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まだ続く能登半島群発地震:その原因は本当にプレート起源の水なのか?

巽好幸ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)
(写真:ロイター/アフロ)

石川県能登地方では、2020年12月から地震活動が活発になり、2021年9月16日にM5.1、2022年6月20日にはM5.0、そして同19日にはM5.4の地震が発生し、最大震度は6弱に達した。これらの一連の地震活動は衰える傾向は認められず、現在までに200回程度の有感地震が発生している。

今回の一連の地震は、規模の大きな地震の発生後にそれより小規模の地震が続く、いわゆる「本震―余震型」ではなく、なんらかの要因でほぼ同じ規模の地震が長期間発生する「群発地震」と考えられている。そこでここでは、今回の一連の地震を「能登半島群発地震」と呼ぶことにする。

群発地震を引き起こすメカニズムの一つが、マグマの貫入などの火山活動である。しかし能登半島周辺は過去数百万年間にわたって「非火山地域」であり(図1b)、マグマの活動が能登半島群発地震の原因とは考えられない。

図1 (a) 能登半島群発地震の原因として地震学者が提唱するプレート起源流体説(筆者原図)、(b)東北〜中部地方の第四紀火山の分布と沈み込むプレートの深度(原図:産業総合研究所)。
図1 (a) 能登半島群発地震の原因として地震学者が提唱するプレート起源流体説(筆者原図)、(b)東北〜中部地方の第四紀火山の分布と沈み込むプレートの深度(原図:産業総合研究所)。

群発地震を起こす犯人は「プレート水」か?

過去に起きた群発地震の代表格は、長野県埴科郡松代町(現長野市)付近で1965年から約5年半もの間続いた「松代地震」であろう(図1b)。この地震では大量の地下水が湧出したこともあり、水が岩盤中に浸透して強度が低下して破壊されて地震が発生したと考えられている。またこれらの水の成分を詳しく調べると、地表水がしみ込んだものや、地下に閉じ込められた古い海水(化石海水)ではなく、沈み込んだプレートから搾り出された水がマグマを発生させ、そのマグマが冷え固まる際に再び吐き出されたものである可能性が高い(図1a)。

能登半島群発地震においても、震源付近に電気を通しやすい性質の領域が認められ、その原因としては水が存在する可能性が高いと考えられる。また地震活動に伴って数cmにも及ぶ地盤の隆起が認められているが、この現象も水の浸透によるものとしても説明できそうである。ただし、水がいかなる働きをして地震を発生させているかについては、まだよくわかっていない。つまり、部分的に水圧が上昇して破壊が起きるモデル、水の貫入によって割れ目が開口するモデル、水の浸透によって破壊強度が低下して広域応力によって破壊が進むモデルなど、地震発生のメカニズムは特定されていない。

一方で、水の起源については多くの地震学者が共通した認識を示しており、マスコミの報道でもこの考えが伝えられている。

この考え方は、基本的には松代地震のメカニズムを能登群発地震に適用したもので、能登半島の地下に沈み込む太平洋プレートから水が搾り出され、200km以上も上昇してきた水が地殻に達するというものだ(図1a)。

しかしこのメカニズムには大きな問題がある。図1を見れば分かるように、松代や中部〜東北地方の地下ではプレート起源の水がマグマを発生させ、多くの火山が分布する。つまり太平洋プレートと地表の間には、プレート沈み込みに伴う一種のマントル対流によって「高温領域」が存在し、水がプレートから上昇してくるとマグマが発生するのだ(図1a)。

ところが能登半島では、過去数百万年の間全く火山活動は起きていない(図1b)。マグマは作られてきたのだが、たまたまこの地域では地表に達しなかったと考えるのはあまりにもご都合主義であろう。

能登半島は圧縮力で隆起している

能登群発地震の原因を考えるには、まず能登半島の形成について考えることが重要だ。なぜならば能登半島は、多くの断層に沿った地殻変動によって隆起したからこそ、半島として日本海に突き出ているのだ(図2a)。そしてこれらの地殻変動を引き起こす力は、この地域に働く北西―南東方向の強い圧縮力である(図2a)。過去に起きた被害地震の発生やこの方向に配列する逆断層の変異もこの圧縮力によって説明することができる。

図2 (a) 現在の能登半島の地形・地殻変動: (b)これらの変動の原因となった日本海拡大時の地質学的状況。(原図:産業総合研究所)
図2 (a) 現在の能登半島の地形・地殻変動: (b)これらの変動の原因となった日本海拡大時の地質学的状況。(原図:産業総合研究所)

現在の地殻変動を引き起こす逆断層群(図2a)は、今から約1500万年前に起きた日本海の拡大に伴って発達した「正断層系」(図2b)が再活動したものだ。その原因は、おおよそ300万年前にフィリピン海プレートの運動方向が45度変化したことにある(300万年前にフィリピン海プレートが大方向転換:これが東日本大震災(太平洋東北沖地震)の元凶か?)。その結果日本海溝が西進を始めて日本列島に強烈な圧縮力が働くようになり、日本海側では正断層が逆断層へと「反転」したのだ。

このように、能登半島には地下深部にまで達する断層系が分布する(図3)。この断層に沿って、地表水や海水が地下深部へと入り込む。また、日本海拡大時以降の海水も地下深部に化石海水として存在する可能性がある。

図3 考えられる能登半島群発地震の発生メカニズム(筆者原図)。
図3 考えられる能登半島群発地震の発生メカニズム(筆者原図)。

また能登半島では日本海拡大直前や拡大時の火山岩や深成岩が分布しており(図2b)、地下にもマグマ岩体が存在している可能性が高い。これらの岩体は不透水層としてしみ込んだ天水や海水、それに化石海水などの地下水を貯留するであろう(図3)。能登半島には和倉温泉などの非火山性高温泉が湧出するが、その泉質は化石海水を主成分として考えて良さそうである(図3)。

このようにして地下に水を蓄えつつある能登半島には、何度も述べたように強い圧縮力が働いている。水が隙間に存在することで岩盤の強度は低下し、逆断層型の群発地震が起きているのではなかろうか?(図3)。そしてこのような地殻変動を繰り返すことによって、能登半島は日本海に突き出したのであろう。

最近になって、金沢大学など12の研究機関が参加し、能登半島群発地震の総合調査が開始された。ここでお話ししたような群発地震のメカニズムについて明らかにされることが期待される。そして何より、何らかの原因で地下に蓄えられた水が減少し、群発地震が終息することを願ってやまない。

ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを経て2021年4月から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

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