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速報…令和4年地価公示発表~さらに、これからの土地の税金も考える

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
福岡市中心部の「天神ビッグバン」は価格上昇を牽引している。今年3月3日筆者撮影。

■そもそも、公示価格とは?

3月23日、令和4年度の地価公示価格が発表されました。

まずは、公示価格とは何かという話から。

公示価格とは「市街地等、一定の地域の標準的な土地の、その年の1月1日時点における一平米あたりの適正な市場での単価」を示したものです。

あくまでも「市場で期待される適正な単価」ですので、売買当事者の事情もあるでしょうから、必ずしも実際の取引に際しての売買価格はこの価格に縛られる義務はありません。

ただし、土地に関する相続税や固定資産税・都市計画税等の「実際にはその課税対象の土地を売買しない場合」の税金の課税に関しては、特定の人の特殊な事情で価格目線を上下させると公平な課税ができませんので、客観的な判断に基づく市場価値をベースに課税することになります。

このため、相続税路線価や固定資産税路線価等も基本的には公示価格がベースとなって定められています。

■ 今年の地価公示価格の動向は

国土交通省の地価公示価格のサイトによると、全国的に見て上昇率の高い公示地の地点は以下とのことです。

上昇率10傑

【住宅地】※下記10件とも札幌近郊の市である。

1「北広島-1」 46,000円/平米(前年比+26.0%)

2「北広島-4」 47,000円/平米(前年比+23.7%)

3「北広島-6」 29,800円/平米(前年比+21.6%)

4「石狩-5」  18,800円/平米(前年比+21.3%)

5「北広島-11」 32,500円/平米(前年比+19.9%)

6「北広島-9」 28,300円/平米(前年比+19.9%)

7「北広島-7」 32,000円/平米(前年比+19.9%)

8「石狩-9」 32,000円/平米(前年比+19.9%)

9「北広島-10」13,900円/平米(前年比+19.8%)

10「江別-12」54,500円/平米(前年比+19.8%)

【商業地】※福岡市内か札幌近郊の市が10傑を占めている。

1「北広島5-2」 67,000円/平米(前年比+19.6%)

2「北広島5-1」 44,000円/平米(前年比+18.3%)

3「福岡博多5-21」 2,100,000円/平米(前年比+18.0%)

4「恵庭5-4」 39,500円/平米(前年比+16.2%)

5「福岡博多5-5」 568,000円/平米(前年比+16.2%)

6「福岡中央5-26」 1,040,000円/平米(前年比+16.2%)

7「福岡中央5-7」 530,000円/平米(前年比+15.2%)

8「福岡中央5-20」 1,830,000円/平米(前年比+15.1%)

9「福岡東5-2」 270,000円/平米(前年比+14.9%)

10「福岡博多5-11」1,160,000円/平米(前年比+14.9%)

※出典 国土交通省の地価公示価格のサイト(各地域の地域別対前年平均変動率)。

三大都市圏の傾向

また、国土交通省の地価公示価格のサイトによると、三大都市圏の傾向は以下です。

東京圏…

東京都の区部では令和4年の住宅地では、前年比+1.5%〔令和3年の令和2年に対する比率は△0.5%であったため微増傾向に反転〕で、商業地は+0.7%〔令和3年の令和2年に対する比率は△2.1%であったため微増傾向に反転〕

東京都の多摩地域では令和4年の住宅地では、前年比+0.5%〔令和3年の令和2年に対する比率は△0.7%であったため微増傾向に反転〕で、商業地は+0.5%〔令和3年の令和2年に対する比率は△1.1%であったため微増傾向に反転〕

神奈川県では令和4年の住宅地では、前年比+0.2%〔令和3年の令和2年に対する比率は△0.6%であったため微増傾向に反転〕で、商業地は+1.1%〔令和3年の令和2年に対する比率は+0.2%であったため微増傾向が継続〕

埼玉県では令和4年の住宅地では、前年比+0.6%〔令和3年の令和2年に対する比率は△0.6%であったため微増傾向に反転〕で、商業地は+0.2%〔令和3年の令和2年に対する比率は△0.9%であったため微増傾向に反転〕

千葉県では令和4年の住宅地では、前年比+0.8%〔令和3年の令和2年に対する比率は+0.1%であったため微増傾向が継続〕で、商業地は+1.5%〔令和3年の令和2年に対する比率は+0.6%であったため微増傾向が継続〕

大阪圏…

大阪府では令和4年の住宅地では、前年比+0.1%〔令和3年の令和2年に対する比率は△0.5%であったため微増傾向に反転〕で、商業地は△0.2%〔令和3年の令和2年に対する比率は△2.1%であったため下落率が大幅に改善〕

兵庫県では令和4年の住宅地では、前年比+0.4%〔令和3年の令和2年に対する比率は△0.2%であったため微増傾向に反転〕で、商業地は+0.5%〔令和3年の令和2年に対する比率は△0.5%であったため微増傾向に反転〕

京都府では令和4年の住宅地では、前年比+0.2%〔令和3年の令和2年に対する比率は△0.6%であったため微増傾向に反転〕で、商業地は+0.7%〔令和3年の令和2年に対する比率は△1.9%であったため微増傾向に反転〕

愛知県…

愛知県では令和4年の住宅地では、前年比+1.1%〔令和3年の令和2年に対する比率は△1.0%であったため微増傾向に反転〕で、商業地は+1.8%〔令和3年の令和2年に対する比率は△1.8%であったため微増傾向に反転〕

■筆者個人の所見

筆者も、令和4年度地価公示価格の鑑定評価員を拝命し、都内の2市1町の十数地点の鑑定評価を担当させていただいたのですが、その経験から感じた点を、守秘義務に反しない範囲で語りたいと思います。

・特別なイベントがない都市は、極端な地価上昇は予測されないと考えられる。

先に挙げた上昇率10傑の北海道北広島市は言うまでもなく野球場移転を見込んでのもので、福岡市の商業地については、天神ビッグバンといわれる大規模な再開発が地価上昇を牽引しているとも思われます。

したがって、この地域において土地をお持ちの方や相続が気になる方は、あるいは今後において、駅の開設やイベント施設の誕生等の何かしらのイベントが見込まれる地域の土地をお持ちの方は、現在の価格を鵜呑みにするのみならず、地価上昇やこれに伴う固定資産税・都市計画税の負担増も意識する必要はあるでしょう。

しかし、それ以外の土地に関しては、極端な地価上昇は考えにくいです。したがって、相続発生が予測される場合の相続税評価額や固定資産税・都市計画税の負担増はそれほど心配しなくともよいと考えられます。

西鉄福岡(天神)駅前の様子。再開発が進捗している。令和4年3月3日筆者撮影。
西鉄福岡(天神)駅前の様子。再開発が進捗している。令和4年3月3日筆者撮影。

・三大都市圏は微増程度、しかし地方は…。

三大都市圏については、道頓堀のようにインバウンド需要が消滅して相変わらず下落し続けている地点もなくはないですが、基本的には微増の箇所が多く、しかも平均的にみると、地価が高い地域の方が上昇率も高い傾向にあると個人的には感じています(但し、東京都心部の高度商業地では微減の箇所も多い)。

したがって、「損を回避しようと変に焦って土地を処分したり、逆に必要もないのに土地を仕入れる」必要はないと判断します。

ただし、地方では相変わらず下落が継続しているようです。例を挙げると、岐阜県では30年連続、高知県では21年連続で地価が下落しているそうで、報道での各県公示価格の代表幹事である不動産鑑定士先生のコメントを見ても、厳しいものが感じられます。

確かに、取引実態を見るに鑑定評価額をそう決定せざるを得ない面はあると思います。

このため、土地の税金とは別の次元で、特に地方に土地をお持ちの場合、ある程度の妥協も踏まえながら、処分を検討する必要もあるとも感じています。

そして、これで地方の税収が減るのも事実。地方を支える枠組みが必要とも、個人的には感じています。

ちなみに来年の傾向に関しては、特に大きなイベントもないため、今年度と同様に地価動向の大きな変動はないと予測しています。

一部のマンション価格は、公示価格の動きとは異なる傾向となるものもある

通常は、建物が古くなる分、価値も下がるので、「買った時より売った時の価格は安い」はずです。しかし、東京のある地域のマンションでは、「買った時よりも高い価格で売れた」という話を聞きます。

これは、「マンションでは独特な相場が形成されていて、土地の需給バランスより需要側が強い」ために生じる現象です。

このように、一部では独特な価格形成がなされる不動産がある点も覚えておいても損はないでしょう。

その際も、固定資産税・都市計画税については、他の不動産同様に定められた計算式にあてはめて計算するので「建物については、古いほど価値が下がっていく」こととなります。

独特な相場では上昇傾向でも、少なくとも建物部分についてはよほどのことがない限り、固定資産税や都市計画税は少額になっていく点も申し添えたいと思います。

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

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