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インバウンド活況で問題になった客室の南京虫→いまはコロナ禍でホテル・旅館のダニ問題が水面下で深刻に

瀧澤信秋ホテル評論家
筆者がダニ被害にあった客室と布団(筆者撮影)

使われない客室が増えた

GW(ゴールデンウイーク)ということで、明るいムードを迎えつつある観光業界。一方、GWは満室とはいうものの、その後をみると未だ予断を許さない状況と語る宿泊業関係者の声は多くあります。とはいえGWは高稼働ということで、コロナ禍であまり使用されてこなかった客室を久々に売るというホテルや旅館もあるのではないでしょうか。

稼働が低迷していたコロナ禍において筆者個人の範囲でいえば、宿泊取材で気になることが続きました。寝具やソファを使用中にダニに刺されることが増えたのです。最近ではかなり注意するようになり、布製のソファやチェアに座って少しでもムズムズ感があるとバスタオルを敷いたり(それでも防げないこともある)、そうした場合には布製の椅子やソファを使用しないようにもなりました。

気になるとタオルを敷いたり(筆者撮影)
気になるとタオルを敷いたり(筆者撮影)

しかしベッドはそういうわけにもいきません。昨夏、某旅館での宿泊では忘れられない体験が。取材対象としてアッパーな客室を利用したのですが、普段使われていない部屋だったのでしょうか、6箇所刺されるダニ被害にあい内1箇所は1ヶ月近く腫れが残る状態となりました。また、コロナ禍でクローズしていた沖縄の海辺にあるホテルへ営業再開後宿泊した際には、布製のソファでダニ被害に遭いました。海辺は湿気が出やすいことと関係しているのでしょうか。

最近では、某観光都市にある外資系ホテルの客室ソファでダニに刺されました。聞くとやはりしばらく使用していなかった客室だったとのこと。確かにコロナ禍で使われなくなった客室が増えていると思うのですが、たとえ掃除が済んでいたとしても使用されていない客室は風通しも悪いでしょうし、ダニが発生する条件が整っているのではと想像していました。もちろん同じホテルで各々の部屋にもよるでしょう。陽当たりや湿度など建物内でも位置など関係ありそうです。

こうした被害で思い出すのが、コロナ禍前のインバウンド活況時に海外から持ち込まれたであろう南京虫(トラコジラミ)被害のニュース。とあるホテル支配人によると、インバウンド活況時に確かにこうした状況には憂慮していたといいますが、南京虫ほど厄介なものではないものの、最近ダニについてお客様からの苦情が寄せられることが出てきたと話します。

専門家の見解は?

そんな想像や疑問を抱きつつ、専門家の話を聞いてみるとまさにそのような状況下にあるとのこと。主に寝具のハウスダスト除去を業務としてる株式会社旅館ホテルクリーン(大分県別府市)代表の立石一夫さんによると「機密性の高い宿泊施設の客室は、たとえ清掃がなされていても使用されなければダニが繁殖する環境になる」といいます。

また、「使用されていない期間が長ければ長いほど増殖は著しくなり、部屋を換気もせずにそのままではダニの大量発生につながる」と、コロナ禍で低稼働だったホテルや旅館の客室の現状について憂慮していると話してくれました。

調べてみるとダニは湿度を好み、温度25度以上、湿度70%以上で活性化するとされています。低温・低湿度の冬はダニの活動も弱まるのでしょうが、たとえば沖縄のシーサイドのような湿度が高く温暖な環境は、既にダニの発生に好都合な環境ということになりますし、これから宿泊需要が一定程度戻ってくるとしたら、梅雨の時期というタイミングと重なり各地で同様の条件が生まれるかもしれません。

前出の立石さんによると、ダニは0.2〜0.4mmの大きさで肉眼ではなかなか分からないとし、人間の皮脂や髪の毛、フケ等をエサとしているため、寝具が巣窟化し溜まったものがハウスダストになるので、とにかくダストの除去が重要と警鐘を鳴らします。「ダニの被害は噛まれて痒みを伴うことが大半で、これは外から入った吸血性のあるツメダニによるもの」といいます。

おそらくと前置きした上で「宿泊されるお客様がどこかの草むらや動物に触れたり、地面に腰掛けた等々で衣服に付着するなど何らかの原因でダニが客室まで運ばれ、そこで落とされたダニが増殖しているのではないか」と立石さんは分析します。対策としては送風等で服のダストを落として室内に入ることがベターといえます。難しければ布製のものには掃除機掛けをすることが肝要でしょうが、時短、省人化もテーマの客室掃除で、そこまでやっているホテルは果たしてどのくらいあるのでしょう。

クリーンライブ施工後のハウスダスト
クリーンライブ施工後のハウスダスト

ちなみに立石さんの会社では、クリーンライブ方式という、加熱→振動吸引→除菌消臭→(宿泊施設による)確認・納得というシステムを考案。特許取得の技術でハウスダストが蓄積された寝具を中心に布製品のケアを行っているといい、特に水を使用しないということでカビの心配がなく、施工後に即使用可能な方式で宿泊施設からの依頼が多くあるといいます。

また、レッドシャワーという方式があり、布団やマットレスへ150度〜200度の赤外線を照射しダニや菌を熱処理、水や薬剤も使わず人体に悪影響もないということで、新型コロナウイルスが熱に弱いという点も注目され、コロナ禍での引き合いも増加してきたとのこと。この方式は布団やベッドのみならず布製のソファ等へも対応できるといい、ホテル内の様々な箇所で使えそうな方式といえます。

こうした専門業者による施工は確かに効果がありそうですが、まずは現状の把握という点からも、ダニチェッカーのような器具でダニの有無、発生状況を確認、ダニアースのような薬剤を焚き死滅させてから、拭けるところは拭き、そうできないところは掃除機掛けを徹底してすることは必要かもしれません(それでもダニを完全に除去することは難しいといいます)。

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コロナ禍は社会のあらゆるシーンを変容させてきましたが、目に見えないところまでもこれまでの常識が通用しなくなっています。ホテルや旅館にとって清潔で安全たることは最低条件といえますが、徹底した“衛生”も重要なサービスとなる時代を迎えています。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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