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複雑すぎないか、老人介護施設の体系と名称

斉藤徹超高齢未来観測所
(ペイレスイメージズ/アフロ)

理想的な終末期の過ごし方とは

自分の最後の時をどのような場所で迎えるかということは、誰にとっても極めて関心の高いテーマでしょう。とくに還暦も過ぎ、その先の寿命を考える年齢となってくると、残りの人生いかに過ごすべきかという事項は嫌が応にも考えざるを得なくなってくるものです。

多くの人々が理想的と考える老い方は、自分の家で死期を迎える(エイジング・イン・プレイス(Aging in Place)です。「自宅で、愛する妻や子供たち、知り合いの人々に見守られて穏やかに亡くなっていきたい」というのが、多くの人々が考える理想の死に方です。しかし、実際はなかなかそういう形にはなっていないのが実態です。

厚労省調べ
厚労省調べ

現状、多くの人々が亡くなっていくのは「自宅」ではなく「病院」です。厚生労働省の調査によると、約8割の人々は病院で死期を迎えています。自宅で終末を迎えられる人はわずか1割に過ぎません。これに加えて自宅と同じく1割、自宅とも病院とも異なる終末期を過ごす場所があります。それが老人ホーム、介護施設などと呼ばれる老人向けの各種居住・介護施設です。大きな病気を抱えることもなく、ピンピンコロリで死期を迎えるのが理想的な死に方ではありますが、なかなかそういうわけにも行きません。自立した生活が困難となり、認知症を併発するケースもあり、誰かによる支えが必要となる人も一定程度存在します。そのような人のための住まいが今回説明する老人関連施設です。

複雑な老人施設名称と体系

具体的にそれらの名称を列挙してみましょう。「養護老人ホーム」「経費老人ホーム」「特別養護老人ホーム」「介護老人保険施設」「療養医療施設」「グループホーム」「ケアホーム」「有料老人ホーム(健康型有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、介護付き有料老人ホーム)」「サービス付き高齢者向け住宅」などが挙げられます。どうでしょう、これらの違いがお分かりになるでしょうか。

福祉業界以外で、これらの施設の違いがきちんと理解できる人は殆どいないのではないでしょうか。施設名称は、それぞれの施設が登場してきた福祉の時代背景が異なる中で、個々にその目的と役割、そして名称が与えられてきました。なので、それぞれの施設の成立根拠を示す法律も異なっています。

例えば、「特別養護老人ホーム」「養護老人ホーム」「軽費老人ホーム」「老人短期入居施設」は、「老人福祉法」が根拠法、その中で老人福祉施設として位置付けられています。同じく、有料老人ホームの根拠法も「老人福祉法」です。一方、「介護老人保険施設」、「グループホーム」の根拠法は「介護保険法」となります。また、「療養医療施設」の根拠法は「医療法」で、近年(2011年)に新たに設けられた「サービス付き高齢者住宅」の根拠法は、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」になります。

一見、高齢者向けの介護関連施設として同じジャンルに属する施設のように見えながらも、それぞれの施設を支える法律はこのようにバラバラであり、結果として高齢者向けの介護施設の全体像が分かりづらいものとなっています。この分かりづらさを既知のものとして受け入れ続けておくことは、今後さらにこれら高齢者の介護福祉ニーズが増加する中で望ましい事ではないでしょう。

老人福祉法が最初に成立した昭和38年当時、高齢者はまだ少数であり、高齢者福祉は現在のように「契約」に基づくものはなく、行政の「措置」によるものが主流でした。福祉サービスも高齢者本人が「選択する」ものではなく、行政により決定(措置)されるものでした。介護分野を担うのは民間企業ではなく、行政か社会福祉法人でした。「養護」という今ではほとんどここでしか聞けない用語が使われているのも当時の時代を反映したものでしょう。

しかし、その後今世紀になると介護保険が成立し、高齢者介護は、行政による「措置」から利用者との「契約」に変わり、担う人々も民間事業者、NPOなどが新たに加わり、介護福祉サービスの多様性・柔軟性と効率性が求められる時代に変化してきました。

これに加えて2011年に新たに設けられたサービス付き高齢者住宅は、従来の厚労省主管ではなく、厚労省と国土交通省の共同主管による仕組みで、これは高齢者のための住まいなのか介護サービス施設なのか、利用者にとって分かりづらい複雑さを加える結果となっています。朝日新聞社が全国自治体に調査したところ、2015年1月~16年8月末の事故は計3362件で、最多は骨折(1337件)で、病死を除く死亡は147件であったそうです。(5月7日朝日新聞)サービス付き高齢者住宅は、介護施設でないにもかかわらず要介護度の高い人が入居していることが、最も大きな理由の一つですが、入居する際に利用者にとって、利用価値が分かりづらい名称であるということも、このような結果を生む理由として挙げられるのではないでしょうか。

新しい名称を考えてみる

このような状況を鑑みつつ、利用者にとっての理解しやすさを重視しながら例えばということで、上記の各種老人施設名称改善案を考えてみました。

<生活困窮型老人ホーム>←養護老人ホーム

<低介護・自立型老人ホーム>←軽費老人ホーム

<要介護対応(軽度)施設>←介護老人保険施設

<要介護対応(重度)施設>←特別養護老人ホーム

<医療提供型介護施設>←療養医療施設

<認知症型共同住宅>←グループホーム

<民間有料老人ホーム(健康型・住宅型・介護型)>←有料老人ホーム

<高齢者向け住宅(住宅型・介護型)>←サービス付き高齢者向け住宅

上記案は、詳細に渡って提供サービス内容を検討した上での案ではないので、ひとつのアイデアとして受け取っていただければ幸いです。語句の使い方についても軽度、重度という言い方が果たして適切なのかどうか、より検討がなされていく必要があるでしょう。加えて、これは単に施設名称を変えれば良い、というだけではなく、ある意味で屋上屋を重ねてきた高齢者介護関係の法体系を再整理していく必要があるのではないでしょうか。それが今後の超高齢社会への備えにも繋がっていく試みになるのではないかとも考えます。

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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