拡大を続ける西之島(2):ウナギやアナゴとの素敵な関係

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 日本列島は梅雨入りである。この時期になると、私のような食いしん坊は「梅雨アナゴ」という言葉を思い出す。年中美味いアナゴだが、川から栄養分たっぷりの水が流れ込み始めるこの時期が最高だと言う。また夏が近づくと、今年は2回ある土用の丑の日も待ち遠しくなる。もちろん、平賀源内のキャッチコピーに踊らされる必要はないのだが、夏バテにウナギというのは万葉の時代からある養生術だ。

 このような「国民食」については、決まったように「関東vs.関西」のバトルが勃発する。しかしどちらにも暮らしたことのある私からすれば、きちんと調理されたものは、関の東西を問わず美味い。だがここでは、美食談義を行うことが目的ではない。この美味なる魚たちと西之島の位置する火山帯との深い関係を知って頂きたいのだ。

レプトケファルスの生まれ故郷

 ウナギもアナゴも、お馴染みの成魚に変態する前は「レプトケファルス」と呼ばれる木の葉のように平たくて透明な幼生である。春のおとずれを感じる珍味「のれそれ(兵庫県ではハナタレ)」はアナゴの幼生だ。成魚になると血液中に下痢などを起こすイクシオトキシンと言う毒素が増えるために生食には注意が必要だが、幼生にはこの毒素は含まれないので、生(踊り)を三杯酢などで頂くことが多い。もっとも、SDGsの観点からは控えめに食したいものだ。

 アナゴはまだ課題は多いようだが、ウナギについては黒潮に乗って日本近海までやってきて、一度変態した「シラスウナギ」を養殖するのが一般的だ。しかしいずれのレプトケファルスも、海水温の上昇のせいで黒潮を含む北赤道海流系の塩分濃度や流路が変化して、日本列島沿岸では極端に漁獲量が減っている。

 さて、これらのレプトケファルスが黒潮に乗って南方の海からやってくることは古くから知られていたのだが、その産卵地は長い間不明であった。しかし2000年代になって、東京大学海洋研究所(現大気海洋研究所)と水産総合研究センター(現国立研究開発法人水産研究・教育機構)などが産卵場所の特定に成功した。ウナギは、伊豆諸島の遥か南の「スルガ海山」、アナゴはフィリピン海に1mほど顔を出す岩礁で日本最南端の「沖ノ鳥島」周辺が、彼ら彼女らのランデブー地点であった(図)。

図 ウナギとアナゴの産卵地と海底地形および海流(巽原図)
図 ウナギとアナゴの産卵地と海底地形および海流(巽原図)

2つの海底山脈は2500万年前には1つの火山列島

 産卵地は特定されたのだが、このように日本列島から何千キロも離れた大洋の中の1点で、ウナギやアナゴの成魚が出会うのはいかにも大変である。その経路の秘密は、海底地形にある。図を見れば分かるように、これらの地点は、九州・パラオ海嶺や、伊豆・小笠原から西マリアナへと続く「海底山脈」上にある。成魚はこれらの山脈に沿って南下し、赤道に近づくにつれて低くなる塩分濃度を検知して、逢瀬の地点を認識していると言う。つまりこの2つの海底山脈こそが、ウナギとアナゴにとっては道標になっているのだ。

 さて、ここで前回の話を思い出して頂きたい。これら2つの海底山脈は、もともとは1つの海底火山帯だった。今から約3000万年前、まだ日本列島がアジア大陸の一部であった時代に誕生したこの火山列では、活発な火山活動によって、数千メートルに及ぶ深海底から聳え立つスルガ海山や沖ノ鳥島のような巨大海底火山が形成されていた。しかし2500万年前にこの火山列島が2つに分裂し、伊豆・小笠原・西マリアナ列島は九州・パラオ海嶺を置き去りにしたまま、東へと大移動したのだ。

 その後、伊豆小笠原では火山活動が再開して、西之島を含む多くの火山島が新たに形成されたが、九州・パラオ海嶺や西マリアナでは火山活動は停止している。しかし現在活動と拡大を続ける西之島が誕生した背景に、このようなダイナミックな変動があり、そのおかげで私たちはウナギやアナゴを楽しむことができているのだ。

 火山活動や大地の変動は、今回紹介したウナギやアナゴをはじめとして多くの素敵な恩恵を与えてくれる。しかし、私たちはその恩恵を享受するとともに、噴火や地震などの試練に対して覚悟を持って備えることが必要だ。