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コロナ禍でも地価が上昇しているのはなぜ?  ―そして、土地の税金も上がる-

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
コロナ禍での主要都市(一部を除く)不動産の売買市場のイメージ。筆者作成。

■ ある日、投げかけられた「素朴な疑問」

3月23日、令和4年度地価公示価格が国土交通省から発表されました。

その結果を分析するに、おおまかに言うと、一部のインバウンド需要減退でダメージを受けている土地以外は、土地の市場価格の目線は「三大都市圏では微増、札幌圏や福岡市の一部地域では上昇、地方では下落」という傾向でした。

これと連動して土地の税金、すなわち、固定資産税や都市計画税、不動産を取得する際の不動産取得税や、土地の登記の際の登録免許税も増減することとなるでしょう。

たまにですが、このようなことを聞かれることがあります。

「コロナ禍なのに、なんで都市部の土地の値段は上がっているの?」

筆者なりに考察してみましょう。

■ よくよく考えてみると…

一時はテレビのワイドショーや報道番組で、ひっきりなしにコロナで飲食店が閉店であるとか、解雇されて生活が行き詰っている人が…と報道されていました。

筆者も、最初の緊急事態宣言の頃はこのような報道を見て、土地の価値は下がると思っていました。

ところが、例えば東京圏においては、他の不動産鑑定士の意見であるとか、実際の取引事例の状況を見ても、リモート化で来る人が減った都心の一部の高度商業地以外では、目に見える下落はあまり見受けられません。

ただ、気がついたことはありました。

それは、「不動産を売買する層と、コロナで苦しんでいる層は違う」ということでした。

もう少し、詳しく説明してみましょう。

令和4年地価公示地の最高価格地点である「山野楽器店」~令和4年3月28日筆者撮影
令和4年地価公示地の最高価格地点である「山野楽器店」~令和4年3月28日筆者撮影

確かに、飲食店等で廃業せざるを得なかった、あるいは雇止めにあった方がおられるのは事実です。

しかし、飲食店等を営む場合は、「店舗を借りて営業する」ことが通常で、一部の大手資本の店舗は別として個人店舗で「店舗を買って営業開始する」という話はあまり耳にしません

また、雇止めにあわれた方も、従前より資金的な問題から「住宅も比較的安い物件の賃貸」の場合が通常で、「住宅を購入する」方はあまり見られないように思われます。

一方、コロナ禍でも多くの企業が経営者の方の尽力で雇用維持と給料の確保に努めておられますので、このような企業の正社員の方は資金繰りがつきますから、このような方による住宅需要は一定水準を保っているものと思われます。

また、賃貸住宅も一定の地価水準以上の地域では家賃も高いため「コロナ禍で資金的に困窮している層」も比較的少ないので、賃料水準の減額も明確ではなく、賃貸マンション等の投資収益物件も価値の下落は感じられない状況です。

商業地のビル等も、飲食業等が撤退したとしても、ビルオーナーの方は「また別のテナントを入れればよい」との感覚の方も多く、若干は賃料が下がったり空室が出るリスクはありますが、「ワイドショーや報道番組で伝えられるほどの悲惨な状況」ではありません

それどころか、以下の点も指摘できるでしょう。

① かつてのリーマンショックの時とは異なり金融に支障が生じてはいないので、不動産購入時に資金調達ができ、買い手側に不動産購入時の資金的な制約が生じていない。

② 住宅地では、よりよい住環境の住宅地に住みたい需要は減少しておらず、都心や市中心部に近い一定の人気のある住宅地の需要は相変わらず高い。

③ 商業地では、一部の高額商業地を除きコロナ禍でも採算がとれるテナントを中心に賃貸による利潤獲得が十分に期待できる。

むしろ、不動産投資家サイドも①の理由等で資金繰りに窮していないこともあり、不動産投資家も投資収益物件を求め続けないと事業が停滞するから、資金の有効活用の意味でも商業地の需要は高い。

④ 一部の地域では、地域を活性化させたり防災面の改善のために再開発も行われており、繁華性や住環境が向上するため、そのような地域では不動産需要も増える。

⑤ 工業地では倉庫需要を中心に需要が高まっている。つまり、ネット通販が盛んになって、大都市近郊の工業地は倉庫用地としての需要が高まったり、あるいは一部企業は設備投資を積極的に行っている場合もある。

令和4年地価公示地の新宿の最高価格地点である「三井住友銀行新宿支店」~令和4年3月28日筆者撮影
令和4年地価公示地の新宿の最高価格地点である「三井住友銀行新宿支店」~令和4年3月28日筆者撮影

要するに、コロナ禍で苦しんでいる層は、従前より不動産の購入者側ではなかった方が多く、不動産を欲する人について考察すると、リモート化で来る人が減った都心の一部商業地以外の三大都市圏の比較的中心部に近い大部分では購入意欲は衰えていないと考えられ、結果、地価は上昇となっていると考えられます。

すなわち、上記①~⑤の状況を踏まえると、これらの地域では「コロナ禍においても、不動産を欲している需要は、むしろ好調」というのが実態なのです。

もっとも、地価上昇は景気という意味ではよいですが、公示価格は固定資産税都市計画税、あるいは相続税路線価に連動する傾向にありますので、これらの地域の土地では緩やかに固定資産税都市計画税の負担や相続発生時の相続税も増えることが予想される点は注視すべきでしょう。

■ 大切なことは、「一部の賑やかしな報道に左右されないこと」

個人的な印象ですが、その分野の専門家が入っていない一部の報道ではより刺激的な報道で一般の目を引くことばかり考えて、「コロナ禍で苦しんでいる」話ばかりを強調して「社会全体がものすごい悲惨」との誤解を与えていた感があります。

もちろん、その報道にその分野の専門家がコメントをしている場合は一定の信頼をおけますが、専門家のコメントがない番組では実態と報道にズレがある場合もあります。

不動産に関する税金や地価に関する話はもちろん、それ以外についても、自らの意思決定に際しては、安易に「専門家のいない番組の賑やかしの報道」を鵜呑みにせず、専門家の意見等を十分に理解して実態を適切に把握した上でその意思決定を行うことが肝要でしょう。

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

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