【熊本地震】エコノミークラス症候群「運動と水分補給で予防を」 各地で啓発の動き広がる

背伸びをしてエコノミークラス症候群の予防法を学ぶ、シンポジウム参加者ら=熊本市

熊本地震で多発したエコノミークラス症候群(肺塞栓症)。50人以上が入院し、犠牲者も出た。さらなる被害を防ごうと、熊本地震後、全国各地で同症候群の予防をテーマにしたシンポジウムや講演会が開かれている。本稿では、熊本市で開かれたシンポジウムの内容を踏まえ、改めてその予防について考えたい。

熊本地震では犠牲者も出た

エコノミークラス症候群の予防や啓発につなげようと、熊本市中央区で4月23日に開かれたシンポジウム。地震当時、被災者の血栓の有無を検診し続けた医師らは、「適度な運動と水分補給でエコノミー症候群は予防できる」と何度も訴えた。

エコノミークラス症候群は、ふくらはぎなどの静脈にできた血栓(血の塊)が、肺の血管をつまらせる疾患。重症化すると呼吸困難などを引き起こし、死に至ることもある。

(参考記事)車中泊避難の女性死亡 熊本地震で初 エコノミー症候群と22人診断

同症候群は、長時間同じ姿勢を続けることで、発症リスクが高まると考えられている。熊本地震では、発災直後より多くの被災者が車中泊を続け、発症者数の増加が問題化。犠牲者も出た。県の最終集計では、2016年4月14日以降に入院を必要とした患者数は54人にのぼる。

(参考URL)熊本県:入院を必要とした「エコノミークラス症候群」患者数

災害時の緊張状態が発生リスクを高める

シンポジウムに登壇した熊本大大学院の坂本憲治助教(循環器内科学)によると、坂本助教らのチームが地震後に県内で実施した検診で、ふくらはぎに血栓が見つかったのは、全受診者(2016年4月19日~5月31日)の9.5%。その後の分析で、「70歳以上の高齢」「足がむくんでいる」「ふくらはぎに静脈瘤(コブのように膨らんだ血管)がある」などの項目が、発生リスクを高める因子であると分かった。

災害時には、不安や恐怖による精神的ストレスと、怪我や睡眠不足などによる肉体的ストレスが生じる。結果、試合直前のプロスポーツ選手と同様、交感神経が緊張状態となり、エコノミークラス症候群や心筋梗塞など、心血管病を引き起こすリスクが高まる。坂本助教は「閉じこもらずに運動するなどし、過度のストレスを避けるべきだ」としている。

「過度のストレスを避けるべき」と訴える坂本助教=熊本市
「過度のストレスを避けるべき」と訴える坂本助教=熊本市

続いて登壇した新潟大の榛沢和彦医師(血管外科)によると、血栓ができる要因は主に3つ。窮屈な姿勢や同じ姿勢を続けることで、血液の流れが悪くなること。水分制限や飲酒により、脱水状態となり、血液が濃くなること。打撲など足の怪我により、血管が傷ついた状態となること。これらが、血栓形成のリスクを高めるという。

「血管の傷」は、あまり知られていない要因だ。しかし、東日本大震災では、津波から逃げる際に瓦礫に一時的に足をはさまれるなどし、それが血栓の形成につながった事例が数多く見られたという。

二度の激しい揺れで水分不足に

榛沢医師は、熊本地震では「水分不足」が血栓につながるケースも比較的多かったと見ている。前震から時間を開けることなく本震が襲ったため、備蓄していた水を使い果たした家庭や避難所が続出した。加えて、自宅に戻れず車中泊を続ける人が多かったため、エコノミークラス症候群の発生リスクが高まったのではないか、としている。

弾性ストッキングの有効性を強調する榛沢医師=熊本市
弾性ストッキングの有効性を強調する榛沢医師=熊本市

榛沢医師が提唱する予防法の一つが、適度な運動だ。つま先立ちや背伸びをすることで血流がよくなり、血栓を予防できるという。スペースが確保できない場合は、足の指で「グー」を繰り返すことも有効だ。

また、水分補給も欠かせない。定期的に補給し、少なくとも一日0.8リットル以上は飲むべきだという。果物やお米などにも、水分は含まれる。水が全く手に入らない場合は、水分が多く含まれる食物を摂取することで、しのげる場合もある。

「欧米ではあまり見られない」(榛沢医師)という、避難所での雑魚寝も血栓のリスクを高める。簡単に立ち上がれるベッドと比べ、雑魚寝だと動く機会が少なくなる。榛沢医師は「簡単に設置できるダンボールベッドを導入すべきだ」と訴える。

弾性ストッキングのはき方を説明したマニュアル(日本臨床衛生検査技師会作成)
弾性ストッキングのはき方を説明したマニュアル(日本臨床衛生検査技師会作成)

やむなく車中泊をする場合、どうすればよいのか。榛沢医師は「弾性ストッキング」の使用を推奨する。圧力を与えることで、血液の流れが改善し、血栓防止が期待できるという。榛沢医師は「車の中に置いておくとよいだろう」としている。