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コロナで“止めを刺され倒産した”ホテルや旅館の特徴

瀧澤信秋ホテル評論家
破綻した「青森国際ホテル」営業当時の客室(筆者撮影)

宿泊業の倒産件数

2020年度(2020年4月~2021年3月)の新型コロナウイルスに関連する宿泊業の倒産件数(事業停止・自主廃業も含む)については、帝国データバンク、東京商工リサーチからの情報で72と報道されている(2021年4月13日現在)。

倒産には至らなくとも、施設別の営業休止なども含めるとその数はもっと増えるが、ホテル・旅館といった宿泊施設の中で、どのようなタイプがどのくらいの割合で倒産や廃業に至ったのだろうか。対象施設の特徴を調べてみると、観光客の訪れない観光地の観光ホテルや旅館が影響を受けたという構図はわかりやすいが、中には都市型ビジネスホテルやシティホテルもみられる。

カテゴライズという点でいうと、観光地のビジネスタイプのホテルや都市部の観光タイプのホテルというケースもあり、タイプ別の確固とした峻別は難しいが、観光客を主眼としていた観光地・観光都市の観光ホテルや旅館を“観光タイプ”/都市部の“シティホテル”/“宿泊特化タイプ”として軒数と共にその傾向をまとめてみた(本稿では運営会社名は省略する)。

【観光タイプ→50】

やはり観光タイプのホテルや旅館は甚大な影響が出ている。老舗、名門といわれた施設もみられる。たとえば、鹿児島県・霧島で50年の歴史を紡いできた「霧島国際ホテル」は2021年5月20日で営業終了する(自主廃業)。客室は130室、源泉かけ流しの温泉なども人気であった。

ゴルフリゾートの廃業もみられた。山口県の「宇部72アジススパホテル」が3月31日営業終了した。1959年開業と経年ホテルではあったものの、71室の客室とレストラン、宴会場、ラジウム温泉の大浴場などもありゴルフクラブの利用者が多かった。ゴルフクラブも運営する会社は解散・清算される。

破綻した「ロイヤルオークホテル スパ&ガーデンズ」(筆者撮影)
破綻した「ロイヤルオークホテル スパ&ガーデンズ」(筆者撮影)

都市型リゾートホテルの大規模倒産も大きなニュースになった。筆者も破綻の現場を記事にまとめた滋賀県の「ロイヤルオークホテル スパ&ガーデンズ」は、宿泊のほかレストランやバー、ウエディングや宴会などでも人気の高いホテルであったが、その規模が祟っての倒産となった。負債は約50億円とされる。

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負債額でいうと、人気旅館として知られていた山口県萩市の「萩本陣」を経営していた「BJC」が約40億円を抱え特別清算となった。地下2000mから湧き出す自家源泉により14種類の湯めぐりが楽しめる温泉や、庭園を囲む回廊式通路など豪華な施設が特色の人気旅館で、現在は別の会社に事業譲渡され、営業を継続している。

倒産、廃業といった施設の多くは予約サイトの口コミで評価が低いケースも多いが、前述してきた施設のように人気とされてきたところも際立っている。ゆえにコロナ禍の爪痕の大きさを改めて感じる。

上記のような大規模の倒産、廃業といったニュースはとかく注目されるが、他方、負債規模1億円未満~2億円程度の小規模な旅館や観光ホテルがかなりの割合を占めることについても留意する必要がある。

【シティホテル→6】

宿泊機能のほかにレストランや宴会場、結婚式といったサービスを提供するホテルをシティホテルというが、宿泊と共にそうしたサービスも収益の柱として運営されている。一方、コロナ禍で人が集うことそのものが忌避される中、収益の柱を失って大打撃を被っている業態であることは想像に難くない。

特に、地方都市のシティホテルでは、大都市部への人口流出という都市そのものが抱える問題もあり、総体的な客数の減少など従来から難しい経営を強いられるケースも多々みられた。そうした中でコロナ禍がトドメを刺したという構図だ。  

2020年5月25日に破産申請した「青森国際ホテル」は、1948年の開業という青森では老舗といわれたシティホテル。負債額は約16億円という。全67室と宿泊部門は小規模で宴会やレストラン部門が主体とした事業展開であった。

実は筆者も地元の経済団体に招かれて講演にこのホテルへ出向いたこともあったが、地元では古くから愛されているホテルという話を主催者から聞いた。多額の投資をしてウエディング・ブライダルなどへも注力してきたが、少子化をはじめ大都市部への若者人口の流出など集客は伸び悩み負債が重くのしかかっていた。

地方都市に限らず大都市部のシティホテルの廃業もニュースになった。1968年創業、福岡で老舗シティホテルとして知られた「タカクラホテル福岡」が1月31日付で事業を停止、自主廃業した。筆者も何度か利用したことがあるが、シャンデリアが印象的な豪華なロビーに美しい調度品も印象的だった。

2011年2月には全客室をリニューアルしていたが、そもそも宴会や会議といった需要のあるホテルで収益の柱でもあったところ、コロナ禍で会議や宴会のキャンセル・延期などが追い討ちとなった。

その他、【宿泊特化型タイプ→16】には、WBFホテル(負債約160億円)やビスタホテル(負債約34億円)のような十数店舗という規模の会社があるのも特徴的だ。他方、独立系ホテルの場合には、大規模チェーンによる支援や買収でグループ化されるケースを聞くが、倒産・廃業ホテルを見ると相当な経年施設や立地に難のある施設、予約サイトの口コミ点数も概して低いところも多く、そもそものポテンシャルが低かったことは想像に難くない。

*  *   *

1年以上も続くコロナ禍において、宿泊業界においても一刻の猶予もない状況が続いている。宿泊施設というのはサービス業のデパートとも称することができるほど、相応なハード・規模だけに関連事業者数も相当、倒産や廃業が地域経済へ与える影響は大きい。

最近では新規開業という明るいニュースもみられるようになり、観光ムードの喚起という点では筆者も注目し情報拡散もするが、同時に破綻の現場、日々苦悶するホテルのリアルにも引き続き着目していきたい。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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