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飛行機のブラックボックス、実は黒くなかった…知っておきたい基礎知識7選

タワーマン元航空管制官
(写真:ロイター/アフロ)

今年、1月には日本で小松基地を離陸したF-15が墜落、3月には中国で昆明から広州に向かう航空機が異常な急降下の後に墜落、5月31日にはネパールで空港を離陸後に観光地へ向かう途中で墜落と、航空事故が相次いで起こりました。

航空事故には航空会社、航空機製造メーカー、航空管制機関など関係者の責任追求、航空機や乗客・遺族の保険・補償の査定といった避けられない問題が付いて回ります。そのため、各国の事故調査当局は「ブラックボックス」を回収し事故原因を究明します。

事故や事故に繋がるインシデントの最重要証拠品であるブラックボックスについて、7つのポイントに絞って解説します。

ブラックボックスは2つ、それぞれの記録内容

ブラックボックスは記録内容が異なる2つの機器から構成されます。一つは航空機の飛行データの記録機器(パイロットの操作、速度、高度、経路、航空機の姿勢など)でフライトデータレコーダと呼ばれます。もう一つは音声記録機器(コックピット内の会話や航空管制官との無線交信など)でコックピットボイスレコーダと呼ばれます。なお、2つの機器を合わせたコックピットボイス・フライトデータ・レコーダもあります。

記録有効時間は意外と短い

旅客機で広く使われるタイプのもので、フライトデータレコーダは25時間以上、コックピットボイスレコーダは最大2時間の記録が可能です。国内線の短距離路線でも約2時間ですので、コックピットボイスレコーダはフライト毎に上書きされてしまいます。そのため、例えば「乱気流により航空機が激しく揺れ乗客にけが人が出た」といった事故があった際には、事故調査当局は直ちにブラックボックスを押収する措置を取ります。

ブラックボックスを分析してわかることは

航空事故は機体やソフトウェア、地上設備の不具合などの技術面の問題か、操縦の過失やミス、コミュニケーションエラーなどの人為的な問題のどちらかにより発生します。ブラックボックスを分析することで、なぜ事故になったのか、どんな不具合が起きたのか、フライトを再現し原因を特定することが出来ます。特にコックピット内の会話は、事故に至るトラブルの初期的な原因を探る上で重要です。

なお、航空管制官との交信については、航空管制機関側でも常時録音されています。

本当に黒い箱なのか

ブラックボックスが文字通り見た目も黒い箱ではあまり目立ちませんし、夜間の捜索が困難です。記録装置を保護する頑丈なケースはオレンジまたは赤で塗装されており、発見しやすいように視認性を高めています。

墜落の衝撃に耐え、山や海に落ちても発見可能

ブラックボックスが故障、消失しては何の意味もないため、ブラックボックスの構造は頑丈で非常に厳しい耐久試験(耐衝撃、耐火、耐水など)をクリアする必要があります。そのうえで、事故があった際に直接的な損傷や前方・下部からの衝撃を最も受けにくい場所として、機体後方に設置されています。

また、強い衝撃が加わった際や水中に沈んだ際に位置を知らせる信号を自動的に発生する発振機を持ちます。航空機が上空を高速で飛行したまま空中分解したり、海中に沈んでしまったり、といったようなケースでも短期間でほぼ確実に回収が可能です。しかし、内蔵バッテリーは30日間で切れてしまうため、過去に起きた航空事故では、フライトデータレコーダーとコックピットボイスレコーダーの片方または両方を発見できなかった例もあります。

取り付けが義務付けられているのか

飛行機録装置は航空法に搭載が定められており、運航者はエンジン始動後から到着後のエンジン停止までの間、記録するよう運用する義務を負います。1966年の全日空羽田沖墜落事故が発生した当時、航空機にブラックボックスが設置されていなかったことが、航空法改正のきっかけと言われています。

極秘扱いで中を見られるのは限られた組織だけ

事故や重大インシデントであった場合には、事故の証拠品としてブラックボックスの押収、保全の措置が取られるため、中を見られるのは事故調査当局に限定されます。航空会社は直接知ることはできません。極秘情報として扱われ、またデータ構造は特殊で解析できるのは一部の国の特定機関のみです。これが「ブラックボックス」と呼ばれる理由です。

元航空管制官

元航空管制官で退職後は航空系ブロガー兼ゲーム実況YouTuberとなる。飛行機の知識ゼロから管制塔で奮闘して得た経験を基に、空の世界をわかりやすく発信し続ける。

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