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【熊本地震】みなし仮設“後”の見守りで見えた被災者支援の課題

田中森士ライター・元新聞記者
「見えにくい課題」について語る「minori」の高木聡史代表理事(筆者撮影)

熊本地震から3年9カ月が経過した。被災者の自宅再建が進んだり災害公営住宅が一部で完成したりしたことで、仮設住宅などで暮らす人の数はピーク時から大きく減った。しかし、みなし仮設の住人などへの見守り活動を行っている、一般社団法人「minori」の高木聡史代表理事(52)は「復興は着実に進んでいるが、外からは見えにくい課題を抱える人も多い」と指摘する。

「仮住まい」は5137人にまで減少

熊本県の発表によると、プレハブなどの建設型仮設住宅やみなし仮設で「仮住まい」を送る人の数は、昨年12月31日時点で5137人(2206世帯)と、ピーク時(2017年月5末時点)の4万7800人から大幅に減った。5137人の内訳は、建設型仮設が2049人(890世帯)、みなし仮設3020人(1291世帯)、公営住宅など68人(25世帯)となっている。

プレハブ型の仮設住宅(筆者撮影)
プレハブ型の仮設住宅(筆者撮影)

「minori」は、益城町からの委託を受けて、同町で罹災証明書を取得し、県内のみなし仮設入居者やみなし仮設から退去した人を対象に見守り活動を行っている。ピーク時は約1600世帯ほどだったみなし仮設(退去した人は除く)の見守り対象は、現在は約360世帯にまで減少。「minori」によると、約360世帯は(1)今春以降に完成する災害公営住宅の入居待ちの世帯、(2)区画整理事業の対象地に入っている世帯、(3)再建する自宅の完成待ちの世帯――に大きく分けられるという。

「見えない課題を抱える世帯は多い」

「minori」では、先述の通りみなし仮設から「退去した世帯」の見守りも行っている。「生活再建を果たした」として退去した世帯だが、約200世帯(うち町外に転出は約70~80世帯)で継続的な見守りが必要だと「minori」は判断している。この中には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病の兆候がみられる人も存在するという。

熊本地震の話題になると急に泣き出したりする人やトラックの揺れに過剰に反応する人。朝からアルコールを飲んでいる人もいる。自宅の外に出ることが困難な人も多く、高木さんは「特定の相談員にだけ心を開いてくれるケースもある」と説明する。

見守りをしていても、それでもなお「見えない課題を抱える世帯は多い」と高木さんは感じている。1年半もの間、「minori」が「問題ない」と判定していた世帯において、ある日突然「問題あり」と判定が変わったことがあった。世帯で窓口になるのは、家族のうち特定の人であることが多い。相談員がいつも通り話をして帰ろうとしたところ、後ろから世帯の別の人が走ってきて、ある問題を打ち明けたのだという。「継続的な見守りの必要性がより一層鮮明になった出来事」と高木さんは振り返る。

独自に見守り活動を続ける覚悟

「minori」は、みなし仮設やみなし仮設を退去した人たちの孤立を防ごうと、支援イベント「つながる広場」をこれまでに5回、「おもてなしあい文化祭」を3回開催してきた。加えて、見守りが必要だと判断した約200世帯について、定期的に訪問するなど現在進行形でコミュニケーションをとっている。

「つながる広場」の様子(minori提供)
「つながる広場」の様子(minori提供)

熊本地震から4月で丸4年。「minori」の益城町からの受託事業は、今年3月で終了する。スタッフの数は現在の16人から2人ほどに減る見通しだ。ただし、高木さんたちは「今も地震の影響があるとみられる人(世帯)は一定数存在する以上、その後も独自に見守り活動を続けるつもりだ」としている。

公的機関と民間の「共働」

プレハブなどの建設型仮設は、近い体験をした人が同じエリアに住むため、コミュニティーが生まれやすい。また、支援の手も届きやすい。しかし、みなし仮設は支援に限界がある。さらに、みなし仮設を退去して「生活再建できた」と公的に判断されれば、より支援は難しくなる。

「minori」の見守り活動の、スタッフによる再現(minori提供)
「minori」の見守り活動の、スタッフによる再現(minori提供)

高木さんも「医療機関の診断などがなければ公的かつ継続的な支援は難しい」と課題感を口にする。その上で、「公的機関は『公平性』を遵守しなくてはならない。『自由裁量』で機動性を生かした見守りが可能な民間との『共働』が有効であり、だからこそ私たちが独自に見守りを続けなければならない」と決意をにじませている。

もう一つ、高木さんが課題に感じているのが、ノウハウの共有だ。プレハブ型の仮設住宅については、全国である程度、支援や見守りのノウハウや経験の蓄積がある。しかし、みなし仮設やみなし仮設退去後の見守りについては、「まだ手探り状態」(高木さん)。支援のスピード感にどうしても違いが出る。「minori」では今後、県外の被災地の他団体とも連携して、全国の支援団体のノウハウを共有できる仕組みがつくれないか、検討を進めるという。高木さんは「社会から見過ごされる人を1人でも減らしたい」と話している。

ライター・元新聞記者

株式会社クマベイス代表取締役CEO/ライター。熊本市出身、熊本市在住。熊本県立水俣高校で常勤講師として勤務した後、産経新聞社に入社。神戸総局、松山支局、大阪本社社会部を経て退職し、コンテンツマーケティングの会社「クマベイス」を創業した。熊本地震発生後は、執筆やイベント出演などを通し、被災地の課題を県内外に発信する。本業のマーケティング分野でもForbes JAPAN Web版、日経クロストレンドで執筆するなど積極的に情報発信しており、単著に『カルトブランディング 顧客を熱狂させる技法』(祥伝社新書)、共著に『マーケティングZEN』(日本経済新聞出版)がある。

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