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東京にもう一人のお母さんを持つサービス「東京かあさん」ってなに?

斉藤徹超高齢未来観測所
もうひとりのお母さんを持ってみませんか?(写真:アフロ)

東京かあさんとは?

東京にもう一人のお母さんを持つサービス、「東京かあさん」は、一般の家事代行サービスとは少々異なるユニークなライフサポ−ト・ビジネスです。「東京かあさん」のコンセプトは、“ご近所にもうひとりのお母さんを持てるサービス”。家事や子守、人生相談…基本的には何を頼んでもOKで、お母さんができる限りあなたの希望に応えるというサービスです。

おそらく、東京にいる子育てママの過半数以上は共稼ぎ夫婦です。両親が近所に住み、一定の家事援助が得られる場合は良いですが、地方から上京し、結婚出産を迎えたママにとって、仕事をしつつ単独での子育てするには肉体的にも精神的にも限界があります。「東京かあさん」は、そんな子育てママたちの支えとなるサービスなのです。

発想のきっかけ

このユニークなサービスを発想したのは、株式会社ぴんぴんころりの代表取締役小日向えりさん。小日向さんは、大学生時代から戦国や幕末期に詳しい歴ドルとして活躍する一方で、早くから歴史グッズの通販サイト「黒船社中」やインバウンド系ビジネスに着手するなど、起業家としての側面も持っていました。そうした中で、2017年に新たに立ち上げたのが「東京かあさん」の事業会社ぴんぴんころりです。会社設立の目的は、「超高齢社会における高齢者の"孤独"と"不安"をなくし、ぴんぴんころり社会を目指す」というもの。その理念を実現するためのビジネスとして構想し、ローンチさせたのが「東京かあさん」です。

株式会社ぴんぴんころり代表の小日向えりさん
株式会社ぴんぴんころり代表の小日向えりさん

        

約半年間の実証期間を経て、本格的にスタートを始めたのは2019年3月。スタートして半年(2019年10月現在)の実績としては、登録かあさん数約70名、利用者数は60名とまずまずの数値。今後、着実にこの数字を伸ばしていき、まず来年度には利用者300人を目指していきたいと小日方さんは語ります。

利用者の特性としては、7割くらいは30〜40代の子育てママ。残りの3割は一人暮らしやシニア夫婦世帯が中心です。一方、かあさんに登録している方の年齢は60代が中心ですが、なかには80歳を過ぎている方もいます。ずっと専業主婦一筋でやってきて、外で働くのはこれが初めてという方もいるそうです。しかしながら、長年専業主婦を続けているということは、まさに主婦のプロということ。彼女も何の問題なく楽しく仕事しているそうです。専業主婦シニアの就労活躍の場、という側面も「東京かあさん」は持っています。

 藤井理恵さん(左側)とひろこママ(右側)
藤井理恵さん(左側)とひろこママ(右側)

実際にサービスを利用されている藤井理恵さんと、東京かあさんの「ひろこママ」にお話をお伺いしました。

藤井さんは、現在8歳のお子さんを持つ一児の母。出身が台湾ということもあり、たびたび帰国する機会も多く、その度に自宅に夫を残していかなければならないことが気がかりでした。

そんな時テレビのニュースで「東京かあさん」を知り、私が欲しかったサービスはこれだ!と飛びつきました。藤井さんが、「東京かあさん」を選んだ理由はいくつかあります。第一は、本当に東京に「おかあさん」が欲しかったこと。「故郷が台湾なので、こちらには家族や親戚がわたしにはいません。気軽に相談できる母親みたいな人が欲しかったのです。私自身がおばあちゃん子だったこともあって、母親世代の人といると安心できます。」(藤井さん)

もうひとつの理由としては、「東京かあさん」は、いろいろな事が相談しながら決めていけること。掃除の仕方、収納や整理の仕方など、一緒に相談しながら決めていけるところが一般の家事代行サービスとは異なるところです。

かあさん役のひろこママは昨年、長年勤めた会社を定年退職し、つぎは、何をやろうかと思慮していました。子ども食堂の運営の手伝いなどをしていたときに、藤井さんと同じように目にしたのが、「東京かあさん」の新聞記事。これは面白そう、と早速電話して「東京かあさん」に登録しました。

ひろこママにとっても、「東京かあさん」は、単なる仕事とは異なる面白さが得られる場だそうです。実際の娘さん、息子さんに対しては、何かと気をつかうことが多いのに対し、娘と同い年の藤井さんに接していると、逆に学ばせてもらうことも多いと感じるそうです。

「単にお茶を飲むだけでなく一歩踏み込んだ形で、しかし一方で一定の距離感があるからこそ安心して付き合うことが出来るんです」(ひろこママ)と言います。そうした安心して接することが出来る適度な人間関係性の構築が、もしかするとこれからの社会には重要なのかもしれません。

新しい人間関係の構築

「東京かあさん」のユニークなポイントは、単なる家事代行サービスとは異なる、疑似親子関係という人間関係に注目した点にあります。一般的な家事代行サービスは、家事労働を切り出し、仕事としてキチンとこなすことがビジネスのポイントになりますが、「東京かあさん」は、むしろ逆で、ちょっとした失敗やうっかりも許せる関係性をつくることが主眼となっています。

その場合に重要になってくるのは、お互いの相性です。そのために、依頼があった場合には「東京かあさん」のスタッフは、必ずお客さまの要望をしっかりとお伺いし、初回はその方と相性が良さそうなお母さんをお連れし、お見合いをしていただくのです。こうした人間関係のマッチング・コーディネイトがこの「東京かあさん」ビジネスの要と言えるでしょう。

また、人間関係の構築は「お母さん」と「子ども」だけに留まりません。かあさん同士の繋がりにも積極的にトライしています。相互の情報交換を目的に、年に数回懇親会を開催。今年の夏には皆で日本橋からのクルーズを楽しんだそうです。コミュニティや家族の関係性も薄れつつある昨今、「東京かあさん」の試みは、新しい社会関係資本を構築するビジネスの試みであると言えるかもしれません。

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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