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相続税における「不動産の怖さ」とは? ~もし依頼した税理士が間違って申告をしてしまったら

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
(提供:ankomando/イメージマート)

1 相続税業務の「不動産の怖さ」とは?

(1) 仮に、依頼者に間違った情報を教えられたらどうなる…

多くの相続税申告に際し、その申告財産の中でも金額的にかなりのウエイトを占め税額への影響も大きいのが不動産です。

不動産は預金のような客観性に優れた評価額がないため、評価の判断で申告書上の評価額が変わってくる特性があります。さらには、税制上でも様々な特例が設けられるなどの配慮がなされています。しかしながら、その特例には適用要件があります。

もし、依頼者からの情報が間違っていたがために評価の仕方や判断を間違ったり、特例が受けられないのに受けられるとして、本来の申告財産の価値より過大に申告してしまったりしたら…。

過少に財産の価値を見積もって申告し、相続税を本来より少なく納付した場合は、過少申告で追加のペナルティーの税金が課せられます

逆に、過大に申告財産の価値を見積もって申告し相続税を本来より過剰に納付した場合は、申告期限後5年以内であれば基本的には還付請求といって取り戻しが期待できますが、その期間を過ぎれば税金が取られすぎたままとなり大損となります。

いずれにせよ、本来より過剰な税金を払ってしまう結果になりかねないのです。

(2) 過少申告・過大申告はどのような場合が考えられるのか?

相続税申告の局面で、不動産について考えられる誤った申告の例として主なものは、以下の通りになります。

■実際には被相続人〔亡くなった方〕が住んでいなかった自宅を住んでいたと依頼者からヒアリングしたために、本来は適用できない特定居住用宅地等の特例を適用してしまった。

■他人に無償で貸している土地を、有料で賃貸していると依頼者からヒアリングしたがために貸宅地という評価額の低い土地として評価し申告してしまった。

■依頼者からヒアリングした「他人に貸している建物の面積割合の情報」が間違っていたために、貸家部分・自用部分の建物の価値判断に誤りが生じ、評価額も間違って申告してしまった

2 依頼者側が注意すべきこと

(1)覚書の締結

筆者の場合、税理士としての業務で少しでも危険があると考えられる事項(相続税に限らず不動産に関する判断、その他判断が微妙な事項)については、依頼者に教えていただいた内容やそれを元に判断した内容、危険性を覚書上でご確認いただき、これを踏まえて申告しても良い旨をご了解いただきます

また、覚書にはこれらの点を確認した旨の署名押印をお願いし、説明責任を果たした記録を書面で残しています。

(2) 覚書を締結することによるご依頼者側のメリット

覚書を交わすことは、実はご依頼者のためでもあるのです。

相続税案件の場合、税理士から見ると一つひとつの案件は「初めてお目にかかった」ケースがほとんどです。税理士は相続があった家のことを最初から理解しているわけではありません。このため相続税申告に必要な事項なのに税理士が把握していない事項は、案外とあるのです。

いざ覚書を作成しその内容を依頼者が御覧になると、中には「いや、ここの意味合いが違います」とご指摘いただくこともあります。この過程を経ることで、虚偽の申告を回避して生じかけた損失を回避できるのです。

ある時など、「税理士に教えた財産以外に財産があり、それが税額に影響があっても知りません」という覚書を締結し申告書を作成したら、後から「お父さんが持っていたこんな財産が出てきましたので申告書を書き直してくれ」と泣きつかれたこともありました。

このケースなど、「税理士に全ての財産を適切に伝える」条項のある覚書を締結していなかったら「まあ、わざわざ税理士に伝えなくともよいか」と考え、下手すれば申告漏れで追徴課税という可能性があったことでしょう。こういったことは枚挙にいとまがありません。

3 相続税申告の場でご依頼者の方にお願いしたいこと

残念なことに、筆者のようにいちいち覚書を締結している税理士は少数派で、普段は相続税申告を手掛けていない税理士の場合、そもそも覚書という発想がない場合も多いのです。

そのような税理士から、たまたま相続財産関連の不動産の相談をいただいた時に覚書について聞くと「なんですか、それは」となり、見かねて筆者の覚書のフォーマットを無償でプレゼントする実態すらあるのです。

ここまで述べてきたように、ご依頼者の側にもお願いしたいのは、相続税申告を依頼した税理士に対して、「判断に迷った事項や危険のある事項についての覚書はないのですか」と問いかけていただきたいということです。

なぜなら、後から判明した事項を含めない形で相続税額を申告されていたら、損するのはご依頼者だからです。

仮に間違って過大に納付した税金が還付請求で返ってきたとしても、心理的にも手数としても還付の手続には負担がかかります。

覚書を交わすというひと手間が、金銭的のみならず心理面にも有益である点、ご理解いただければ嬉しく思います。

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

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