新型コロナが人に与える心理面の影響とは? 「大人の予期不安が子供に影響を与える」と専門家

熊本県臨床心理士会顧問でスクールカウンセラーの江崎百美子さん(筆者撮影)

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、政府が全国の小中高校と特別支援学校に対し臨時休校を要請した。教育現場や家庭などへの影響が懸念されているが、子供たちや親への心理面にはどのような影響があるのか。熊本地震発生時に子供たちの心理面のケアにあたった経験を持つ、熊本県臨床心理士会顧問でスクールカウンセラーの江崎百美子さん(57)に聞いた。

大人の不安は子供に影響を与える

――政府が休校を要請しました。まだ不透明な部分もありますが、多くの学校において休校の可能性があるといえます。仮に休校となった場合、子供たちにどのような影響が出ると考えられますか。

江崎百美子さん(以下、江崎さん)  受験や大会を控えているのであれば、大きなストレスを感じるケースもあるでしょう。ただ、休校になること自体については、子供たちの心理面での影響は限定的だと考えます。子供は適応しようとする力が大人より優れています。例えば親の都合などで環境が変化したとしても、子供は大人よりも早く環境に慣れる。また、子供は夏休みという長期休みを知っているので、今回もどんな生活になるのか想像はつく子が多いでしょう。

――休校になること自体についての心理的影響が限定的だとおっしゃいましたが、それ以外で子供たちがストレスを感じるケースはあるのでしょうか。

江崎さん  私が危惧しているのが、大人の「予期不安」が子供たちに与える影響です。予期不安とは「もし大変なことになったらどうしよう」と考え、不安を感じることを意味します。今回のケースでは、健康や仕事、収入など大人はさまざまな面で大きな不安を抱えています。加えて、臨時休校となれば大人の不安感はより大きくなるでしょう。大人の不安は、子供に「二次的な不安」として影響を与える可能性があります。言葉では説明できない、漠然とした「わけのわからない不安」を子供が感じてしまうのです。

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優しくて思いやりがある。繊細。周りをよく見ている。こうした子は特に「二次的な不安」を感じるリスクが高まります。親や周囲は子供の小さな変化に気を付けて、子供を見守ってあげる必要があります。

「どうしよう」より「こうしよう」

――大人の「予期不安」を防ぐ手立てはあるのでしょうか。

江崎さん  しばらくの間「上手にやりすごす」という考え方が大切になると思います。そのためには「どうしよう」と不安になるのではなく、小さくてもいいので具体的な行動を起こす。「どうしよう」より「こうしよう」です。

今の状況が永遠に続くわけではありません。インターネット上の真偽不明の情報に惑わされず、公的機関や医療機関などから正しい情報を得る。怖がるのではなく「備える」ことが求められます。

インターネットで大量のニュースに触れて、ストレスを感じるというケースもあります。ポイントは「こうなった」という結果を伝えるニュースだけではなく「こうしましょう」という、対策を伝えるニュースに意識を向けることです。「こんなことが起きた、どうしよう」ではなく「こうすればいいんだ」というマインドに持っていき、確かな情報をもとにそれを実行する。それにより不安は大きく軽減されます。したがって、こうした非常時においては、信頼のおける情報源を確保しておくことが何より重要となるのです。

身体活動が低下すると精神活動も低下する

――あらゆる業界で仕事がキャンセルになるなど、先ほど江崎さんがおっしゃったように、生活面への不安を抱える大人が多くいます。また、自宅待機や自宅作業を命じるケースも増えています。

江崎さん  心理的には、家でじっとしていることは、あまりよくないとされています。「身体活動」が低下すると「精神活動」も低下する。精神活動の低下は、心理面でいい状態だとは言えません。したがって、たとえ自宅待機になったとしても、適度に体を動かすことが大切です。普段できない家事、体操、安全面衛生面に問題がないのであれば散歩。とにかく無理のない範囲で体を動かすことを心がけてください。

マインドフルネスやヨガ、動作法なども心理面でいい影響を与えます。動作法は、動きを通して自分の内面を見つめるもので、私もカウンセリング時に使うことがあります。例えば、立った状態のときに、今自分がどんな姿勢なのかを意識します。「右肩が下がっているな」とか「背中が丸くなっているな」といったことを感じる。その後、鏡で実際の姿勢を確認し、姿勢を正します。簡単にできるのでぜひ試してみてください。

あらゆる不安、そして「早く収束してくれ」と焦る気持ち。熊本地震でもそうでしたが、非常時において人は頭の中でいろんなことを考えてしまいます。しかし、何より大切なのは考えることよりも冷静に行動することです。繰り返しになりますが、しばらくの間、上手にやりすごしましょう。

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江崎百美子(えざき・ゆみこ)

公認心理師。臨床心理士。鹿児島県児童総合相談センター・療育指導部に聴能言語訓練士として6年間勤務。熊本地震の際はスクールカウンセラーとして子供のたちの心理面のケアにあたった。現在は、熊本県臨床心理士会顧問、尚絅大学非常勤講師、中・高校のスクールカウンセラー、熊本大学病院カウンセラー、くまもと被害者支援センター心理相談員を務める。