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福岡PayPayドーム、ベルーナドーム…ドーム球場の屋根はどのくらい、税負担を増やしている?(前編)

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
ベルーナドームの入口。この日は夏祭りの日だったらしく盆踊りが開催されていた

■ドーム球場と税金

7月。プロ野球も佳境で、セ・リーグは東京ヤクルトスワローズがコロナ禍で主力選手の大半はおろか監督までもが離脱による不運な連敗で苦境に陥り、一時期よりもゲーム差が詰まってしまいましたがそれでも逆境にも負けず懸命に首位を維持し続けているのとは対照的に、パ・リーグでは首位の福岡ソフトバンクホークス以下、わずか2.5ゲーム差に1位~5位がひしめき首位もちょこちょこ入れ替わる混戦となっています。

(7月25日・オールスターブレイク時点)

さて、そんな中、ふと気になる点が。

建物(・土地を含む不動産)を所有している人もしくは法人は、公共団体等の一部の例外を除き固定資産税・都市計画税が基本的には課されます。

そして、屋外型球場は、選手の更衣室や監督室、事務室等、ある程度は「壁に囲まれた建物部分」がありますが、グラウンド部分等は建物には該当しませんので課税されないと思われます。

これに対して、ドーム球場は「ドームになること」で、グラウンド部分を含む球場全体が建物になると判断されます。

では、ドームの屋根がどの程度、税金を増やしているのか。

筆者は球場の関係者ではないので実額は把握できませんが、一般的指標に基づく推定はできます。

と、いうことで、筆者なりに計算してみたいと思います。

左には西武球場前駅、右にはベルーナドーム。池袋からの時間はかかるが、駅からのアクセスは抜群である。
左には西武球場前駅、右にはベルーナドーム。池袋からの時間はかかるが、駅からのアクセスは抜群である。

■ベルーナドームの「ドームになる前と後」の建物の面積は?

基本的には建物の面積に連動して建物の固定資産税・都市計画税が課されますから、「ドームになること」による税金の増減に際しては、「ドームになることでどの程度、建物扱いとなる面積が増える」かを把握する必要があります。

その分析にうってつけの球場があります。埼玉西武ライオンズの本拠地、ベルーナドームです。

この球場はもともと1979年の開設時は屋外型球場でしたが、1990年代後半に数年かけてドーム球場に改造された経緯があります。

と、いうことは、もし球場という建物の登記簿があれば、ドーム化前とドーム化後の面積がわかるハズ…ということで、建物の登記簿謄本をあげてみました。

その結果は、以下の通りです。

昭和54年3月10日新築当時…2,733.74平米(1階901.81平米)

平成11年2月日不詳変更、増築当時…41,592.95平米(1階39,761.02平米)

※上記は球場本体の数字であって、この他に存する附属建物としての入場券売場や便所等は考慮外としています。また、平成21年にも更に球場施設の充実を図る増築等がなされていますが、ドーム化とは関係がないので考慮外としています。

平成11年のドーム化によって、1階の面積が38,859.21平米増加しています。

(2~4階は変更なし)

球場の横には、猫・・・ではなかった。獅子のモニュメントがあった。
球場の横には、猫・・・ではなかった。獅子のモニュメントがあった。

■では、令和4年時点のドームの屋根の税金のお値段はいかほど?

所沢市役所によると、このような場合、ドーム化によって増加した建物面積だけは増築時にその部分のみを新築したと見做して計算するそうです。

このような時の概算用に使える

(ア)令和3年度「新築建物課税標準価格認定基準表(さいたま地方法務局管内)」によると、鉄筋コンクリート造の野球場が該当すると思われるカテゴリーの「劇場・病院」は141,000円/平米

(イ)令和4年1月時点で平成11年増築から23年経過ですから総務省の非木造家屋経年減点補正率基準表(鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造の「事務所、住宅、店舗等の『他のカテゴリーに該当しない』」建物)によると0.7169

ですので、下記の通り算出されます。

38,859.21平米×141,000円/平米×0.7169×(固定資産税税率1.4%/市街化調整区域のため都市計画税はなし)→約5,499万円強/年

もちろん、上記は限られた資料による概算のため、実際には球場という特殊性に鑑みた各種の税制上の配慮でもっと少額であったり、あるいは建物が頑丈であるとしてもっと高額であることも考えられますが、一定の指標として屋根があることによる税金は年間数千万円と考えてよいと思われます。

ドームの「脇」の部分。個人的な意見としては、これだけ開口部があって建物として課税するのは無理がある気が…。
ドームの「脇」の部分。個人的な意見としては、これだけ開口部があって建物として課税するのは無理がある気が…。

■球場について思う結論

ここからは個人的な意見。

税金も軽減されることですし、浮いたお金で中堅選手2~3人分、育成選手であればより大勢を雇えますから、球団的にも、屋外球場の方が有利ではないかとも思います。

但し、ベルーナドームの場合は疑問ですけれども、外気遮断性が高いドームの場合は、「寒い季節に野球以外のイベントに供することが出来ることによる収入があり得る」との点は留意すべきですが。

さすがに「屋根」に年間数千万円というのは…という気がします。

これとの関連は不明ですが、昭和63年新築の東京ドームに始まり、平成前半に作られた球場は大阪ドーム、ナゴヤドーム(バンテリンドーム)、福岡PayPayドーム、札幌ドームとドーム型が多いですが、その後、平成後半になって旧・宮城球場からの改造の楽天生命パーク宮城、マツダスタジアムと、屋外型に回帰しています。

北海道のエスコンフィールドのように地域的な気候の問題がある場合は仕方がないですが、天候リスクがあるとは言え、やはり野球観戦はお日様やお星さまの下で…と思います。

税金の観点からも、屋外型球場を…と、一人のプロ野球ファンとして提唱したいなとも思います。

後編では、福岡PayPayドームについても考察したいと思います。

※この記事の写真は全て7月18日に筆者撮影です。

多摩湖からベルーナドームを望む
多摩湖からベルーナドームを望む

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

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