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熊本地震と新型コロナで異なるデマの傾向 「商品販売につなげようとするもの多い」 

田中森士ライター・元新聞記者
高齢者にスマホの使い方を指導する那須裕斗さん(提供写真)

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、SNS上のデマが問題となっている。4年前の熊本地震でも多くのデマが蔓延。被災者は振り回された。当時、ネット上のデマ情報を警察に共有していたのが、熊本県内の大学生らによる取り組み「サイバー防犯ボランティア」だ。熊本地震の経験を生かし、今回の新型コロナ関連のデマ情報も収集、警察に共有している。デマ情報の見極め方や熊本地震と今回の傾向の違いなどについて、ボランティアのリーダー・熊本学園大商学部の那須裕斗さん(21)と、ボランティアを指導する同大商学部の堤豊教授(情報科学)に聞いた。

自宅からサイバーパトロール

熊本県内4つの大学の学生らが取り組む「サイバー防犯ボランティア」は、熊本地震の際にも県警と連携してデマ情報の収集にあたった。「拡散希望」のハッシュタグ(#)がつけられていることがあるなど、デマの傾向は見えてきたが、もちろんすべての情報に当てはまるわけではない。「真贋の判断はメンバー同士で話し合いながら慎重に進めた」と当時のリーダーは振り返る。ボランティアでは、「原発で火災が発生している」「○月○日に南海トラフ大地震が起きる」など、48件のデマと考えられる情報を県警に共有した。

「サイバー防犯パトロール」の活動の様子(提供写真)
「サイバー防犯パトロール」の活動の様子(提供写真)

「サイバー防犯ボランティア」は、平時は薬物などの有害情報を収集している。しかし、新型コロナの感染拡大とともにSNS上でデマが目立つようになったことを受け、活動を「災害モード」に切り替え。2月からは新型コロナ関連のデマ情報収集に着手した。新型コロナの影響で大学が休校となっている現在は、学内に集まっての活動は見合わせているものの、余裕のあるメンバーが自宅でパトロールを続けている。

目立つ販売目的の投稿

ボランティアの現リーダー・那須さんによると、2~3月で県警に共有した情報は15件。「○○が新型コロナの予防になる」「○○が新型コロナに効果がある」といった、予防法に関する真偽不明の情報が、SNSユーザーの「善意」で拡散されているケースが目立つという。現時点で有効な治療薬が存在しないことも一因とみられる。

消費者庁による注意喚起の文書
消費者庁による注意喚起の文書

また那須さんによると、熊本地震の際とは異なる傾向として、マスクや「効果がある」とする食品の販売目的の投稿が多い点が挙げられるという。不安をあおるテキストとともに、商品の販売ページへのURLが添付されており、那須さんは「法律違反の可能性が高いものもあった」と指摘する。

SNSユーザーの善意で拡散されるデマ情報は、一気に広がってしまう。那須さんは、「特に非常時において、書いてある情報をうのみにすることは危険だ。情報源や情報の根拠について、拡散させる前に自分で調べてみることが重要」と訴える。

関係機関が動き出した

デマ情報や真偽不明の情報が拡散していることを受けて、関係機関も動き出した。消費者庁は3月10日、新型コロナに対する予防効果を標ぼうする商品について、消費者への注意喚起などを目的とした文書を発表した。文書では「現段階においては客観性及び合理性を欠くものであると考えられ、一般消費者の商品選択に著しく誤認を与える」と指弾。その上で、「景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の規定に違反するおそれが高いものと考えられる」とし、業者に対して改善を要請している。

しかしながら、それでも「善意」によるデマ情報の拡散は、防ぐことが難しいようだ。日本赤十字社医療センター(東京)の医師をかたった、新型コロナに関する真偽不明の情報がSNS上に流れた。情報は一気に拡散。しかし、同センターは今月10日、ホームページ上で「当センターで発信したものではない」と明確に否定した。同ホームページによると、問い合わせが多数寄せられており、業務に多大な支障をきたしているという。

日本赤十字社医療センター(東京)はSNSで拡散した情報について「当センターが発信したものではない」と明確に否定した
日本赤十字社医療センター(東京)はSNSで拡散した情報について「当センターが発信したものではない」と明確に否定した

熊本地震と新型コロナは時間軸が異なる

熊本地震と新型コロナでは、デマの傾向が異なることは先述の通りだが、その要因は何か。「サイバー防犯ボランティア」を指導する堤教授は、「時間軸の違い」を挙げる。

熊本地震のような自然災害の場合、「発災」によって社会やインフラが一気に破壊され、そこから復旧・復興に向けて着実に動き出す。一方、今回の新型コロナは、徐々に状況が悪化していっており、しかもいつ収束するのか先が全く読めない。人々のマインドも現時点では悪化の一途をたどっており、「今後もデマは増えるのではないか」と堤教授は懸念している。

また、堤教授は新型コロナのデマの特徴として、「愉快犯」が比較的少ない点を指摘する。堤教授によると、熊本地震の際は熊本県外からのデマの投稿が多かった。ライオンが逃げたとするデマをTwitterに流し、動植物園の業務を妨害したとして、偽計業務妨害の疑いで熊本県警に逮捕された男も、県外在住だった。つまり、「安全地帯」からの「愉快犯」が目立ったのだという。しかし、局所的な自然災害とは異なり、今回は全世界が似た状況下に置かれている。その意味で、「安全地帯」は存在しない。

商品の販売を目的としたデマについては、「新型コロナの感染拡大に便乗し、人々の不安に付け込んだもので、決して許されるものではない。ただし、今後も同様のデマは出てくるだろう」と推測する。また、「善意」による拡散については、「拡散する人たちは、現在強い不安を感じているからこそ『知り合いも安心させたい』と考える。したがって、新型コロナが収束するまでは、『善意』によるデマ拡散はなくすことが難しいだろう」と堤教授は指摘する。

「今後もデマは増えるのではないか」と話す熊本学園大商学部の堤豊教授=2017年2月、筆者撮影
「今後もデマは増えるのではないか」と話す熊本学園大商学部の堤豊教授=2017年2月、筆者撮影

マスコミの伝え方も重要だ

このままではデマ拡散は収まらない。しかも、TwitterなどオープンなSNSとは異なり、クローズドなコミュニケーションが展開されるLINEは、サイバーパトロールが難しい。だからこそ、堤教授は情報の「判断基準」について、国をはじめとする公的機関がアクセスしやすい場所に示すことが重要だと考えている。公的機関以外の情報は「ソースを調べる」など、ルールやアドバイスを明示することで、デマ拡散が抑制されると訴える。同時に、熊本地震の時のように、警察が取り締まることで、一定の抑止効果も期待できるとしている。

また、堤教授は、マスコミの情報の伝え方も重要だと指摘する。テレビや新聞がスーパーマーケットやドラッグストアなどの空の棚を見せることで、国民は不安になり、買い占めやSNSでの不安をあおる投稿に走る。「マスコミは『いかに不安をあおらないようにするか』という視点を、より強く持つ必要がある」と注文を付けた。

ライター・元新聞記者

株式会社クマベイス代表取締役CEO/ライター。熊本市出身、熊本市在住。熊本県立水俣高校で常勤講師として勤務した後、産経新聞社に入社。神戸総局、松山支局、大阪本社社会部を経て退職し、コンテンツマーケティングの会社「クマベイス」を創業した。熊本地震発生後は、執筆やイベント出演などを通し、被災地の課題を県内外に発信する。本業のマーケティング分野でもForbes JAPAN Web版、日経クロストレンドで執筆するなど積極的に情報発信しており、単著に『カルトブランディング 顧客を熱狂させる技法』(祥伝社新書)、共著に『マーケティングZEN』(日本経済新聞出版)がある。

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