「自動販売機」は日本の認知症高齢者を救えるか

自動販売機が認知症高齢者を救う(ペイレスイメージズ/アフロ)

増加する認知症の行方不明者

 平成28年に認知症が原因とみられる行方不明者は1万5千人を超えたそうです(届け出ベース、警察庁発表資料より)。この統計がとられ始めた平成24年以降、認知症行方不明者数は年々増加しており、行方不明者全体に占める割合は2割近くに上ります。下図は、近年の年代別(50代以上)行方不明者と認知症行方不明者の推移を示したものです。70代、80代の行方不明者数と認知症行方不明者数の増加がリンクしていることが窺えます。

 筆者もかつて早朝の散歩時に認知症と思われる高齢者の方に数回遭遇したことがあります。すぐに警察に通報して事なきを得ましたが、複数回遭遇したということは、このような光景はすでに日常的になっているということでしょう。高齢化が進む中、認知症行方不明者への対応は非常に大きな社会課題と言えるでしょう。

認知症行方不明者および年齢別(50歳以上)にみた行方不明者数の推移
認知症行方不明者および年齢別(50歳以上)にみた行方不明者数の推移

 「新オレンジプラン」でも認知症対策は喫緊の課題とされ、認知症サポーターの養成や地域ぐるみの見守り活動の強化などが掲げられています。しかし人的対応には自ずと限界が生じます。地域の見守り活動にも濃淡があり盤石とは言い難い面があります。

ICT活用による認知症徘徊見守り

 人の力による見守りではなく、ICTや各種テクノロジーを活用して、徘徊、行方不明を防止・早期発見し、解決しようとする試みもさまざまに行われています。

 GPSセンサーやビーコン端末の活用、衣類にQRコードをシールで貼り付ける、顔認証による徘徊防止などの試みも行われていますが、個別には、位置把握の精度、通信コスト、バッテリーの問題、使用範囲の限定性など、まだまだ解決されるべき課題も多く、決定打は見えていないのというのが現状でしょう。

 このような動きがある中で、最近目にした興味深い試みが「自動販売機を活用した高齢者見守り」です。行っているのは、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)とアサヒ飲料株式会社です。NICTのプレスリリースによると、NICTが開発したWi-SUN対応のIoT無線ルータをアサヒ飲料が墨田区内に保有している100台の自動販売機内に設置し、「見守り」「交通安全」「観光案内」といったさまざまな地域貢献型のIoTサービスの実証実験を6月から順次行うというものです。(プレスリリースはこちら

 実証実験はまだ始まったばかりなので、検証結果が見えるのはまだ先でしょうが、自動販売機を高齢者徘徊の見守りとして活用するという発想は極めて興味深いものです。

自販機大国ニッポン

 多くの方はすでにご存じのとおり、日本は世界に冠たる自動販売機大国です。日本自動販売機工業会のデータによると、国内自動販売機の普及台数は約500万台、年間売上は約5兆円です。(商業統計の数値では1兆4873億円)この500万台という数は、小売業事業所数(平成26年)の78万(商業統計)を大きく上回っており、コンビニエンスストア総数5万店の100倍にあたります。日本でおそらく最も多い施設であろう宗教施設総数の22万施設(文化庁、平成26年・宗教統計による)と比較しても圧倒的な数を誇っています。ちなみに、国内で数の多い施設の数を順に列挙すると、医療施設の18万施設(病院、一般診療所、歯科診療所)(平成26年・厚生労働省)医薬品・化粧品小売業の7万店(商業統計)、コンビニエンスストアの5万店、郵便局2万4千店(直営郵便局、簡易郵便局)、小学校数の2万校(平成27年、文部科学統計要覧)、駅の数9,267駅(国土地理協会、駅データベース、平成28年7月)といった順になります。これらと比較してみても、自動販売機の数は圧倒的であることがおわかりいただけるでしょう。500万台という台数は日本人25人当たり1台ということになります。

自動販売機が日本の認知高齢者を救う

 日本の津々浦々まで拡がっているこの自動販売機ネットワークを、販売以外に活用しない手はありません。次世代の標準無線規格であるWi-SUNは省電力で長距離通信が可能であり、通信の信頼性も高いものです。Wi-SUN仕様のルータを自動販売機内に設置し、認知症で徘徊が心配される高齢者に超小型無線機を何らかの形で持たせることが出来れば、日本全国に高齢者の見守りネットワークが実現できることになります。

 今まで自動販売機は、ややもすれば電力の無駄遣いなどと非難されることもあり、肩身の狭い思いもありました。しかし、これだけ全国で圧倒的な台数をほこる自動販売機を高齢者見守り機器に変身させることが出来れば、その社会解決ネットワークの価値は計り知れないものになるでしょう。先の実証実験の結果と今後に大いに期待したいと思います。