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人見知りを武器に変える方法ーー森本慎太郎&高橋海人『だが、情熱はある』第2話をより楽しむための副読本

てれびのスキマライター。テレビっ子
『だが、情熱はある』(日本テレビ)第2話のTVerでのサムネイル画像

SixTONES・森本慎太郎とKing & Prince・高橋海人が南海キャンディーズ・山里亮太とオードリー・若林正恭を憑依したかのようなクオリティで演じるドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ)。

それぞれに生きづらさを抱えた“たりないふたり”の青春を繊細かつ切実に描いている。

(関連:高橋海人&森本慎太郎が若林&山里に“憑依”した『だが、情熱はある』第1話をより味わうための“副読本”

第2話では、若林が「20代って1日たりとも思い出したくない」(『午前0時の森』2023年4月18日)と振り返るうちの前半である、高校卒業から大学進学、そして芸人の道へ足を踏み入れるまでが中心に描かれていた。

第1話同様、より深く楽しめるように、第2話で描かれたエピソードにまつわる、これまで語られたことを紹介していきたい。

(※4月23日現在、第1話・第2話ともにTVerで配信中

大学アフロ若林

若林は東洋大学文学部第2部国文学科(夜間)に進学する。

大学生になると、若林はなぜかアフロヘアーになった。

若林:一緒にスケボーやった時もあったな。高校卒業して、「スケボーとかやるヤツがかっこいいんじゃないか」みたいな話を二人でしてね、ブームが来て。

春日:Dragon Ash聴きながらね(笑)。

若林:僕ね、アフロだったんですよそん時。(高校) 卒業してからずーっと。 だから、オレらデビューが「サンミュージックGETライブ」ってライブだったんですけど、そのライブはアフロで出てんすよね。

春日:あ、そうでしたっけ?

若林:大学の学食でメシ食ってて、(アタマが)アフロですごいデカイから、後ろから(髪に)そーっと割りばしさされてんのに気付かないで家まで帰ったことあるもん。

春日:相当大きかったよね。こーんな(アタマの上で大きな円を作る)でしょ。

若林:そう、すっごいあったのよ。で、(割りばし)刺さったまま都営線から京王線乗って、井の頭線で帰ったの。満員電車で。

(『オードリーの小声トーク』より)

ドラマでは「『人とは違う』と勘違いしやすい環境」だと説明されていた夜間大学での生活はこう振り返っている。

若林:夜間の大学ってね、みんなほぼ働いてる人で。(同い年の)同級生が2、3人しかいなくて。なんか銀行員の人とか、消防士の人もいたな。で、みんな20代、30代、40代の大人なのよ。ゼミが。だから、ディベートの授業とかでボコボコにされてたけどね。もう、フェミニズム文学の、樋口一葉の(テーマにした)ディベートの授業とか。もうボッコボコにされていたけどもね。「ガキが生意気、言うんじゃねえ」みたいなことをそのまま言う人、いたからね(笑)。「いや、しょうがないじゃん」っていう(笑)

春日:まあね。そりゃ違うでしょう。社会人と。

若林:ほぼ社会人しかいなかったな。6時とかから授業するんだよな。

春日:なるへそ。言ってましたもんな、「学食も開いてないし、自動販売機しかない」って。

若林:カニチャーハンとチャーハンがあるんだけど、昼の生徒が同じ値段だからカニチャーハンをみんな頼むじゃん? だから夜はカニチャーハンがないのよ。値札が裏返っているのよ。それで自動販売機も、全部売り切れだったりするのよ(笑)。昼間、買うから。健康ドリンク以外は全部、売り切れ。補充してほしいけどな、夜の生徒のために。

春日:まあ、そのためだけにはなかなか難しいか。

若林:ただ、体育の授業とかはおじさんおばさんばっかりだったから。バスケの授業とか、もう本当に俺、マイケル・ジョーダンだっだよ(笑)

(『オードリーのオールナイトニッポン』2021年10月30日より)

スパイシーな学生寮

一方、山里亮太は、お笑い芸人になるために“本場”大阪へ行くことを決意する。その際、両親が出した条件は「関西の人が、『いい大学ですね』っていう大学に行くなら」というものだった(『天才はあきらめた』より)。

だが、現役での受験は失敗。1年浪人して関西大学に合格した。

大阪へ行くまでの毎日は、そりゃあもう浮かれていた。 芸人になった自分、テレビに出ている自分、芸人になって何人もの女性に声をかけられ困っている自分を想像し続けていた毎日だった。

今思うと恥ずかしいのだが、そのころ関西弁のCDを買って、毎日英会話のように練習していた。壁に向かって1人何回も、「なんでやねん。 違うか、なんでぇやねん」とやっている姿。夢にどう向かっていいかわからないけど、とにかく夢が あるっていうことを確認していたいという精いっぱいの行動だったのではないか、と思う。

(山里亮太『天才はあきらめた』より)

親に無理を言って大阪に行ったため、一人暮らしなどという贅沢はできず、学生寮に住むことになった山里。当時、関大にはふたつの学生寮があった。それは、おしゃれできれいで、しかも女子と一緒という「秀麗寮」とリーズナブルだが男子寮の「北斗寮」。もちろん山里は前者を希望したが、入寮できたのは「北斗寮」のほうだった。

山里:かなりハードな学生寮だったから、北斗寮っていう。もう、寮に入った日に、スカジャン着てグラサンつけた人が、金属バットを持って、ラジカセを抱えて。そのラジカセ置いて、流れる曲を「1時間後、テストしまーす」って。で、1時間後に来て、「おい、歌え」って。で、「しぜーんの~♪」って歌うと、「聞こえんな!」って言われるっていうのがあって。

その他にも、もっと頭をどうにかしちまえ、みたいな感じで、一芸大会みたいなのが始まったりするの。4回生の人が日本酒、一升瓶持ってデンッて構えてる前で、僕らが地元を使ったギャグをやるっていうのを。大絶叫しながらやるっていう。かなりスパイシーな寮だった。

(『山里亮太の不毛な議論』2019年4月3日より)

北斗寮は超体育会系の寮だったのだ。

しかし「鬼のような人しかいないひどい寮」だと思われたくはないとも、山里は回想している。そこで、いい出会いがあったのだ。

その筆頭が、ドラマでは「米原」と呼ばれていた先輩(演じたのは『ブラッシュアップライフ』でも「粉雪」を熱唱した加藤を好演しインパクトを残した宮下雄也)だ。エッセイでは「植松さん」と書かれている。

部屋長の植松さんは熱い人だった。

高校時代から片思いしていた女の子が結婚したという知らせを受けてへこんでいる僕に「うまいうどん食べに行こう」と声をかけてくれて、愛車のワゴンRに乗せてくれた。

そして、車の中では先輩の大好きな Mr.Children を爆音で流し歌い、その合間には楽しそうに自分がフラれまくった話をしていた。 楽しくて気づかなかったが、車はいつのまにか明石海峡大橋を渡っていた。驚く僕に「ここに美味いうどんがあんねん」と笑いながら先輩は言った。

そして、パーキングエリアについて、うどんを食べ外に出ると、 関西の夜景がキラキラしていた。

「亮太、見てみぃ。あんだけ人おんねんから、モノ好きな可愛い子おるやろ!」とケタケタ笑っていた。

(山里亮太『天才はあきらめた』より)

ちなみに山里は小説家の西加奈子と同い年で同じ大学だった。その西から若林は大学時代の山里について「スラッとして、手足長くて話すこと面白いから、人気があった」と聞いたと証言している(『オードリーのオールナイトニッポン』2019年6月8日)。

大学生活を謳歌し、いつまで経ってもお笑い芸人の養成所に行くなど具体的な動きをしない山里に「亮太、養成所いつ行くの?」と尻をたたき、NSCの願書を取ってきて、その場で書かせ背中を押したのも植松だった。

いざ面接の日、僕は大学の入学式で着ていたスーツを着ていった。寮を出るときにはほぼ全員じゃないかと思うくらいの人数が見送りに来た。先輩の合図で後輩が「頑張ってきてください!」と叫ぶ。 先輩も一升瓶片手に、手を振っていた。

(略)

僕の面接がスタート。正直緊張でほとんど覚えていない。かろうじて覚えているのは、僕の関西大学学歌熱唱を見せられて困る面接官の顔くらいだった。

面接会場を出た瞬間、頭によぎった「不合格」の3文字、そして考えたのは寮の皆への言い訳だった。

(山里亮太『天才はあきらめた』より)

しかし、山里はNSCに見事合格。ドラマで描かれていたように、先輩が送別会のスピーチで「今日僕の夢が一つ叶いました」と合格通知を出したのだ。

「おめでとう亮太」

植松さんはボロボロ泣いていた。僕もボロボロ泣いた。

その次にスピーチする予定だった先輩だけは、ただただ困っていた。

もう後戻りはできなかった。

(山里亮太『天才はあきらめた』より)

ナイスミドル結成

対する若林は、「大学の授業中に漫才とか書いてみたらやりたくなって。就職するにしても1回人前でやってみたいなって」(『金曜日のスマイルたちへ』2020年6月19日)と、テレビのプロデューサー、つまり裏方志望だった春日を誘い「ナイスミドル」を結成する。

若林:俺は何も未来を決めてなくて。あいつ(春日)はお笑いのプロデューサーになろうとしてプロデューサーセミナーに通ってたのよ。それで俺はネタは書いてたけどプロになる気はなくて、1回だけライブに出てみたいと思ったの。大学生の間に。で、春日を誘ったら、その経験もプロデューサーになるために活きるだろうってサンミュージックのライブに出たの。そしたら信じられないくらいウケて。たぶん、なんか才能あったんだと思うけど(笑)。

そしたら相方が芸人でいけると思っちゃって、むしろ相方のほうが「続けよう」ってなっちゃって。

(『しくじり先生』2023年2月3日より)

そのライブが先出の「サンミュージックGETライブ」。「200人くらいとかの笑い声って聞いたこと無いじゃないですか。だからかなりウケてる感じがあった」(『金曜日のスマイルたちへ』2020年6月19日)と若林は振り返る。

ドラマでも春日は「我々はもう普通に街を歩ける人間ではなくなっちゃったんだよ」とマスクをして「お前が勘違いするなよ」と若林にツッコまれていたが、実際に春日はわざわざコンビニでマスクを買って裏口から出ていったという。

若林:コンビニでマスク買ってきて、「どうしたの?」って聞いたら、「いや、出待ちの人がいると思いますから」って(笑)。

春日:その日に「売れた!」と思ったんです。その日に(笑)。

若林:マスクして裏口から帰っていきました。で、あいつ、すごいやる気になって

(『金曜日のスマイルたちへ』2020年6月19日より)

人見知りは才能

ところでドラマの中では若林はもとより、関西人に萎縮したりする形で山里も人見知りを発動させている場面があるし、事実、入寮当初は人見知りで「ホールの隅で1人ゲームボーイをやっていた」そう。

人見知りである2人はなぜ人前に出るお笑い芸人を選んだのだろうか。若林はそんな質問をよく受けるというが、「そういう質問をする人たちは人見知りを理解していない」と若林は言う。「本当の人見知りこそ人前に出てくるものだ」と。若林はこう続ける。

人嫌いと人見知りは違う

本当は人に近付きたい、でも近付いて嫌われたくないという自意識過剰な人が人見知りになる。人見知りの人は周りに人が少ないから孤独感を勝手に抱き始める。そうなると誰かに理解して承認してもらいたくなる。 承認欲求が芽生えると表現なんぞを始める。だから、意外と重度の人見知りこそいけしゃあしゃあと人前に出て表現したりするものなのだ。

(若林正恭『完全版 社会人大学人見知り学部卒業見込』より)

山里亮太も同じように人見知りのメカニズムを解説しつつ人見知りが芸人に向いている理由を綴っている。

ボケたりツッコんだりって、人見知りだってできるんです。むしろ人見知りの方ができると思うこともあります。

こう言ったらこう思われるんじゃないか? ここで笑っていたらこう思われるんじゃないか? この話をしたらセンスないと思われるんじゃないか?……と詮索する量が増え、結果、行動が制限されて、人見知りのでき上がり。あれ? お笑い向いてなくない? ここで止まっていたら、確かにそうだ。でも、そこで止まらず、さらにもう一つ考えれば人見知りは武器に変わる

それは「こう言うとこう思われるんじゃないかな? ならどう言ったら喜ばれるだろう?」と、自分の中の人見知りのブレーキに、もう一つ問いを足す。そうすることで人見知りは誰よりも相手のことを幸せにする才能へと変わる。

(山里亮太『天才はあきらめた』より)

山里に「人見知りは才能」だと教えたのはタモリだ。

神様から与えられた素晴らしい才能だっていうのを、タモリさんが言ってた。今俺がこう言ったら、相手がこう思うだろうな、とか、こんなに人のことを考えてあげれて、それを第1位にして動ける人間っていうのは、人見知りしかいない。

だから、この世界(芸能界)で戦っていく人は人見知りしか成功しないってタモリさんが言ってた。

それで、もう一個足すと、人見知りのいい状態になれるのよ。

これ言ったら嫌がられるだろうな、の時に、もう一個努力で、これ言ったら良くなるんじゃないかなって考える努力をするんだよ。これはね、人見知りを弱点じゃなく、武器に変える技なのよ。

(『ホンネ日和』2011年5月29日より)

本日23日放送の第3話は、おそらく山里や若林がもっとも挫折を味わったであろう暗黒時代が描かれるはず。

そしてついに山里の相方となるしずちゃんが登場するよう。演じるのは富田望生。発表された時点で納得感と期待感のあったキャスティングだ。きっと素晴らしいしずちゃんを見せてくれるに違いない。

(関連:高橋海人&森本慎太郎が若林&山里に“憑依”した『だが、情熱はある』第1話をより味わうための“副読本”

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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