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いつまで続く?ホテル朝食ブッフェのビニール手袋

瀧澤信秋ホテル評論家
凹凸があって開きやすいタイプのビニール手袋(筆者撮影)

コロナ禍は社会の様々な常識を変えてきましたが、ホテルのブッフェ朝食でいえばビニール手袋の着用も過去の常識ではあり得なかった光景です。そもそも感染症対策という点で、多くの人々が行き交うブッフェスタイルはコロナ禍において忌避されてきました。ホテル朝食からブッフェスタイルは消え、御膳や定食スタイル等の提供へシフトしました。

形式的という点でのブッフェスタイルの復活については、筆者の中では2020年7月だったと記憶していますが、名古屋の某ビジネスホテルで料理を全て小鉢や小皿に取り分け全てラップをして並べられていました。自由に好きなだけ“盛り付けられる”わけではなく、個々人それぞれに容器だけをピックアップするという形にとどまりましたが、ブッフェスタイルが消え去っていただけに印象的な光景として記憶に残っています。この時、初めて見たのが“ビニール手袋”でした。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

小さな容器に料理を取り分け個別にラップをするのは相当大変な作業なのではないかとスタッフに聞いてみると、まさにその通りでしたが「やはりお客様にブッフェの楽しみを提供したいですから」と、労苦を厭(いと)わない思いにコロナ禍と対峙していくホテルの逞しさを感じました。ホテルグループとして事前の取り分けや個別ラップという点ではプリンスホテルも印象に残っています。感染症対策を徹底しつつ他人の指先が触れないように、スタッフによる料理サーブや個別に取り分けラップをしたお皿をさらに取りやすいよう、交互に配するなどといった工夫に感心したものでした。

ビニール手袋に話を戻すと、その後多くのホテルでブッフェスタイルが復活する際、マスクは当然としてビニール手袋の着用もセットとなりました。面倒さも含め触感への戸惑いや違和感といったゲストの声も当初聞こえてきましたが、コロナ禍も3年を経てホテルブッフェ多頻度利用者にとっては“すっかり慣れた”という方も多いのではないでしょうか。個人的にはこのビニール手袋については質感の差異が気になることがあります。特に五十男?のカサカサ指先の敵は“手袋のビニールが開けない”問題であります。

開けやすいよう上部が一部カットされているタイプも(筆者撮影)
開けやすいよう上部が一部カットされているタイプも(筆者撮影)

ビニール手袋に限らず、先日スーパーマーケットのサッカー台でビニール袋が開けずイライラされている方を見かけましたが、そんなときに役立つのが手指消毒で指先に潤いを与えると難なく開けるようになります。先日ブッフェ会場で見たアンビリバボーな光景は、自身の唾液を指先に付けて開けていた人の姿。何度試しても開かずイライラしてしまう気持ちはわからなくもないですが、感染症対策ということでいえば何となく本末転倒のような気も。一方、ビニール素材に厚みと凹凸があって指先が乾いていようがサッと開けられるスグレモノ手袋も見かけます。

※サムネイル写真も含め本記事写真のビニール手袋は撮影用にホテルから提供いただきました

ビニール手袋にもクオリティーを感じる昨今ですが、薄く張り付いて開けにくいビニール素材の手袋の店舗と開けやすい厚みのある手袋の店舗について、比較という点から取材を試みました(下掲)。運営会社や店舗名、手袋の仕入れ先などは伏せますが、当然厚みと凹凸があって開けやすい方が仕入れは高いかと思いきや意外にも差はないようです。購入枚数などで仕入れ値は変わってくる点など考慮する必要はありそうですがほぼ変わらないコストと言えそうです。

開けやすい手袋のA店舗(120室のビジネスホテル)

購入枚数27,200枚/購入費用32,096円 1枚約1.18円

開けにくい手袋のB店舗(200室のビジネスホテル)

購入枚数66,000枚/購入費用72,600円 1枚約1.1円

(筆者撮影)
(筆者撮影)

そんな開きにくさもあるビニール手袋問題ですが、そもそもビニール手袋を取り出す手間など回避するために、手をかざすと風が出てきて風圧でビニール手袋をフワリと開いてくれるマシンがあります。これを初めてみたのが大阪のホテルで2020年10月でしたが、何ごともアイディアだなぁと感心したものです。このマシンはかなり普及しているようで朝食ブッフェ会場でもよく見かけます。1台5万円ほどで市販もされているようです(感染症対策の設備機器の設置も含め助成金関連のテーマもありますがここでは割愛します)。

さて、ホテル朝食ブッフェのビニール手袋がいつなくなるのか?ということについて、別の視点からひとつ着目すべきが“ホテルが抱えている在庫”という点でしょうか(在庫をはかせなくてはならない!?)。前例の2ホテルについて、それぞれ在庫はどのくらいなのかについても取材協力いただきました(12月23日時点)。

開けやすい手袋のA店舗(120室のビジネスホテル)残10,000枚

開けにくい手袋のB店舗(200室のビジネスホテル)残11,100枚

上記はあくまでも一例で、たとえばBホテルは朝食の人気ホテルだったりなど客室(定員)数、稼働率、喫食率等々もかかわってきますし、ビニール手袋の在庫管理もホテルによって様々でしょう。共通する本音という部分でいくつかのホテルの担当者へ聞いてみると「やめどきがわからない」「在庫があるうちは…」というのもホテルブッフェビニール手袋の実情として見えてきます。少なくとも在庫がはけるまで!?は続くでしょうか。

*    *     *

筆者は医師でもなく感染症対策について門外漢であり、厳密な感染症対策という観点からビニール手袋が必要か不要かについては“正直わからない”のですが、ビニール手袋の徹底をという専門家の声は聞かれなくなっている印象で、逆に“過度な対策はやめましょう”という医師の声もあり、最先端の情報を得ようとするほどに何が正解でホントなのかわからないのもまたコロナ禍であります。

ただ、ホテル評論家としてリアルな現場の姿を見てきた限りにおいては、実は既に廃止をしているホテルもあります。個別に取り分けてもしていないホテルでトングも共用ですが、今年の夏以降で筆者の体験では4つのホテルでビニール手袋を廃止している朝食ブッフェを見かけました。ゲストの方々も一瞬あれ?という表情ですがスムーズにピックアップしつつ楽しんでいるようでした。

こうした動きが徐々に広がっていることも、ひとつの記録という記事の意味合いも込めリアルな現場の姿として付記しておきます。

コロナ禍のいろいろはムードが支配する-というのはこれまで記事でも何度か指摘してきた持論ですが、こうしたホテル名を書けないあたりにもまたこの問題の根深さがあります。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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