ、空気は凍てつきキックオフ直前で10・3度、ハーフタイムには7度にまで落ち込んだ。ただ、試合は徐々に熱を帯びていく。

 前節はサイドの攻防から好機を作ったレノファだったが、今節はボランチやMF小塚和季がボールに触る回数も多く、序盤からピッチを広く使ってボールを動かす。攻守の切り替わったタイミングでの対応も早く、「みんなしっかり球際に行けていた。セカンドボールも拾えていて、いい流れがあった」(MF小野瀬康介)と押し込んでゲームを進める。

前半終了間際に宮城がミドルシュート。左には逸れたが、流れを呼び戻す
前半終了間際に宮城がミドルシュート。左には逸れたが、流れを呼び戻す

 しかし相手のペナルティエリア付近にまではボールを運ぶものの、エリア内への進入は難しく、シュートまでが遠い。徐々に愛媛もレノファ陣内に入るようになり、前半30分を過ぎたあたりから愛媛が明らかに優勢となる。不用意なプレーでレノファがセットプレーを与える場面も増え、防戦を強いられてしまう。この苦しい時間帯を粘り強く耐えると、前半のアディショナルタイムにはボランチのMF宮城雅史がドリブルで持ち出して中央を切り裂きミドルシュート。これは左に逸れるが、守勢を跳ね返すのろしとなった。

チームワークが生きた大石治寿の先制点

 気持ちをリセットした後半は小塚が積極的にボールを供給。後半5分に小塚のクロスからFW岸田和人がヘディングでゴールを伺うと、同9分にはMF佐藤健太郎が入れたFKに宮城が飛び込む。いずれのチャンスもゴールには結びつかなかったが、中盤から前線へのスムースなボールリレーでレノファがリズムを掴む。

先制点の大石治寿。岸田、宮城などの動きを讃えた
先制点の大石治寿。岸田、宮城などの動きを讃えた

 スタジアムが歓声に揺れたのは同21分だった。岸田、宮城と渡されてきたボールをペナルティエリア手前でFW大石治寿が収めると、相手選手を引きつけたままドリブルで運び左足でコースを突いた。「仲間が繋いでくれたボールを振り切って打つだけだった。とにかく勝ちたかった」。ひときわ気持ちの入ったシュートが決まり、レノファがついに先制する。

 このゴールシーンでは大石のシュートだけでなく、チームワークが生きたことも見逃せない。パスを出した宮城や左ウイングバックの星雄次もエリア内に入り込み、相手のマークを分散。人数を増やした中でボールを動かし、大石の技術と相まってゴールをこじ開けた。

 愛媛も流れを引き込むため、後半34分にFW有田光希とFW丹羽詩温を同時投入。直後からクロスやセットプレーに有田が合わせるなど流れを引き寄せて、チャンスを増やしていく。同40分、FKのセカンドボールを拾って反復攻撃に出た愛媛は、同じく途中出場のMF近藤貴司の縦パスをDF浦田延尚がゴール至近でヘディングで中継。ラストパスを有田が頭で合わせ同点とした。

 レノファはFWレオナルド・ラモスをピッチに送り出し逆転を狙ったが、サイドで仕掛けていたMF小野瀬康介はすでにピッチを去り、星雄次もラモスと入れ替わりでゲームを後にした。試合時間の少ない中ではターゲットマンにボールを集めるのは常套手段。とはいえ、押し上げ不足からセカンドボールさえ拾えず、単発の攻撃は跳ね返された。ゲームはそれ以上のスコア変動が起きず1-1で閉じた。

 引き分けで勝ち点1を積み上げたことに加え、熊本が敗れたため、レノファは勝ち点38で20位をキープ。J3リーグの結果に無関係の「残留圏内」でゴール地点にたどり着いた。

ラスト3戦で勝ち点7。見えてきた戦術の着地点

 J1を目指した戦いをしようという高い志を持ったチームは、昇格争いどころか残留争いに巻き込まれ、降格圏に低迷。一時は残留圏とのポイント差が3試合分にまで広がった。

 しかし、最後の3試合で勝ち点を7も積み上げ、残留圏にいたロアッソ熊本を逆転。最終的には19位カマタマーレ讃岐とも勝ち点で並び、自力での残留に成功した。「不本意な形ではあるが、来季もJ2でできるということは良かったと思う」(大石)。昨季の12位を考えれば喜べる結果ではないが、自分たちの力で20位を掴んだ経験は大きな糧となるはずだ。

 終盤戦の快進撃は、偶然でも奇跡でもない。崖っぷちに立たされた中でもモチベーションは下がらず、そればかりかマジョール監督と選手たちの歩み寄りが見られ、チーム全体の一体感が醸成された。

レノファの礎石はハードワーク。小野瀬(手前)や小塚(奥)などが体現する
レノファの礎石はハードワーク。小野瀬(手前)や小塚(奥)などが体現する

 レノファはもともと全員で守備し、全員でボールを繋いで攻めていくスタイル。FWには守備を、DFには攻撃を求めるのが日常的なものだった。

 ここに歩み寄ったのはマジョール監督で、分かりやすい部分では前線からボールを追えるFW大石治寿をスタメン起用し、FW岸田和人とともに高い位置で相手に食らいついた。両選手が追うことで守備陣がセットする時間が作れるようになるほか、前線でボールを配るMF小塚和季の負担が軽減される作用ももたらした。また得点シーンが象徴するように、前線が孤立しない組織的な攻撃も再開花し、FWに当てるサッカーからは抜け出した。

カルロス・マジョール監督は「J1を目指せるチームになる」と締めくくった
カルロス・マジョール監督は「J1を目指せるチームになる」と締めくくった

 その一方でシステムを「3-5-2」とし、ウイングバックの役割を強化。上下にスピードを生かして動けるMF小野瀬康介と星雄次をこのポジションに固定して、ボールに多く触れさせるようにした。マジョール監督が志向するサイド攻撃を彼らが中心となって体現し、いくつもの決定機をサイドアタックから創出。終盤戦、「守備ではアグレッシブにボールを取りに行くプレーを要求し、攻撃に関してはダイナミックなサイドチェンジや、サイドでの1対1を生かした攻め」(マジョール監督)をしたいという指揮官の目指すスタイルと、選手の身体に染みこんでいた組織サッカーが融合し、結果を運んできた。

 マジョール監督は最終戦後に「自分が来る前にチームが慣れていたサッカーと自分がやってきたサッカーに違いがあり、合わせていくのに時間が掛かった」と胸中を語ったが、時間が掛かったとはいえ、ラスト3戦を通して双方に心地よい着地点が見つかった。

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 上野展裕前監督は昨シーズンのホーム最終戦で、「山口はお城を手に入れた。これを一緒に名城にしていきたい」と語った。

 今年、その城は焼け落ちたのだろうか。それとも、クラックを直したり、改築したりしている途上なのだろうか。引き継いだマジョール監督はこう結んだ。「ミスや修正点は生まれてくる。それを修正し、上に行こうという意識があれば上を目指せる。そして山口にはサポーターが支えてくれる環境がある。それらを考えると、レノファは近い将来、J1を目指せると思う」。

 むろん課題は山のようにあり、戦術と戦力の最適化はいっそう進める必要がある。それでも歴史は紡がれ続けているし、誇らしい城を築こうとする槌音はグラウンドの内外で響き渡っている。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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